最強の勇者パーティに潜入中の魔王軍四天王、女勇者に気に入られる
LA軍@多数書籍化(呪具師200万部!)
異世界の女勇者
第1話「拝啓、魔王様───」
拝啓、魔王様。
ご命令どおり勇者パーティに潜入いたしました。
本日は取り急ぎ報告します。
さて、
物見の至急電の通り、聖王国は勇者の召喚に成功。
今後は、補佐のメンバーを含めて北上を開始する見込みです。
勇者の名は、ナナミ・ハルカ。
通称「ナナミ」……まだ10代の少女です。
しかし、膂力は常人のそれではなく、既に魔王様を越えるやもしれません。
実力の片鱗は確かに確認しました。
しかも、さらなる能力に目覚めており、ますますの成長を見せております。
今後もより一層の警戒が必要です。
【追加情報】
勇者パーティについて。
彼女は「剣聖」「大僧正」「魔術師長」の3名の仲間を募り、あと一枠を募集──。
「
この「
彼女ら勇者パーティは、現在のところ聖王国近辺で活動中の魔王軍先遣部隊を殲滅中であります。
予想行動は、対魔物戦闘と実戦経験を重ねて実力を付けるものと思料します。
そして、主目標はやはり、魔王様の討伐です。
彼女らは、徐々に力を蓄えながら、魔王様の領域へ向かうと判明しました。まる
また、ご命令通り、
〇 いかなる理由があっても、勇者パーティのメンバーであると偽れ。
〇 例え、魔王軍と戦うことがあっても味方と思うな、勇者に協力し信用を獲得せよ。
〇 ホウレンソウ《報告・連絡・相談》を確実に実施せよ。
以上を順守しつつ、私は身分を隠して勇者パーティの一員として現地判断のもと行動します。まる
今後も勇者たちの動向を逐次報告するので、ご確認よろしくお願いします。
では、次の定例報告、または随時の報告指示まで──。
魔王軍四天王、隠密のヴァイパーより、敬具。まる
あ! 追伸───、
勇者ナナミの命により、魔王軍先遣隊指揮官を暗殺。
じ後、ナナミの指示に従い、背後から部隊を強襲し勇者パーティと共同して先遣部隊を殲滅しました。
その結果、聖王国の前線は人類が確保。
至急、予備隊による戦線維持が急務と認められます。
まる
※ ※
───まる
「…………まる───じゃねぇぇぇええええ!!」
うがーーーーー!
と唸り声をあげるのは灰色の巨躯に、筋肉で引き締まった体。そして、4本の手を持ち二本の角を生やした、いかにも強そうな面構えの魔物だった。
彼の名は魔王『デスラード』
「あの野郎! なぁぁにやってんの!!」
なにやってんの!
なに、やってんの!?
なぁぁぁあに、やっってんのぉぉぉお!!
バンバン!と腰かける玉座の肘置きを叩き、大声で唸る。
周囲に控える魔物の軍勢に幹部たちは、その様子にすっかり怯え切っていた。
「──なぁぁぁぁっぁにやってんだよぉぉぉお!!!」
うがぁぁあーーーーーーーー!!!
唸り続ける魔王は、激高の原因である手紙をクシャクシャと丸めて投げ捨てた。
渾身の力で丸められた手紙は高圧縮され、小指程のサイズになっており、それを魔王の膂力でぶん投げるのだ!
命中した巨大な柱が「チュド~~~~ン!」と爆音を立てて崩れていく!
「ひえーーーー! 魔王様が激おこじゃぁぁあ!」
「お、お気を確かにぃぃぃい!!」
「魔王様ご乱心! 魔王様ご乱心!」
わーわーわー! 騒ぎ立てる魔物たち。
それすらも、魔王には鬱陶しく感じられ。
「鬱陶しいわぁぁぁぁっぁぁぁぁぁあああ!!」
ビリビリビリビリビリ!!!
凄まじい咆哮で空気が揺れる。
「「ひ、ひでぶッ」」
間近にいた魔王軍の幹部の数名は、耳からブシゥッ!と血を吹き出し昏倒した。
「───お、お気を確かに……どうなさいました?」
魔王の玉座に続く階段を数段駆け上がり、片膝をついた妖艶なサキュバスが恭しく進言する。
「シェイラか……! こ、ここここ、これを見よ!」
巨大な手をツィと動かすと、柱にめり込んでいた高圧縮化された手紙がフワフワと浮いてシェイラの手元に落ちる。
「4天王が一人、淫魔のシェイラ────謹んで拝見します……カッタ!?」
これ、かった! かっっった!
