第15話「骨っ子どもがぁぁあ!」


 スケルトンローマーの一個中隊───約100隊。


 後方には緊急武装を施された荷役のスケルトンが続々と集結中だ。

 その数はとてつもない規模だが、如何いかんせんスケルトンというのは弱い。


 死霊術士が少しでも頭の回る奴なら、すぐさま近傍の部隊に支援要請を出すだろうけど……。


 ───ま、アイツじゃ無理だろうな。


 ヴァンプは補給処と近傍の地図を入手するため、なんとまぁ、大胆にも自ら堂々と補給処の中へ赴いていた。

 もちろん、魔王軍四天王の『隠密のヴァイパー』として、だ。


 表向きの名目は視察だ。


 いくら味方でも勇者パーティに潜入中と明かすことはできない。

 知っているのは、魔王さまとその腹心くらいなものだろう。

 

 で、だ。

 視察と称して中に入って色々御厄介になったわけだけど。

 その時にみた補給処の指揮官兼死霊術士と、少し会話していたのだ。


 もちろん、視察というのは嘘八百。

 四天王自ら視察なんてするわけがないのだが、敵を欺くならまずは味方から───。


 その偽視察の観点から見て、一言。

 補給処の指揮官は魔王軍の同胞と言え、油断はならない。


 と、思っていたのだが……。


 ───案外普通の奴だった。


 まぁ、重要拠点とはいえ、僻地で指揮官をやってるような奴だ。お世話にも優秀とは言い難い。無能というほどでもないんだけどね。


 それゆえ、ヴァンプは現在の任務を話してはいない。


 抜き打ちの視察と称して補給処に行ったのだ。

 ……そりゃ。一応、平身低頭してましたよ?


 その観点から見て、補給処の指揮官兼死霊術士───……アイツは駄目だ。

 もう、典型的な後方タイプ。

 戦場の空気を知らないので、咄嗟の判断など出来ないだろう。


 ヴァンプが勇者パーティ接近の報を、彼に与えていればまだしも……。

 当然、そんな情報は与えていない。


 それは万が一のことを考えて、死霊術士が捕虜になった際にヴァンプの行動が明るみに出ないように警戒したためだ。


 そして、ヴァンプの手引きもあり、早晩この補給処は落ちるだろう───。


 もっとも、クリスティが役立たずなのは盲点であったが、それでも勇者パーティの戦力はクリスティ抜きでも過剰に過ぎる。


 というか、その気になれば勇者ナナミ一人でぶっ飛ばせるのだ。

 おそらく、オーディやサオリでも時間さえかければ殲滅は可能だろう。


 もちろんヴァンプにも可能だ……。


 だが、今回のヴァンプの任務は偵察。

 すでにそれは達成しているので、これ以上積極的に攻撃に出る必要はない。


 もっとも、勇者パーティからの信頼関係のポイント稼ぎのためにも、活躍して見せるけどね。


(さーて、サボってばかりだと怪しまれるし、ちょこっと働きますかね)


 ガタガタと震えるクリスティを尻目に、すでにオーディを始め勇者パーティの面々は戦闘態勢を取っている。


 魔力感知のできるサオリを除けば、まだパーティのメンバーはアンデッドの位置を正確に把握していない。


(こりゃ、好都合だ……。そんじゃ、ま! 勇者さまに、ちょこっとカッコいいとこ見せて……後は適当にやりますか───)


 ニィと口を笑みの形に歪めると、ヴァンプは愛用している短刀を二本腰から引き出す。

 何の特徴もない数打ち物の短刀だが、その分ありふれており、どこでも入手できる。


 魔王軍の幹部でもあるヴァンプ。その気になればもっといいものを入手できる。

 だが、装備品から所属がバレるわけにはいかないのでこの装備で我慢していた。


 もっとも、今ではこの単刀や他の武器のことを存外気に入っていた。

 魔王軍四天王。武器などなんでもなくても十分に強い!


 さて……、

「───皆、聞くッス! 敵は警備のスケルトンローマーの一個中隊! 数は多いっすけど雑魚っスよ!」


 スチャキと短刀を敵の方向へ向けると、一瞬訝しがったオーディ達はすぐに意図に気付く。


「こ、こっちなのか?!」

「魔力がブレていますが……よく方向が分かりますね?」

「ヴァンプ凄い!!」


 三者三様。


 脳筋のオーディは戦闘に限りヴァンプを信用することにしたようだ。

 サオリは感知系の魔法をすぐさま切り、そのリソースを攻撃魔法に振り分ける。


 パニックから立ち直ったナナミは────聖剣と神剣を二手に構えるながら、ピョンピョン飛び跳ねてヴァンプにくっつく。


 うん……。


 ナナミちゃん、エラいニコニコしてるけど、その剣───あんまし近づけないでね……。

 聖剣の放つピカピカの光は、魔族のヴァンプにはちょっと辛いのよ……。いや、かなり。


「───来るぞ! クリスティは邪魔しないように下がってろ!」

「敵が、固まってくれるなら好都合───初撃はアタシがやります!!」


 サオリが練り上げた魔力が中空に浮かび上がる。


 そして、ヴァンプの予告通りスケルトンの一個中隊が地形の陰から現れる──────!



 うぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎ……。



 不気味な骨の軋み音を立てながら、無言で無表情で不気味に迫る───。


「本当に一個中隊来たわ……やるじゃないヴァンプ」

 パチリとウィンクを寄越すサオリ。

 その表情は美しいというのに、彼女の頭上に浮かび上がった魔法陣は巨大で禍々しい……。そのギャップと言ったら───。


(よくもまぁ……呆れた魔力の量だね)


 いつか敵対したら、あれ・・と戦うのかー……嫌だなー。というのがヴァンプの感想。


 味方であれば頼もしいのだろうが……。



「はぁッ!!」 



 サオリの気合と共に打ち出されるのは大魔法───……いや、あれは古代魔法エンシェントマジック?!


 ヴァンプは間諜として、最大限怪しまれない範囲で情報収集に勤しむ。

 だから今は目を皿のようにして勇者パーティの情報を焼きつけていくのだ。


 その目の前で発動されたのは、なんと巨大な隕石を召喚した魔法だ。

 通常の魔法体系のそれを成していないとは……───魔術師長ソーサラーのサオリ。伊達に長命種なだけはあるってことか!


 そして、次の瞬間───ヴァンプにも見たこともない魔法が炸裂!



 チュドーーーーーーーーーーーーーン!!



 衝撃だけで大爆発を起こし、スケルトンの群れをなぎ倒す。

 一個中隊のど真ん中に突き刺さり、哀れな人骨が爆風によってバラバラと巻き散らかされた。


(す、すっげぇぇ……)


 不死身のスケルトンとはいえ、バラバラになればどうしようもない。




「サオリ───……一人で全部やるなよ!」

 獰猛にオーディが笑っている………………。



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