第37話「病室ではお静かに(前編)」
「………………まる、以上です」
巨大なベッドに向かって報告書を読み上げたシェイラ。
一方、苦し気に唸るのは魔王その人で、うまく声が出せないのか、震える手で筆談をしているようだ。
「───え~なになに? ったく、字ぃ汚ぇなジジイ」
シェイラがブツブツと文句をぶー垂れるたびに、何か言いたそうにした魔王がベッドをギシギシと軋ませる。
「ふむ……『まる、じゃねーーーーーーー!』って?……これ言うためだけに私を呼んだんですか? 殺しますよ」
ムスっとしたシェイラが本当に殺してやろうかと、点滴をいじくりまわし始めたので、さすがの魔王も飛び起きる。
顔をグルグルに巻いている包帯をほどくと、
「まる、じゃねーーーーーーーーーーー!! ゴヘ、ゴホッ」
激しくせき込み、血反吐をはく。
「きったねーなぁ……。汚いの顔だけにしろよ」
「てめぇ!!」
シェイラを掴もうと腕を伸ばすが余裕で躱されてしまう。
「お触り厳禁。マジで訴えますよ」
「こっの……!」
ゼイゼイと荒い息をつく魔王。
ボタボタと血が滴り相当な重傷だと分かる。
「ほらほら、お爺ちゃんはさっさと寝る。もう、面倒かけないでくださいよ」
ったく……。
シェイラの愚痴を聞きながら苦々しい表情の魔王はいそいそとベッドに潜り込む。
実は、体が相当辛い……。
でも言わねばならぬ……!!
「まる──────じゃねーーーーーっつーーーの!!」
報告書を呼んで全てを理解。
それ以上に、やることなること全て理解できないけどね!!
「何アイツ?! え? なに?! 勇者どもを守るため、魔力結晶送りつけたの?! ねぇ!!」
「はぁ……そうみたいですね」
「「はぁ……」ってオマっ、え? 何なに、シェイラさん腹立たないの? ねぇ、ねぇ、姉ぇぇぇえ!!」
いつものシェイラなら魔王と一緒になってヴァンプを口汚く罵ってるはずだが、今日はちょっと違う様子。
「いや、もう、既に怒り疲れて一周回っちゃった感じです。なので、なんていうか───そろそろいいかな~っと」
「………いや、なにそれ。「そろそろいいかな~」って何よ? 不気味───やめてよぉ」
シェイラさんの目つきは完全諦めムード。
厭世観丸出しで、もはやまともに魔王を見ていない。
「言ったっしょ? 軍はこれで最後だって」
「いや……まぁ言ってたけど、ゴニョゴニョ」
軍の被害は甚大。
魔王も重傷。
そして、拠点足る魔王城は木っ端みじんに吹っ飛んでいた。
「…………つーか、あの時───お前、ワシを盾にしたよね?」
あの時とは……。
もちろん、あの時である。
ヴァンプによって送り付けられた魔法結晶大爆発のことである。
「はぁ、しましたっけ? 知らんス」
プイスとそっぽを向くシェイラ。
聞く耳も反とばかりに、お見舞いに届けられている林檎を一つとって勝手にシャリシャリと。
「おい!!」
「うっせーなー……」
プッ、と林檎の芯を吐きつつジロリと一睨み。
「部下を守るのは上司の務めでしょ……ちッ」
「いや、それ。部下から言うのおかしいからね? 普通は上司が言う言葉よ? っていうか舌打ちすんな!!」
大爆発のとき、ちゃっかり魔王の背中に隠れて難を逃れたシェイラさん。
ほとんど無傷だったのは奇跡に近いだろう。
「あ゛あ゛?! じ後処理誰がやってると思ってんだ、ゴラ!」
ブチ切れ気味のシェイラさん。
ホント大変らしい……。
「…………悪かったよ」
「はぁ…………。ていっても、実際はもうやること殆どないんスけどねー」
遠くを見る目で全てを諦めたようなシェイラ。
そう言えば目の下の隈がなくなっている。
「え? なんで?」
「それを聞きますか、アンタ?」
呆れた顔のシェイラに二の句を継げない魔王。
しかし、組織のトップとして放置しておけない問題だ。
状況の把握はもっとも重要なことなのである。
「うぐ……。と、とにかく現状を教えてくれよ。ここじゃ情報があんまり入ってこないんだよ」
「そりゃあ、アンタ。ちょっと前まで意識不明だったですよ。ここ
そう言うと、シェイラは魔王に向き直り、コホンと咳払い。
「では、報告聞きますか?」
「ゴクリ」
ただならぬ様子につばを飲み込む魔王。
「───まず初めに、いいお話と、悪いお話があります」
「お、おう。」
「どっちから聞きますか?」
んぐ…………。
「わ、悪い方から───」
「はい。では……」
一拍置いてシェイラは告げた。
「我が軍は壊滅しました」
「………………………ですよねー」
じゃ、じゃあ……。
「い、いいお話は?」
「───仕事がなくなりました」
「…………は?」
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