なにこれ?!
──メッッッチャ、固いわ!!
サキュバスらしく絶世の美女と言った容貌のシェイラが、鬼のような形相で手紙をなんとか開こうとする。
白目をむいて手紙をほぐす彼女の顔を見て、思わず数名の魔物が吹き出して笑ってしまう。
だが、本人は必死だ。
「ふんぎぎぎぎぎぎぎ…………ぶひー!! ぶひぃぃーーー!!! ふーふーふー……。ん~どれどれ───?」
シェイラの目に最初に留まったのは、魔王軍の封蝋だった。
クシャクシャに丸められたせいでボロボロになってはいるが、辛うじて形が分かる。
蝙蝠が頭蓋骨に泊まっている家紋。
これは確か────。
「隠密のヴァイパーの家紋か……?」
はて?
───確か奴は、魔王様直々に勅命を帯びて任地に向かったはず。
期待されての大抜擢。
任務に忠実。
忠誠心の塊のような男……。
その男の報告書で、魔王が怒るような事態とはいったい──?
「え~っと……拝啓、」
魔王様。
以下略──────。
敬具、
「まる────────……」
まる?
追伸、
「まる────────……」
まる?
「…………ぅぇええ?!」
読み終わってから、ダーラダラと汗を流すシェイラ。
え?
え、え、え?
「え、追伸とか……───え? こ、こここ、これヤバくない?」
「だろ?! だろ?! そーだろぉ!! ねーーー? やべーだろ?! やべーよ! 超やべーーーーーーーーよ!」
魔王がまた怒りを再発させそうに、頭をガシャガシャと掻きむしる。
そして、魔王軍の幹部であるシェイラもその事態に思い至り……顔面蒼白。
「魔王軍の先遣隊って────……えっと、我が軍の主力ですよね?」
「そーーーーーーーーだよ! 主力だよ! 5個師団だよぉぉぉお!!」
うっそ……?
え?
魔王軍の編成は、主に正規軍の5個師団からなる。
その内訳は、四天王がそれぞれ持つ軍団が一個師団。
魔王直属の師団が一個。
その他、将軍クラスの指揮する旅団がいくつかあるだけ。
つまり──────……。
「え? 私の師団…………も?」
「そうだよ! ワシの師団も消えちゃったよ!!!! 滅茶苦茶、最精鋭部隊だったんだぞ! ドラゴンとかもいたんだぞぉお!」
そりゃそうだ。
魔王直属。弱いわけがない。
魔王軍は本気で人類を滅ぼすため、最初っから全力全開!
で、正規軍のほぼ全兵力を投入。
逐次投入は愚の骨頂とばかりに、本気で人類を攻めていたのだ。
それが、件の魔王軍先遣隊。
ヴァイパーの手紙の中に登場した魔王軍のことだ。
うん……。
──もはや、手紙の中にしか存在しない部隊だった。
魔王軍正規部隊の5個師団。
それを、かならず勝てると信じて派兵。
老練かつ四天王最強と称される、
で──────消滅した。
魔王軍四天王、隠密のヴァイパーの手引きによって……。
「────……な、なにやってんの!?」
シェイラも絶望とショックのあまり、顔面シワシワのババアみたいな顔で茫洋と呟く。
「だろ!? なにやってんの?! もう、それしか言えねーーーーーーよぉぉぉお!!」
なにをシレっと魔王軍壊滅させとんねん!
しかも、お前──勇者の指示で、暗殺とか……! ゲルゼバブはお前の同僚じゃん!
同僚の四天王殺してんじゃねーーーーよ!
そんでもって、予備隊って……おまッ!
あ、あるわけねーーーーーだろ!!??
知ってんだろ!!
五個師団、全部消えたわ!
つーーーーーーーか、一個師団は隠密のヴァイパー、お前の師団やっちゅうねん!!
何シレっと自分の部下も殺してんの?
ねぇ!?
ねぇ?!
姉ぇええ?!
───バカなの?
バカだよね?!
───死ぬよ!!
っていうか、死ね!!!
あーーーもーーーーー!
「「何やっとんねん!!!!!!」」
────隠密のヴァイパーーーーーーーーー!!
ヴァイパーーーーーーーー……!
ァイパーーーーー……。
ィパーーー……。
パーー……。
魔族ひしめく暗黒大陸。
そこに
本日未明────……。
魔王軍壊滅の報告を受ける。
世界は救われたかに見えた────。
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