第38話「魔王軍、────立つッッ!(後編)」
「あ゛?」
しーん…………と、急に静かになった病室にシェイラの言葉がはっきりと響く。
「
「降伏しましょう。……降参。敗北宣言。いわゆる無条件降伏です」
……え。
「え、嫌だけど」
「おい、今なんつった?」
「ヤダぁ」
「…………なんで?」
いや、だってさ。
「それ、ワシって処刑されちゃうよね?」
「多分……? というか、高確率でされるでしょうか? いや、100%ですかね?」
うん───処刑は確実だと思う。
「うん。だから、ヤダ」
ジトっと睨まれる魔王。
「いや、しゃーないでしょ? アンタ責任者なんだし……」
「だからって、ワシばっかり損じゃ~~~ん!! やだやだ処刑やだー!!」
「そこはほら、部下には責任はない───ワシの命をもってして~っとかって、なりません?」
「やーだー!」
ぶーぶーと文句を垂れる魔王。
「それくらいだったら最後まで戦うもん! そぅ、最後の一兵まで───」
「だーかーらー、その『一兵』が、もういないっつーーーの!」
魔王軍に兵なしッッ!!
「やーだぁ!! じゃ、この
そして、最後まで徹底抗戦するという……。
「アンタはヒト〇ーって知ってるぅ!?」
「誰それ? 中世の人物ですかぁ?」
「アンタはヒト〇ーの尻尾だわッ!」
「がはははははは! ヒト〇ーの尻尾の戦いご覧にいれてみせるわぁ!」
はぁ……と深いため息をつくシェイラ。
「……ええから、降伏せぃっちゅうねん」
「やぁだぁぁぁああ!」
やだ、やだ、やだぁぁぁあ!
と、ジタバタと暴れる魔王。
「まだ、あるもん!! 部隊も、少しは残ってるもん!! 四天王だっているもん!! 圧倒的ではないか我が軍はぁぁぁあ!」
これまた、まーーーーーみっともなくジタバタと。
「ねーよ。全部、塵と化したよ。あと、私を頭数にいれんなし」
サキュバスだもん。パワーとか魔法とかに期待すんなし!
普通に考えて、ガチンコで勇者に勝てる気がしない。
特技の魅了という手段もあるにはあるけど……───。
「やだやだやだ! 戦ってよ、もーーーーー! ワシにためにぃぃぃい」
「やだ。絶対ヤダ。少なくとも、お前のためには戦いたくない」
頑なに拒否するシェイラ。
だって、勝ち目ないもん───。
「ひどい! お前四天王だろ?! こーいうときのために体張ってナンボじゃーーーん?!」
「いーやーでーす! つーか、どうやって倒せっちゅ~の?」
「んだよ、あるだろ───こうードカーンって感じで」
「だったらお前がやれよッ! じじい!!」
おっとぉ……シェイラさん、挑発に乗ってしまった───。
「ははぁ~ん、さてはビビってるな? こぉのビビりがぁ~!!」
「あ゛?! 誰がビビリだっつってんだよ、このクソジジイ!!」
ビキスと額に青筋を浮かせたシェイラさん。
腐っても魔王軍四天王。色気だけで出世したわけではない。
「おめぇーだよぉ。戦う前から四の五の言いやがって~」
「ッざけんなし! ビビってんのお前だろうが! ゆ、勇者くらいポポーンってやってやるわよぉ!」
シェイラも意地になって言い返す。
もう、四天王だとか、魔王だとかの威厳無し。
一方、室内に残っていた少女は全く意に介した風もなく、のんびりした様子で窓際に飾られていた花瓶の水を取り替えている。
まぁ、彼女の様子からするにいつものことなのだろう。魔王軍トップ陣が馬鹿なのは……。
「なぁにがポポーンだ! ふへへ…………。ワシ、勇者なんかに、ビビッてないしー。シェイラお前ビビり過ぎぃ」
「んなッ! ヴェイパーの書状見て、テメェが一番テンパってただろうがよー!」
必死に言い返すも、何か知らんが「フフン」と鼻で笑う魔王。
……こいつムカつく───。
その仕草に妙にイラっと来たシェイラだったが、
「ぐぬぅぅ…………。で、でも、兵士が使い物にならいという、『シェルショック』が少しは理解できたんじゃないでしょうか?!」
「へへ~ん。ワシ、ビビッてないもんねー。お前、自分がその
「はぁ?! 私がシェルショックなわけないでしょ?! 四天王ですからぁ! これでもぉ!!」
と、胸を張った瞬間───……!!
パリーーーン!
「ぎゃああああああ!!
不意に何かが割れる音が病室に響き渡りシェイラが頭を抱えて大袈裟に床に伏せる。
そして、わけのわからない言葉でギャーギャーと騒ぎ出したのだが……。
「ご、ごめんなさい。花瓶を割ってしまって……」
しょんぼりとした魔族の少女が魔王に頭を下げている。
それを鷹揚に許した魔王は、ニヤニヤとシェイラを見下すと、
「……ビビり過ぎでしょ」
「び、びびび、ビビってねーし!!」
いや、ビビってるし。
ダメじゃん、四天王ダメじゃん。
「やっかましいわ、お前はどうなんだよ───ジジイ!」
「ワシは大丈夫だもんね~。そんな音くらいでビビんないわーい」
そこに、
花瓶を片付け、床を綺麗に掃除した少女が会見監査局のお土産を取り出した。
「お二人とも、ちょっと休憩されてはいかがですか? こちら、今日届いたお土産───デーモン印のお菓子ですね」
ニッコリと花のように笑う少女に機嫌を良くした魔王。
「ありがとぉ、気が利くねぇ、誰かと違って───」
「殺すぞ、ジジイ」
無視。
「はい、どーぞぉ。シェイラ様もいかがですか?」
「……あんがと」
パカッ。
お高そうな包装を開けて出てきたのは砂糖をまぶした氷菓子。
それはそれはおいしそうで───とても綺麗に、キラキラ輝くお菓子…………。
キラキラ、キラキラと───。
まるであの時の爆発寸前の『魔法結晶』のようで……、
ぎ、
「ぎゃあああああ!
…………今日一番の大声をあげて魔王が叫んだとか、叫んでないとか───。
「おめぇも、ダメじゃん」
うるっせーーー!!
───とりあえず、今日もこの二人は元気だったとかなんとか……。
………………勇者上陸まであと数日───。
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