第22話「間諜報告書第5報」

 拝啓、魔王様。


 第五報を送ります。


 さて、

 本日は勇者パーティ先鋒とした、大陸における魔王軍拠点の殲滅のための任務に参加。

 不本意なれども、魔王様よりの任務を優先し、勇者パーティに対する支援を実施。

 基本命令を遵守しつつ、勇者パーティの信頼大きく獲得しました。(後述)


 また、じ後報告になりますが、与えられた権限内で情報を勇者パーティに意図的に漏洩したことをお伝えします。

(漏洩情報:補給処の位置、守備兵力、補給処内の詳細地図───)


 この際、魔王軍の侵攻部隊の最大補給処Depoをやむを得ず破壊。

 しかしながら、

 最悪の事態を割けるため、物資鹵獲を防ぐ目的で勇者パーティ側の殲滅魔法を補給処に意図的に着弾させ、物資の焼却に成功しましたので、ご安心ください。


 このため、鹵獲品の流出は最低限に抑えられるだろうと思料しております。


 詳報は以上になります。

 

 【重要】

 勇者パーティの情報について続報


 ・勇者ナナミ、

 戦闘力は未知数。

 聖剣による一撃はアンデッドを一瞬で薙ぎ払うも、波状攻撃には対処困難であることを確認。

 また、危急時の判断には乏しく、本作戦間は一時的に部隊指揮を放棄していたことを確認。


 ・剣聖ソードマスターオーディ、

 小部隊の作戦指揮能力を確認。勇者ナナミが指揮困難に陥った場合、実質的なリーダーを務めることもあると思料。


 ・魔術師長ソーサラーサオリ、

 古代魔法、浮遊術リビティションの使用を確認。

 また、浮遊魔法からの殲滅魔法の多重発動を確認。殲滅魔法は古代魔法『巨星落下メテオシャワー』と思料。

 発動後は術士本人にもキャンセル不可───及び発動方向の調整には多大な魔力を必要とする模様。


 ・大僧正バラモンクリスティ、

 本作戦中に異常行動を確認。

 本人聞き取りによると、幼少時の精神的外傷トラウマから来る、死霊恐怖症アンデッドフィリアに罹患していることを示唆。

 本作戦における我の行動に支障ありと判断、対象に対し精神的聞き取り治療カウンセリングを実施し、トラウマの克服に成功───じ後の信頼関係構築に成功しました。

 また、このことにより、対象のアンデッドに対する恐怖心を完全に払拭。

 その際に見せた神聖魔法の浄化の威力は抜群なり。

 「聖なる御唄ホーリーソング」の威力は、半径2km以上を浄化せしめ、かつその地のおけるアンデッドの気配を予防することにより死霊の気配を完全除去することを確認しました。

 補給処の上級死霊ハイアンデッドのリッチは一瞬で浄化されたことからも、その威力は範囲のみならず浄化力も高位であると思料。

 今後は魔王軍におけるアンデッド運用に著しい制約を与えるものと思料します。


 現段階で確認できた情報です。


【追記】

 作戦地域の過去資料の閲覧許可を申請します。

 申請理由:本作戦地域は古戦場跡につき、未確認戦力による諜報活動の妨害が確認。

(偶然にも、我が軍が200年前に殲滅した人類軍の師団級規模の兵力であったため、当時の記憶を思い出し事なきを得ました)



 現命令の確認

〇いかなる理由があっても勇者パーティのメンバーであると偽れ

〇例え、魔王軍と戦うことがあっても味方と思うな、勇者に協力し信用を獲得せよ

〇ホウレンソウ《報告・連絡・相談》を確実に実施せよ

〇勇者を確実に殺せる隙があれば殺せ───



 以上を順守しつつ、私は身分を隠して勇者パーティの一員として行動を継続中。

 今後も勇者たちの動向を逐次報告します。


 では、次の定例報告または随時の報告指示まで、


 魔王軍四天王、隠密のヴァイパーより、敬具。



 まる



 追伸、

 報告書を記載にあたり、勇者パーティによって与えられた我の個人天幕の中に、勇者ナナミ及び大僧正クリスティが同時に侵入。

 小さな口論のあと、なぜか2人と同衾することになり、報告書作戦の時間が取れず、報告が遅れたことをお詫び申し上げます。

 今後、日替わりで我の個人天幕に来るとのこと。このため非常に監視体制が厳しくなっております。

 定期報告は不可能。隙を見ての随時報告態勢に以降します。



 まる



※ 魔王城にて ※




「まる────じゃねぇぇぇええええ!!」


 うがーーーーー!


 むがーーーーー!!!



 何処かで見たことのある光景の如く唸り声をあげるのは、魔王デスラード。

 怒り心頭と言った様子で、玉座の手すりをバンバン叩いている。

 叩きすぎて、ヒビが入ってボロボロだ。


 ちなみにすでに何度も修理している。


「もーーーーーーーーーーーーーーー!! 何なのコイツぅぅぅうう!!」


 バンバンバンバンバン!!


「めーーーーーーーーーーーー! めーーーーなのぉぉおおお!! 激おこプンプンなのぉぉおお!!」


 バンバンバンバンバン!! メリィ……!


「もう、バッカ!! アイツ馬鹿なの?! ねぇぇぇえ!? ちょっとぉぉぉおお!!」


 バンバンバン───バキ……。


「おうゴラ。それ以上、玉座壊したら会計監査に通報すっからな……」


 バンバンと玉座を叩く魔王デスラードに向かって絶対零度の視線を送るのはやはりこの人──四天王が一人サキュバスのシェイラだった。


「あんだとごらぁ!? 会計監査がなんぼのもんじゃい!!」


 口が過ぎるとばかりにシェイラの胸倉をつかむ魔王だったが、

「んんだとごらぁ……。やんのか、あ゛あ゛ん?!」


 思った以上にシェイラさんブチ切れでした。

 っていうか、目の下の隈がクッキリ───顔色は真っ青というよりも土気色だ。心なしか頬もこけている。


「………………切れんなよ。メンゴメンゴ」


 優秀な部下に嫌われるほど仕事がやりづらいことはないので、「えへへ」と愛想笑いで誤魔化す魔王さま。


「っち……」


 うわ、舌打ちしたよね?


「今、舌打ちしたよね?」

「ペッ!!」


 ぺちゃ……。


 魔王の玉座前に反吐をはくシェイラさん。

 何やらブチ切れ気味です。


「すんません……」


 さすがに形勢が悪いと思ったのかシュンとして謝る魔王さま……。


「テメェが玉座いくつも壊すから、余計な仕事増えるんだっつの!! 会計監査、舐めんなよ?」


 魔王軍会計監査局───。

 泣く子も黙る会計検査の鬼だ。


 羊皮紙1枚の無駄すら見落とさず、サインのずれには目くじらを立てる。

 特に最近は魔王府の金遣いが荒いとかで、会計監査局の密偵がウロチョロしているらしい。


 既に魔王府にもスパイが潜り込んでいるとか……。


 あれ?

 コイツ等を勇者パーティに送り込んだ方がよくない?


「んで、今日はなによ? 何にそんな癇癪たててんの?」


 もはや威厳もクソもない。

 シェイラに至っては完全にタメ口で魔王に接しているし……。

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