第42話「タフネス剣聖!」

 キィィィイイン────……。


「っっぶねー……スねー」


 ヴァンプの顔の前で跳ね上がる歯をつぶした短刀。

 オーディは踏み込み位置から動いていない。


「って、今のをガードするか、やるな……!」

「やるな! じゃ、ねーッスよ! 今の当たってたらタダじゃすんでないッス!」


 プンプンと怒るヴァンプに、キャアキャアと外野の女子三人がオーディを非難する。


「ばーか! オーディのばーか!」

「ヴァンプにケガさせたらタダじゃおかないんだからー」

「魔法、ぶっぱなしますよ? いいかしら?」


 いいわけねーだろ。


「──へ、あたってねぇんだからいいだろう、が!」


 ドンッ! と、追撃に踏み込み!


「く! 剣戟馬鹿に見せかけて、初段からの投擲──……オーさんやるッすね!」

「防いだお前に言われてもうれしくないわぁああ!」


 大ぶりな胴薙ぎ──……からの、二刀流!!


 オーディは腰に差していた二刀目を抜き放ち変則的な一撃をヴァンプに叩きこもうとする。

 無理な体制から引き抜かれた刀が鞘との間にすさまじい摩擦を起こし火花が散る。


「貰ったぁぁあああ────……」あれ?


 トンと、軽い跳躍でオーディの剣にのるヴァンプ。


「んな?!…………馬鹿な?!」

「オーさんの剣は見え見えなんスよ。だから、不意を突いたつもりで、ナイフを投げても無駄なんス」


 体重を感じさせない程軽く剣にのり、そのうえをトコトコと歩くヴァンプ。


「なん、だと!──俺のどこが見え見えだぁぁああ!」


 そういうが早いかオーディは、剣を放り投げ片手の刀をもってヴァンプを追撃する。


 ──するが……。


「そーゆーとこが見え見えなんスよ」


 キィンと、足をオーディの剣をかちあげるとパシリと片手を奪う。

 それを肩ののせて、トントンと──……。


「ヴぁ、ヴァンプ────……お前の武器はどこだぁぁああ!?」


 そこでよーやくオーディが気づいた。

 ヴァンプは初撃のナイフを弾いて以来、剣を一度も使っていないことに。


「だから、そーゆーとこッス。曲芸剣術もいいッスけど、速度の負ける剣士相手に目を離しちゃダメっすよ」

「なん、だと──」


 オーディがつぶやいたその時、ヴァンプが、ニヤリと笑い指で空をチョイチョイと指す──……。


「上かぁぁああ?!」


 見上げた空にはヴァンプは初撃で投げておいたナイフが────……。


「──言った傍から、目をさらしてどうするんスか~」


 ッッッ!!


「こっの!」


 背中にせおあった予備の刀を引き抜き、上空のナイフに対応。

 そして、吹き替える暇も惜しく、手にした刀を逆袈裟に振り上げヴァンプを迎撃するオーディ────……。


「ほーんと、見え見えッスよ」


 ジャキッ!! と、歯をつぶした暗器を両の手の五指に構えていたヴァンプ。


「オーさん、チェックメイトッス!!」


 ズバババババババッ!!


 ヴァンプの接近戦を警戒して振るった刀は盛大に空振り。

 奪われた剣で切りかかってくるものと勘違いしていたオーディはすべてが裏目に出たことを悟る。


 剣を奪ったのもブラフ。

 ナイフは端から囮──……。


 本命は、オーディの空振りを誘うこと!


「ば────うぉぉぉおおおおおお!!」


 ズドドドドドドドドン!


 棒手裏剣型の暗器がオーディに命中。

 だが、それをものともせずオーディは突撃ッ!!


「ちょ、あ、当たったすよね?! え、終わりじゃないんスぅぅう──??」

「この俺が、ちんけな刃物で止まるわけがないだろう────!!」


 ちょ、それって反則!


「忘れたのかッ! ルールその1────どっちかが倒れるまで……だろーが!!」


 あーーーーーそーでしたッ!


「チッす。しゃーない、ちょこっと本気を出すッスよ」

 ヴァンプも侮りすぎていたことを猛省。

 投げナイフくらいで倒れる珠じゃなかった。


 だから、オーディのように本気の一撃を叩き込まねばならないだろう。

 手加減して止まる男ではないッ!


「本当だったら毒入りなんスけどね」


 オーディに当てたナイフは模擬戦用。

 実戦仕様のそれなら猛毒が仕込まれており、一撃で昏倒するほど。


 だが、これは模擬戦──……戦い方を少々変える必要があるらしい。


「おらぁぁぁああああああ!!」


 暴風のように突っ込んでくるオーディ。

 それを迎え撃つヴァンプは、

「力み過ぎっすよ──オーさん!!」


 オーさんって、

「言うんじゃねぇぇええええええ!!」


 ズドンォォンン!!


 と、全体重を乗せた重い一撃をヴァンプに叩き込む────……が、


「うがぁ!」


 手首に伝わる振動にオーディが思わず二刀を落とす。

 

「それは返すっスよ!」

 バキィィイ!! と、延髄を狙った回転蹴り。


 ヴァンプはオーディから鹵獲した剣を甲板に突き刺し裏に回って一撃を防ぎきると、今度はポールダンスのダンサーよろしく、剣の柄をもってクルクルと回転し、連続蹴りをオーディの後頭部に叩き込んだ。


 倒れるまでというなら倒してやろうじゃないかと──……。


「が!……このッ!」

「さすがにタフっすね!」


 都合十数発を叩き込んだというのに、いまだ頭をふらつかせる程度。

 どんだけタフなんだよ!


 少し驚いたヴァンプ。

 だが、オーディの戦闘力を知るよい機会と思い、さらに追撃。


「チョコマカとぉおお!」

「それが俺ッちの戦い方ッスよ!」


 最後にゴキィイン! と思いっきり踵落としをくれてやったというのに、ふらつく程度。

 どンだけぇぇえ!


「ヴぁ、ヴァンプ凄い……」

「かっこいー……」

「さすがアタシの男──」


「「それは違う」」

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