第8話「命令は簡潔明瞭にッ」
※魔王デスラードの居城にて───※
「まる────じゃねぇぇぇええええ!!」
うがーーーーー!
むがーーーーー!!!
何処かで見たことのある光景の如く唸り声をあげるのは、魔王デスラード。
怒り心頭と言った様子で、玉座の肘置きをバンバン叩いている。
不健康なお爺ちゃんが癇癪を起しているようにもみえるが、まぁ言わないでおこう。
「もう、バッカ!! アイツ馬鹿なの?! ねぇぇぇえ!? ちょっとぉぉぉおお!! もぉぉおおおおお!?」
「ど、どうされました魔王様──」
バンバン!!と、玉座の肘置きを連打しつつ、癇癪を起している魔王を慰められるのはやはりこの人ッ!!──魔王軍四天王が一人、サキュバスのシェイラだ。
「いや、もう! これぇえ! これ、読んで!! 読んで読んでぇぇえ! 後半ッ。特に後半! 追伸のとこ、読んでぇぇぇえ!!」
あーーーーーーーー!!
もうーーーーーーーーーーー!!!
駄々っ子のように唸りながらヴァンプの報告書をシェイラに突きつける。
「あーはいはい───ふむふむ……。ほほぅ、中々鋭い考察ですな。これは、よく勇者パーティを見ている──」
「そこじゃないから! 前の方とかいいから、後半! ほらぁ、追伸のとこぉ!!!」
子供の様にバタバタと暴れる魔王。
見苦しいし、威厳もクソもない。
「あ、はい。追伸────…………って、これ?!」
「なッ?! なっなっなぁ?! なぁ!? 思うだろ? 思うだろ!? 普通、思うよな!?」
なんでよ?
ねぇなんでよ?!
───何で殺さないの?!
なんで、そんな絶好のチャンスに殺さないのよ!?
目の前で寝てるとか、油断どころじゃないよ!?
チャンスというか、千載一遇の機会というか────!
あーーーーもう!!
鴨が、ネギと鍋と出汁と薪と竈をいっぺんに持ってきたようなもんだよ?!
イチャついてる場合?
若くて、ちっちゃい子と添い寝してもらって、キャッキャッウフフしてる場合?!
そっち?
ねぇ、ねぇええ?!
ねぇ、ヴァイパーさんよぉ?
そっちなの?
ねぇぇええってばぁ?!
「な、なぁ?! アイツ馬鹿なの? ねぇ、姉ぇ! バカなの?!」
「うるっさいな……。どっちかというとお前も馬鹿──。あ、ごほん────……きっとこれではないですかな?」
「お前、バカっつったよな?」
「言ってません────ほらこれです。報告書のここッ」
〇いかなる理由があっても勇者パーティのメンバーであると偽れ。
〇例え、魔王軍と戦うことがあっても味方と思うな、勇者に協力し信用を獲得せよ。
「ん? 書いてるな────信頼を得るためには絶対に必要なことだ。軍の被害も……────確かに、止むを得んところもある」
「そうです……。ヴァイパーの奴は任務に──そして、魔王様に忠実なのです」
「ん? つまり……?」
ふぅ、とシェイラは疲れた目でため息をつくと、
「恐らく、勇者を殺すことで、『与えられた任務』を達成できないと思ったのでしょう。信頼を獲得するために同衾し、そして勇者パーティのメンバーであると偽るため────勇者を殺せなかったのかと思います」
は?
「そ、それで? それだけのために、───勇者パーティと偽るために殺さなかったの?」
「そうです」
「え? マジで? チャンスがあったのに、───勇者の信頼を獲得するために殺さなかったの?」
「そうです」
…………。
「え? バカじゃん」
「えぇ。ちゃんと、明記しないお前も馬鹿だよ」
「ホントだわ────って、お前……今、馬鹿っていったよね?」
「言ってませんが、何か?」
「え? なんか怒ってる?」
「正規軍が壊滅して以来、まっっっっったく、寝てませんが、何か?」
……冷たい風が流れる。
あ、まぁ魔王城だからいつも風は冷たいんだけど────。
「あー……なんだ。ほら。とりあえず、あれだな。命令に追加しておこう『〇勇者を確実に殺せる隙があれば殺せ』とね」
「よろしいかと────詳細は、現地判断任せなところもありますが、下手な命令はヴァイパーの行動を制限しかねませんね……。軍を滅ぼしたのも、命令のせいかと────」
ちょっと、きつい目で睨むシェイラに魔王は少しだけ体を小さくする。
「あ、はい……。俺のせいですね」
「最終決定権は魔王様ですので」
はい。すんません────。
こうして、魔王からの命令は追加されることになる。
潜入中のヴァンプに命令が届くのは、わりと、すぐ────。
基本命令
〇いかなる理由があっても勇者パーティのメンバーであると偽れ。
〇例え、魔王軍と戦うことがあっても味方と思うな、勇者に協力し信用を獲得せよ。
〇ホウレンソウ《報告・連絡・相談》を確実に実施せよ。
追加命令
〇勇者を確実に殺せる隙があれば殺せ────!
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