第23話「任務変更!! 変更ぉぉおお」

「んで、今日は何よ? わたしも暇じゃないんで、さっさと言えや」


 据わった目をしたシェイラさん。美人なだけに、超怖い。


「あ、いや、ほら!! これぇぇえ!! 見て、聞いて、読んで、感じてぇぇぇえ!! もーーーー読んで読んでぇぇえ!」


 …………うっざ。


「ペッ! 貸せよ。ん~……何々? ヴァイパーやるじゃない。細かく勇者パーティを見ている──」

「あの……シェイラ──────さん? 唾とか吐かないで欲しいんですけど」

「はぁっ?」


 ジロリ……。


「すんません」

「けっ。───で、なになに……ふんふん。ふむふむ──────って?!」


 あっ!


「な、見ただろッ?! 気付いただろ! な! な! なぁぁあ!?」


「あ、はい。こ、これは確かに───……」

「なッ?! なっなっなぁ?! なぁ!? 思うだろ? 思うだろぉ!? 絶対思うよな!?」


 な、何してんのコイツ?

 何、敵の弱点を克服してあげちゃってんの???


 そいつ、勇者パーティの回復役だよ?!

 一番最初に仕留めたい候補ナンバーワンだよ?!


 それを……。

 それを……!!


 しかも、絶体絶命のピンチを何で助けてるの???


 え??

 え、え、え???


 えええええ??!!


「い、意味わかんないいでしょ?!」

「い、意味わかりません……!!」


 だろ?

 絶対そうだろ??


「なんで? 何で殺さないの?!」

「何で勇者パーティのメンバー助けちゃってるの?!」


 しかも、トラウマ克服とか……!!

 おまけに、滅茶苦茶強力な浄化魔法の覚醒とか!!


 いや、もう!


「いや、どーーーーすんの、これ??」

「いや、どーーーーしましょうか、これ?」


 最近人手不足気味の魔王軍。

 人材募集もままならないので、墓場を掘り起こしてアンデッドを使役しているんだけど───。

 だけど!!


「「───だけどぉぉぉぉお!!」」


 こ、ここここここ、こんなヤバイ能力持った奴いたら勝ち目ないやん?!

 リッチ高位アンデッドも浄化しちゃうとか、どんだけぇ?


 しかも、効果範囲ヤバくない?!

 数キロ?!


 え? マジ?


 今、魔王軍絶賛再建中で、アンデッドを大量使役して員数合わせてるのに……。


 え? どうすんの?


「え。これ詰んでない?」

「え。あ、はい。ここから巻き返すとか──無理、かと」


 ですよねぇ~?!


「ど、どどどど、どーーーーーすんの?! 再編計画見直し? え、徹夜? え、また徹夜? え、軍部の連中にチクチク嫌味言われながら徹夜? ねぇ?! ねぇ、姉ぇぇえええ!!」

「うっせぇなぁ。寝れる日があるだけでもありがたいと思えッつの……」


 いや、どーーすんのよ?!

 マジにやばいんですけど。


 この大僧正が覚醒しちゃったら、アンデッドの軍隊なんてただの案山子かかしですよ?

 後方でしか使えないばかりか、下手すりゃそれも、おじゃん・・・・……。


「やっべぇ……」


 勇者ナナミだけでも厳しいのに、何を敵に塩を送りまくってるのかな、隠密のヴァイパーさんはよぉぉぉお!!


 しかも、なに?

 添い寝?

 二人の女の子と?


 え?

 ちっちゃい子とイチャイチャ・ラブラブ?


 え?

 いいのそれ?


「ダメでしょ?」

「アウトですね」


 ヴァイパーのアホは気付いてなさそうだけど、これって二人とも完全に惚れてるよね?


 シレ~っとハーレム作りそうだよね?


 なによ、日替わりで添い寝とか。


 え?

 何それ?


 魔王様だって、母ちゃんと添い寝してもらったことくらいしかないよ??


 なにそれ。ズルい。

 ワシも添い寝して欲しい。


「シェ───」

「殺すぞジジイ」


 いや、何も言ってないけど───……。


 え、っていうか今、

「───殺すって言った?」

「さぁ?」


 いや、

 いやいやいや……。


「言ったよね?」

「シツコイと嫌われますよ。クソジジイ」


 あ、ほらぁ!!

 言ってるじゃん!!


「言ってません。殺すなんて言ってません死───ね」


 いや!!

 いやいやいや!!


「言ったじゃん!! 今死ねって言ったじゃん!!」

「言ってねぇつってんだろ! 死ねクソジジイ!!」

「言ってる言ってる!! 言ってる死ぃぃぃね!!」

「お前が死ね! 死ねバーーーーカ!!!」

「あーーーーー! 言ったな、言ったな! はい、減給ッッ! 懲戒処分決定ぇぇえ!」

「はーーーー?! そーいうの、パワハラっていうんですよ!? はい、組合に訴えますぅ」

「やってみろターコ!」

「死ねジジイ!!!!」



 ぎゃーぎゃー!!


