第16話「掛かってこい!」

「サオリ───……一人で全部やるなよ!」


 剣を構えたままのオーディが不満そうに怒鳴るも、

「その心配はしなくてもいいっスよ」


 短剣を構えたままのヴァンプが言う。


「どうやら、められたみたいッス」



 ヴァンプも知らなかった。

 いや、多分誰も知らなかったのかもしれない……。

 くだんの死霊術士でさえ───。



「は? 何を言ってるの……?」


 怪訝そうな顔をしたサオリだったが、フト直撃した魔法の跡を見れば───。


「な、何? ここは───!!」

「キャァ!」


 それに気づいた瞬間、ナナミが可愛らしい悲鳴を上げる。

 突如として、彼女の足元からボコリと白骨化した腕が伸びあがり、足首をガシリと掴んだのだ。


「な、何だと!? 伏兵?? いや、ま、まさか───」


 ボコッ!

 ボコボコボコッ!!


 沸き立ち始めた地面にオーディも目を剥く。

 そして、ようやく気付いた!


 まさか、ここは───!!


「俺ッチの偵察不足───明確なミスっすね……。どうやら、ここは戦場跡だったみたいっス」



 ボコォォォォォォオン!!!


 爆発するように地面がめくれ上がった。

 そして───。



 ゾルルルル……うぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎッ!


「アンデッド溜りだとぉ?!」


 オーディが飛び退き、土塊を交わした先には大量の白骨!


 なんてこった……!

 サオリの魔法が命中したクレーターには、多数の白骨が埋もれていたのだ。


 すでに泥に塗れたそれは、魔王軍麾下きかのスケルトンローマー1個中隊のものではない……。


 これが魔王軍なものか……!!


 見ろ!

 彼らの装備。

 彼らの旗印───!


 そうとも……。

 ───彼らは元は人類の勇敢なる戦士たち!


 そして、古い───。

 古い、古い……。とても古い、そして、忘れ去られた兵士たちの成れの果てだ!


「な、なんて数だ……!」

「ヴァ、ヴァンプぅぅうう!!」


 アンデッドにからめとられているオーディとナナミ。


「ど、どうして───こんな……」

 その様子をどこか現実離れしたものを見るように、サオリが浮遊魔法で難を逃れながら茫然と見下ろしていた。


「くそ……! 過去資料くらい確認しておけば……!」

 ヴァンプは歯噛みする。

 別に勇者たちがピンチに陥ることはいい。

 それよりも自分の失点により、勇者パーティからの信頼を損ねることの方が問題ないのだ。


「そりゃ~、死体くらいあるッスよね!!」


 実際、この時代においても魔王軍が補給処を置こうと思うくらいに立地条件が良かったんだ。


 そんな場所は古今東西、戦場の緊要地形足り得る───。

 つまり、今も昔も・・・・ここは戦場だったのだ!!


 ドパァァアン!!!


 次々に地面から起き上がる死者の群れ。


 うぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎ……!

 うぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎ……!


 数えるのもウンザリするくらいの、無数のスケルトンが沸き上がった。


 それも、100や200と言った数ではない───。


 千……。いや、万単位の骨、骨、骨!!


「わ、私の魔法のせいで……?!」


 魔族側の死霊術士が、サオリの魔法の跡を見て戦場に埋もれた名もなき白骨たちに勘付いたのだろう。


 そして、広域を跨ぐ死霊術を発動し、埋もれていた死体を起こしたのだ。


 大規模な補給処を運営していた死霊術士のこと。

 これくらいの規模の死霊術を扱っていたとしてもおかしくはない──。


 くそ!!

 せっかく、勇者パーティから信用されてきたってのに!!


「お嬢ぉぉぉぉぉぉぉおおおおお!!」


 白骨の群れの絡めとられ、服の破れたナナミ。

 脚線美と白い肌がチラチラと泥の中に映えて眩しい……。


「おごごごごぉぉ?」


 白骨に口をふさがれ、すっごい格好で目を白黒させるナナミに向かって疾走するヴァンプ。


 今ならナナミの急所を突けるかも───とチラリとよからぬ考えが脳裏に浮かんだが、彼女の傍で者がり込むクリスティの姿と、離れた位置に着地して白骨を振り払い、無茶苦茶に剣を振り回し白骨を薙ぎ払うオーディの姿が見えた。


 さらに上空にいるサオリの位置を考えれば、ヴァンプ一人でナナミを仕留めるのは難しそうだ。


(チャンスってほどでもないか……。ならば、今は貢献度を稼いだ方がいい!!)


 ふんッ!!


 鋭い踏み込みで白骨を薙ぎ払うヴァンプ!

 ノーマルタイプのスケルトンなど、物の数ではない!!


「せぃッ!」


 突進の勢いと、腕の振り抜き───!

 そして、魔族由来の膂力を乗せてスケルトンの大群に痛打を浴びせるッッ!!


 ドカーーーーーーーン!! と土塊と骨片を撒き散らしながら、ヴァンプが一個の暴力装置と成り果て突っ込み粉砕する。


 パラパラパラ……。


「お嬢! 円陣を組むッス──」

「う、うん!」


 白骨にからめとられていたナナミを救出し、空を舞う彼女をキャッチしお姫様抱っこ。

 なぜかウルウルした目で見つめてくるナナミをガン無視して、地面に下ろすと、


「お嬢!!」


 スパッ!! と位置をスイッチしてナナミの背後に立ち全周防御の構え。


「うん! 負けない! ヴァンプがいるなら負けないよ!」


 ───たぁぁぁあああ!!


 ナナミはと言えばヴァンプと背中を合わせて勇気百倍。

 聖剣をブンブンよ振り回し、衝撃波と聖なる力でドカンドカンとスケルトン軍団を薙ぎ払っていく。


 ひとりで何体も……何十体ものスケルトンを切り伏せていくナナミ。

 だが、群がるスケルトンの数が多すぎで死角をカバーできない。


 さすが勇者……。

 ほっといても殲滅しそうだけど、それじゃぁヴァンプの得点が稼げない。

 勇者パーティに貢献しまくって、さらなる信頼を獲得するのだ。

 なによりも、アンデッド溜まりを見逃した失点を回復するためにも!!


 ───ここは良いとこ見せとかないとな!!


 後々のため……。

 そして───。



(それもこれも、魔王軍のため!!)


 ……ひいては、魔王様のため!!



 すぅぅぅ……。

「───お嬢には指一本触れさせないっすよぉぉお!!」


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