第46話「魔王海軍出撃ッッ!」

 勇者をどうするか──。


 シェイラの言うことはもっともなので、魔王はいったん言葉を切る。


「う、うむ……どうしよう」

「それを決めんのがオメーだよ。ったく、ほらぁあ」


 でん、どん、だーーーん!!


 と、地図の上に、でっかく作戦計画書を並べるシェイラ。


「おぉ! いいのあるじゃーん!」

「『あるじゃーん!』じゃねーよ、徹夜で作ったーつーの!」


 あぁ、よく見れば目に隈が。

 仕事がないとか言ってた割にしっかりと働いているシェイラさん。


「お、おう。せんきゅー」

 その作戦計画を手に取りパラパラと。


「……ふむふむ。『勇者さまに媚び媚び、降伏調印式までのしおり』──……って、ああん??」


 え? なにこれ??

 こ、こっちの冊子は?!


 ぱらぱら……。


「『魔王様暗殺計画』……んんおぉ?──で、こっちは『全面降伏までのフローチャート』って、」


 …………おい。


「あ、間違えました。それ、関係幕僚に配る奴です。……アンタにはこっちです──それ返して」

 暗殺って──。

「……おーーーーーーーーーーーーーい!! なんじゃこりゃ!! ワシの暗殺計画って、ばっちり書いとるやないかい!! しかも、カラー刷り!! さらに、第5刷ってなによ?! もう配布済みなんッ? って、……5回も刷ってんのこれぇぇええー?!」


「うっさい、うっさい、うっさーい」


 シェイラさんはガン無視して、新しい命令書を出すと、ササッと資料類を片付ける。


「おいおいおいおいおいおいおいおい!! 百歩譲って降伏まで考えるのはまぁ許そう! ホントはだめだけど、まぁ外交だもんね!! だけど、なによ? 『魔王様暗殺計画』って!…………おーーーーーーい! めっちゃ分厚い計画で作ってんじゃん?! って、本来の作戦計画書──薄っす! なにこれ? 勇者迎撃の計画書薄くない??」


 ……辞典なみの分厚さのあった『暗殺計画』に比べて、『「対」勇者計画書』のなんと薄いことか!


「おまッ、……これ今日作っただろ?! パパっと作った的なあれでしょ?!──で、なに? その代わりに、寝る間も惜しんで、ワシを暗殺すること考えてるのぉぉおお?!」


「うっせーなぁ、ただのジョークだっつの──ほら、これも一生懸命つくったからぁ」


 ポイっと、魔王に投げつけられた計画書。


 ──うっす!!

 めっちゃ薄いわぁぁああ!


「頑張りましたー」


 嘘つけッ!!

 「対」勇者計画書、5枚しかないやん!!


 表紙と裏表紙入れたら実質3枚……いや、「目次」と「鑑」いれたら実質一枚やーーーーーーん!!


「しかも、誤字脱字ぃぃぃいい!!」


 『勇者迎劇計画』が『劇』になってるよ?! 表紙くらいチェックしろよ!!

 しかも、インクまだ乾いてないよね? これ、マジで今作ったでしょ?


「だーからぁ、うっせーつーの!! いやなら自分で考えろや、ボケっ死ね」


「し、死ねとかお前……! こ、こいつぅ……!」


 しかし、これ以上議論しても拉致が明かないので、「ひっひっふー、ひっひっふー」心を静めつつ計画書をパラリとめくる。


 ──って、発行の日付け今日やんけ……。


 ジロリとシェイラを睨みつつも、計画を流し読み。


「お──────……海洋にて勇者勢力を漸減し、上陸戦にて誘致撃滅すべし……ほうほうほう!」


 意外とまともなことが書かれていたらしく、魔王の機嫌がよくなる。

 そして、よくよく見れば用意された作戦図の上の兵棋は海洋作戦を意識したものらしい。


「……おぉ! そうか!」


 ポンと手を打つ魔王。


「──忘れておったわ!! 我が海軍はいまだ無傷!! 陸戦にばかり気を取られておったが……そうかそうか! そうであった! 海で決着をつければよかったではないか──ガハハハハハ! でかしたぞシェイラ」


