第25話「バレちゃいました……」
間諜報告書第───……。
えーと、だ、第なん報だっけ。
さて、
拝啓、魔王様───。
…………すみません。
ピンチです。
報告書に
これは紙面ではなく、
私め、隠密のヴァイパーの思考の中です。
……だって、
今、絶賛大ピンチなんですもの───。
結論から言うと、バレました……………。
はい。もう……。
間諜であると見事に看破されました。
もう、大ピンチです。はい。
「あは、あははは」
ヘラヘラ笑って誤魔化そうとしているけど、無理っぽいです。
だって相手はあの────────……。
「な、ななな、何言ってんスか? さ、サオリさん??」
そう。
ヴァンプの目の前には
人間世界では随一の魔法の使い手で───長命種のなかでも希少種であるハイエルフの聡明な女性がいた。
「……ふ~ん。アタシに二度も同じことを言わせるのですか?」
「あ、いや~……あははは。───な、なんか見当違いのことを言われて頭がフリーズしちゃったっすよ」
ジロっと睨み付けるような視線。
それは、見るものが見れば見惚れるような美貌。
だけど、ヴァンプからすれば敵。
勇者の次に仕留めねばならない、怨敵である。
今でこそ、ヘラヘラと誤魔化しているんだけど、超怖い。
(うう……ヤバいっス)
サオリの美しい容貌がこれほど恐ろしげに見えるとは……。
「ふむ。……頭が凍ったのなら、溶かしてあげましょうか? アタシの魔法なら一瞬で消し炭にできますしね、魔族の戦士さん──」
おっふ。
…………………………やっべ。
冗談通じないモードです。はい。
「いやいやいやいやいや! 消し炭にしちゃ嫌ですって、もー冗談キツイっスよ。あはははははははははは」
「はて? 遠慮しなくてもいいのですよ? 魔族の勇士さん」
ま、魔族ですか、僕。
やばい。
ヤバイ……。
YA・BA・I───!!
やっぱりバレてるよね、これぇ?!
と、とりあえず笑って誤魔化せッ!
「あははは───」
「おや? フリーズした割には凄い汗ですよ? それともこれは、解氷の兆候でしょうかね。───魔族の
ぐ………………!
このアマぁ───……。
うまく濁しているんだから、察しろッちゅうの!!
何回も何回も、魔族魔族言いやがって! 聞こえてないふりしてんの気付けや───!
って……。
あ、そうか。ワザとなのか……!
わざとなんだな!?
「あ、いやははははははははははははは。きょ、今日はいい天気なもんでほら、汗ばむっていうか、あははははははは!」
あははははははははははははは。
あははははははははははははは。
あはー…………。
「今は初冬ですよ? それに、本日は曇り───午後からミゾレの可能性すらありますが……。本当に暑いですか? 魔族の密偵さん」
AHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHA!!
あーはーはー!!
ひゅ~!
ヤベーーーーーーーーーーー!!
思考が全くうまく回らん。
頭パーーーーーーーーンってしそう!!
「どうしたのですか? 魔族の間諜さん? こんな日和でも、魔族風にいえばいい天気なんですかね? 魔族の青年さん」
この腐れマン〇が!
魔族、魔族言うなっつーーーーーの!!
「魔族さーん。どうしたんですかー? 答えてくださーい。魔族さーん!」
うるせぇ!!
「サー・イエッ・サー!」みたいに言葉の最初と最後に「魔族」つけんなし!!
もう、わかったよ!!
誤魔化せませんね、はい!!
「い、いや。あぅぅ…………。さ、サオリしゃん───そのぉ」
「はいな? 魔族さん、何か?」
何かじゃねぇよ!!
お前が何か言いたいんだろうが、このクソアマぁぁあ!
陰湿に言葉でネチネチ、ネチネチネチネチつつきやがって!
あーーーーーーーそうですよ!
俺は魔族ですぅぅぅう。
そう言って欲しいのかっつーーーーの!?
いっそ、ヤケクソになって開き直ってやろうかとも思った。
だって、もう───任務失敗の気配がビンビンしてますもの。
なんせ、バレたのがサオリ。
よりにもよってサオリ───……。
王国の魔術師長で、人類文化圏随一の大賢者のサオリ。
すなわち、知恵者…………。
バレちゃいけない人ナンバーワンに近い。
ナナミや、クリスティくらいのおバカな子供なら口八丁で誤魔化せそうだけど、この腐れアマには通じないだろう。
やばい。
実にマズイ…………。
でも、口を割るわけにはいかない。
「どうしたんですか。魔族さん。急に黙っちゃって??」
「(………………知らんス)」ボソッ。
俺ッチは魔族じゃありません。
「はい? 聞こえませんよ。魔族さ~ん」
………………ぶっ殺しますよ?
「知ーりーまーせーんッス」
「いや、魔族でしょ?」
「違うッス」
「身分証出して」
「お断りします」
「いや、だせやゴラっ」
ぐぬぬぬぬぬぬぬぬ……!
な、何としてでも、誤魔化すのだ!
任務優先───。
基本命令
〇いかなる理由があっても勇者パーティのメンバーであると偽れ
これに抵触するわけにはいかない!
最悪、ヴァンプが自白しなければ大丈夫なはず。
もし、ヴァンプが魔族だという何らかの確信があるなら、とっくに軍に通報されているはず。
そして、冒険者ギルドやら、なんやらの情報を
だって、ヴァンプという冒険者はとっくにこの世にいないのだから。
だけど、
もしかすると……。
「……さ、サオリさん。ど、どどど、どうして俺ッチのことを魔族だと思うんス?」
そう言って、身分証を取り出しサオリに提示する。
実は見られても困るものではない。
こう見えて、この身分証は本物の冒険者ギルドのもの。
正真正銘
……持ち主が、隠密のヴァイパーであることを除けば、だが。
「どうして、ですって?…………ふふふ。理由がわかりませんか? アタシから言わせれば、その動揺っぷりが如実に語っていますよ、と」
ぐ……!
お、落ち着け、俺───。
この女はカマをかけているだけだ。
どこかでヴァンプがミスを出さないかと、虎視眈々と狙っているのだ。
だからいつものようにクールになれ。
クールだ……。氷のようにクールに!!
冷たく、真っ青にクールに───!!
「…………動揺なんかしてないッスよ」
ス───といつものように目を細めたヴァンプ。
目の色はこれで読めないだろう。
そして、
(静まれ、我が鼓動!!)
───むん!!
心臓の鼓動も意志の力で抑えると、冷や汗が一気に引いていく。
「あら?」
ヴァンプが一瞬にして冷静になったことを確認するや、サオリが形のいい唇をキュウと引き上げ妖艶に微笑む。
そして、身分証をチラリと確認すると、
「ふ~ん……。エンデバー地方出身。クメルバ共和国の中央ギルド発効。軽戦士ヴァンプね───」
ふん……いくら身分証を見たって、わかるものか。
身分証ごときでバレるような
つまり、サオリなりに
だが、そうはいくものか。
(……思った通り、
身分証を出させること自体、根拠がない容疑であるということ。
これならばまだ誤魔化しが効くはずだ。
サオリの視線が身分証の文字をツラツラと追っているようだが、あまり熱心には見えなかった。
そのうち、身分証の要綱を全て確認し終わったのか、サオリは肩を竦める。
……疑いは晴れたということだろうか?
「はい、これ返すわね」
そう言って、サオリは身分証を差し出し、
「ありがとッス」
それを受け取るヴァンプ───……が!
ガシリ!!!
「待って」
と、サオリが存外強い力でしっかりとそのヴァンプの手を掴んだ。
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