 わーわーわー!!



「くっそ! ろくな部下がいねぇえ!! おーじんじ!! オー人事ぃぃぃい!!」

「うるせぇえ!! 経営者がクソ野郎だから部下が苦労してんだよ!! はい、転職ぅぅう!!」



 はぁはぁ……!

 ぜぃぜぃ……!



「くっそ……仕事が終わらねぇ……」

「アンタのせいでしょうが……。あー無駄な時間過ごしたッ!」


 こ、こいつ……。


「言っとくけど、ちゃんと管理職手当はあげてるからね? 知ってる? 四天王は給料イイんだよ?」

「あーはいはい。ひとりで言ってろジジイ。んで何よ? いいからお前は、はよ対策たてろやッ。ヴァイパーの奴、何も分かってないわよ?」


 そうなんだよ……。

 あの子、アホの子なんだよ……。


「いや、お前からもアイデア出してよ。ほら、若い感性ってやつで」

「そー言うの、丸投げとか、無茶振りって言うんですよ」


 そうなんだけどね……。


 いや、だって、どうしろっていうの?

 こんなアホなスパイ、みたことない。


「いっそ撤収命令を出しますか? ヴァイパー抜きの方がまともな戦争できるかもしれませんよ?」

「だよね~……う~~~~~~~~ん」


 魔王デスラードは頭を抱えて悩みこむ。

 ヴァイパーのやっていることは、全部裏目に出ている気がしてならないのだ。


 だが、現在に至るまで勇者パーティに潜入し、正体がバレていないという実績があるうえ、確実に勇者パーティの内情を入手しているのも事実。


 そんな芸当が他の者にできるかというと、それも難しいだろう。


 なにより、一応は勇者パーティの信頼を得ているのだ。

 少なくとも、添い寝するくらいには……。


「も、もう少し様子を見るか……」

「仕方ありませんね───」


 だけどね、敵のトラウマ解消してあげて戦力大幅アップとかは───……。

「───やめて欲しいね~」

「ですね~……」


 うーん……と、考え込む二人。

 ぶっちゃけ、妙案はないのだ。


 こういうのは、一々言わずとも忖度そんたくしてなんぼ・・・ではないだろうか?


「取りあえず、交代要員を探しつつ、現状は命令を厳格にするべきでしょう」

「やっぱそれしかないよね? バカだもんね、アイツ」


 シェイラの意見にウンウンと頷く魔王。


お前・・ほどではないけどね。……コホン、では命令の素案を作りましょう」

「おい」

「まずは、勇者パーティに利することがない様に、しっかりと明文化するべきです」

「おい!」


「何スか?」


 いや、何スか? って軽いねシェイラちゃん。


「お前、口悪すぎ」

「オメェは頭が悪すぎなんだよ」


 ンッだ、このアマ!!

 黙ってりゃ、つけ上がりやがって!!


「テメェ、ごるぁ───」

「辞表出しますよ」


 ………………あ、サーせん。


「もっと誠実に」

「………………すみません。補佐役のシェイラさんがいなくなると、我が軍ガタガタです。ごめんなさい。生意気な口ききません」


 「うむ」とシェイラが満足げに頷き仰け反る。

 大きなおっぱいがブルルんと揺れた。


 おー……。


「では、この程度でいかがでしょう?」


 追加命令(案)

 〇 勇者パーティに利するべからず。


「おー……いいんじゃない? でも、これアイツに分かるかな? 「───利する」っていうとこだけど───これって具体的な基準ってないじゃん?」

「具体的なところは自分で考えてください」


 あ、はい。


「────結局のところ、現地の判断に委ねるしかありません。ヴァイパーが勇者パーティ内で自由に動けるのは、の者が我が軍を相手にしても容赦がないからでしょう」

「確かに……。この命令だと、我が軍に対して指一本触れられなくなるのぉ……」


 うーーーーむ……。


「よし!! こうしよう───」

 ガタンッ! とけたたましい音を立てて立ち上がる魔王は、薙ぎ払うようにして手を払うと命じた。




「隠密のヴァイパー告ぐ、」



 

 魔王デスラードの思い付きに近い命令が届くのは、かなりあとのこと。


※基本命令※

〇いかなる理由があっても勇者パーティのメンバーであると偽れ

〇例え、魔王軍と戦うことがあっても味方と思うな、勇者に協力し信用を獲得せよ

〇ホウレンソウ《報告・連絡・相談》を確実に実施せよ

〇勇者を確実に殺せる隙があれば殺せ───


※追加命令※

〇敵の弱点を最大限に利用せよ

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