「どーもぉ」


 すっごく興味がなさそう。


「ふむふむ。海上機動第一旅団と潜水艦隊の同時襲撃──そして、魔王連合海軍の全力出撃か、ほうほうほうッ!」


 機嫌よさげに地図の上の部隊を確認。

 勇者が乗るとされる艦隊が過少なところに比べ、魔王軍の海上部隊はかなりの数だ。


クラーケン潜水艦巨大ウミガメ航空母艦マーマン海兵隊海竜海兵戦車か!! そして、幽霊船上陸支援艦!! いいぞ、いいぞ──」


 並べられた駒をひとつひとつ確かめる魔王。

 うむうむ。上機嫌。


「む──? 全力の割には少ないな?……第二、第三旅団はどうした? 潜水艦クラーケン空母巨大ウミガメもやけに少なくないか?」

「解雇しました」


 おうおう、なるほど────……。


「──って、解雇ぉぉぉぉおおおお?!」

「はい。昨年」


「昨年んんんんんんん?!」


 え?

 うそ。


 え?


「リアル?」

「いえす」


 ……………………………えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!


「な、ななななななな、なんでぇぇえ? せっかく海上でケリをつけられると思ったのにぃぃい!」

「いや、会計監査が海軍はムダ金使いだって言ってたじゃん。アンタもホイホイ頷くから、兵力は3分の2ほどカットですよ」


 う、


「嘘ぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおお!!」


「いや、ほんと。ホントもほんと。海軍の将軍たち、激おこでしたよ。ほら──」

 そういって、シェイラは『魔王様暗殺計画』の連名者を見せる。


 そうすると、まーーーーー名前がずらりと。見知った名前も多いこと多いこと。


「え? こいつ等全員、ワシの暗殺に賛成? か、海軍おおいねー……」

「まぁ、だいぶ恨みを買ったみたいですよ? あと、会計監査局もですけど──」


 ですよねー。

 うわー……暗殺計画に賛成とか、気分悪いわー。

 こーゆーのって、見ないほうが幸せだよね。


 見せるシェイラもシェイラだけど。


 そーゆーのって、本人たち知られたくないんじゃない? 極秘裏に進めるものだろうし──……て、



「なんで、暗殺計画のトップにお前の名前があるねん!!!」



「あ────」


 あ、じゃねぇ!!

 絶対わざとだろ!!


「つーか、トップ中のトップやんけ!! 全部の組織図お前に繋がっとるやん──!!」


 暗殺計画実行者「シェイラ」

 暗殺計画作成責任者「シェイラ」


「私が作りましたからー」

「作りましたからー……じゃねぇぇえええ!!」


 え?

 なに、ワシ殺されるの?


「てへぺろー」

「可愛くないわ!! 歳を考えろッッ」


「あ、かっちーん」


 すっごい冷たい顔で睨まれる魔王。

「いや、なんでよ!? え、ワシが悪いの────??」

「うん」


 うん────じゃねーーーーーーーー!!


「なんなん? なんなん?! お前らなんなん?!」


 あーーーーーーーーーーーーーーーもーーーーーーーーーーーーーーー!!


「お前がなんだよ。もう、魔王軍終わりだっつってんだよ!!」

「終わってない! 終わってないもーーーーん!! まだやれるもーーーーーん!!」


「おわりだっ、つってんの!!」


 ぎゃーぎゃーぎゃー!

 と騒ぐ魔王たちを地方公務員の魔族の皆さんが気の毒な人見る目で遠巻きにしていた。


 そして、

「えええぃ、離せシェイラ!! 我が魔王軍は不滅なり──────!! 行け、魔王海軍よ!! 勇者を殲滅せよぉぉぉおおおお!」

「──無理ぽぉぉお!」





 バァァッァァアン! と威厳たっぷりに、叫ぶ魔王。





 その叫びが、ブワァァッァァアアアアアア──────と、響いていくように、



 勇者たちのいる海上に場面が切り替わったッッ!!

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最強の勇者パーティに潜入中の魔王軍四天王、女勇者に気に入られる LA軍@多数書籍化(呪具師220万部!) @laguun

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