第12話「俺っチの憂鬱」
「ぼ、僕───アンデッドが、……動く人骨が苦手なんだよッ!」
は───はぁぁああ??
し、神官が?!
「な、何を言っている? お前は神官だろう?! クリスティ、お前が先陣を切れば一騎当千なんだぞ?」
ほら、早く行け! と背を押すオーディにも全力で抵抗するクリスティ。
ぼ───、
「僕に、触るなぁぁあ!!」
そして、いやだいやだと大声で叫ぶクリスティ───。
「あ、ちょ……あんまし騒いだら───」
オロオロと慌てたふりをするヴァンプ。
別に奇襲効果がなくなったとしても、ヴァンプ自身は困らないのだが……。
だが、今のヴァンプは勇者パーティ。
彼女らの味方のふりをするためにもこういった演技は重要。
(これは───俺っチのせいじゃないから、ほっとこうかな……?)
ギャアギャアとうるさいクリスティたち。
その騒ぎが大きくなるにつれ補給処にも当然動きが……。
ヴァンプの鋭敏な感覚が、補給処方向が騒がしくなりつつある気配を察知した。
───あー。こりゃ、バレたな……。
「ちょ、クリスちゃん! 声、声。声大っきいっス!!」
「「「「────え??」」」」
ヴァンプを除く全員が疑問顔────……って、君らね?
言ったよね?
ここ前線ですからーーーーーーーーーーーーーー!!
うぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎ……。
「───チッ!!」
オーディの舌打ち。
その先、不気味な軋み音を立てて現れたのは白骨死体────小柄で素早い個体の、『スケルトンスカウト』だ。
そいつがジリジリと歩いてきやがる……。
「ば! あーもう!! 敵の動哨っスよ! デカい補給処なんだから、歩哨がいっぱいいるってわかんないんスか!? もーーーーー!!」
せっかくここまでおぜん立てしたのに水の泡だ。(それはそれでありだけど……)
もっとも、魔王軍のヴァイパーとしてはあっさり補給処が落ちるのは少々業腹ではある。
だが、今のヴァンプは勇者パーティなのだ。たまには本気で怒って見せるのも必要だろう。
「チィ! クリスティ早く浄化しろぉ!」
オーディが大剣を引き抜きつつクリスティを叱咤する。
まだ距離があるため、切りかかるより広範囲の浄化の方が早い────が、
「や、やだぁぁあ!! ほ、骨やだぁぁああ!!」
───い、いやぁぁぁ!
いやぁぁぁぁああああ!!
スケルトンを見た瞬間クリスティは子供の癇癪の様に絶叫する。
間近にいたヴァンプ達は余りの大声に耳鳴りがするほど──……。
って、まずい!!
「うぎぎぎぎぎ……!!」
アンデッドにはおよそ意志の様なものはない。
とくに肉を失ったスケルトン系はとくにその傾向が顕著であり、ともすれば死霊術士などに操られて単純作業をこなすことしかできないものもいる。
自然発生するスケルトンもいるにはいるのだが、ほとんどが本能的に生者を襲おうとするのみ。
そのへんは、動物や昆虫と変わらない。
だが、ここは腐っても魔王軍の重要拠点。
そこで使役されているスケルトンが、そんな間抜けなモンスターのはずがない。
疲れ知らずのアンデッドを活用して補給態勢を維持している魔王軍なのだから、当然、このスケルトンももれなく死霊術士などに使役されている。
複雑な命令はこなせないが、単純な命令なら忠実にこなす哀れな人形だ!
「まずいッス! そいつは────」
パシュン────……!
───ポォォォオン…………!
「の、狼煙だとぉお?!」
クリスティが役に立たないと判断したオーディは、一気に肉薄しスケルトンスカウトを一撃で仕留める。
バラバラと吹っ飛ぶ骨片───だが、一歩遅かったようだ。
悔し気に唸ったオーディの目前で、小さな花火が打ち上げられる。
爆破魔法と火魔法の組み合わせた単純な魔道具だが、それだけに扱いは軽便。
そして、スケルトンスカウトの役目は単純明快────。
不審者を発見次第、狼煙を上げろ──だ。
「バレたッス! お嬢ッ!! 撤退か強襲の判断を今すぐにッ」
「えええ? え? え? 何? ど、どうしたの?!」
ヴァンプはクリスティの心配をしているナナミの肩を掴むと無理やり振り向かせる。
その陰で小さくしゃがみこんだクリスティが何度も何度しゃくりあげ嗚咽を零している。
だが、今はそれどころじゃない──。
魔王軍のヴァンプとはいえ、変装し姿を偽った状態では魔王軍に襲われる。
いや、それ以上に───ここで敵に利する行動をすれば勇者パーティの信頼は得られない。
「ヴァ、ヴァンプ? な、え? ど、どどど、どうしたら───」
クリスティの混乱に巻き込まれたナナミもどうやらパニックを起こしているらしい。
……所詮は子供か───。
子供に戦争ができるわけがないッ。
馬鹿めが。
馬鹿な人類め───!!
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