第18話「身を呈してでも───」
「ヴァンプ、だめぇぇえええ!!」
ナナミがヴァンプを止めようと手を伸ばすも、それをスルリと躱して駆け抜ける。
「へへへ。すぐ戻るっス」と笑ったヴァンプの顔が、残像を引くようにナナミの前から消えた───。
だけど、ナナミはそれを良しとしない……!
だって、彼のことが───!!
「ダメ……!」
行っちゃダメ───……。
ヴァ、
「───ヴァンプぅぅぅぅぅううう!!」
───ダンッッッッッ!!
「今行くっスよぉぉお!」
立ち位置に小さなクレーターができるほどの強力な踏み込みで、一瞬にして距離を稼いだヴァンプ。
「「「コカカカカカカカ!!」」」
そこに「行かせはせん!」とばかりに、スケルトンの大群がヴァンプを押しつつもうとする!!
だが!
「押し通ぉぉぉおおる───っス!」
ドッカーーーーーーーーン!!!
立ち塞がるスケルトンの群れを、体一つで薙ぎ払いつつ突っ込む一個の黒い影!
これが勇者パーティの斥候、ヴァンプ!
「うぎぎぎぎぎぎぎき!」
「こかかかかかかかか!」
だが、スケルトンは恐れ知らずのアンデッド! まるで暴走
死者は何も恐れないッ!!
シャァァアアアア!
切れ味の悪い刃がヴァンプを襲う。
さらに、先の折れた槍がヴァンプの体に突き刺さる。
「「うぎぎぎぎぎぎぎき!!」」
ボロボロの歯で生者が憎いとヴァンプに食らいつく。
「ッ……! 魔王軍の最底辺のモンスターにしてはやるッスね」
だが止まらない!!
ヴァンプは止まらない──────!!
すぅぅ……。
「クリスちゃぁぁぁぁぁあん!!」
邪魔だ、どけぇぇえええ!!
ドガガガガガガガガガガ──────!!
安物の短剣を振り回しながら、何重ものスケルトンの群れを薙ぎ払い、何十も何百も何千をも粉砕していく!!
そして、積もり重なったスケルトンの囲みを突破してクリスティの下へ向かうッ!!
そして、ついに到達する。
「ふぅふぅ。ふー……」
白骨に囲まれたクリスティ。
彼女は生きていた……。
自らが
そして、ヴァンプが向かう。
幼子のように泣きじゃくるクリスティのもとへ、……しっかりとした足取りで───。
「……やだよ、やだよ! 出して……! ここから、ここかれ出してぇぇぇえ!」
嫌々をするように、一人───虚ろな目で全てを拒絶するクリスティ。
だけど、誰も彼女に救いの手を差し伸べない───。
誰一人として………………いや。いる。
ここに来た男がいる!
そう!
「クリスちゃん!!」
パッカーーーーーン!! と群がるスケルトンを薙ぎ払うヴァンプ。
よくよく見て見れば、クリスティの法衣はボロボロで素肌がむき出しになっている。
「うぅ……誰か、誰かぁぁぁあ!」
ドワーフのエターナルロリっ子の体は線の細い少女のようで、か弱そうな印象をヴァンプに与えた。
それが、ドワーフきっての神童と言われる最強の神官───大僧正だとしてもだ。
その細い体が、必死でアンデッドの猛攻に耐えている。
「助───……」
「助けに来たっすよ! クリスちゃん!」
スケルトンの囲みを抜けてクリスティの前にたつヴァンプ。
安心させようと目線まで屈みこむのだが、
「いやだ!! 出して! ここから出して!! 暗いのヤダ! 怖い怖い怖い!! 出して、出してぇぇぇええ!!」
出して、出して! と言われてもヴァンプには何のことだからわからない。
それ以前に、クリスはここがどこかもわかっていないのか、まるで幼子のように泣くじゃ来るのみ。
「ちょ……! クリスちゃんおちついて!」
ヒシッ───!!
虚ろな目でヴァンプに縋りつくクリスティ。
ついには、ヴァンプの足をガッチリとホールドして離さない……!
「いたた! クリスちゃん。いてーッス!」
こ、これはまずい!!
スケルトンどもがこの隙を逃すはずが!
「「「コカカカカカカカカカカカカカ」」」
ちぃ!!!
微かに腐敗臭を放ちながらスケルトンたちが迫りくる。
気温が低く、生物が腐りにくい環境のためかスケルトンたちは長年地中にいながら未だ面影を残していた。
さすがに鉄の武器は錆果てているが、衣服や鎧などは原型を保っていたりする。
その様が余計にクリスティの恐怖を呷りたてたようで、彼女がするどい悲鳴をあげる。
「きゃああああああああああ!! やだーーーー!! やだぁぁぁああ!!」
「ちょ! お、おおお、落ち着いてクリスちゃん?! 早くここから離れないと───」
ゴゴゴゴゴゴゴコゴ……!
その時、既に空を覆う巨大な隕石の魔法が発動間近であった。
それをサオリが必死で発動時間を遅らせているが、それもう限界だ!
(ま、まずい……! もう、時間が!!)
殲滅魔法は発動したが最後───ブッ放すまで術者にも制御が効かないのだ!
「ぐぅぅ……ヴ、ヴァンプ! もう……。もう、もたんぞぉぉぉ!!」
野太い声でサオリが叫ぶ。
あのサオリをして、ヴァンプとクリスティのために限界まで耐えているのだ。
ブシュゥウ!!
「がぁ!!」
彼女の肌は魔力の奔流を受け弾け、引き裂け、血だらけになっている!!
だが、
「───ここから出してぇぇぇええええ!」
クリスティには言葉が届かないッッ!!
くっ!
「───クリスちゃん、ゴメンっス!!」
ガバッ!!
「え?! あ……あぅ?」
幼子のように泣きじゃくるクリスティの体を掻き抱くヴァンプ。
しっかりと抱締め、サオリの魔法から守らんとする───。
「ぐおぉぉおお!! む、無理だ! これ以上は限界……だ。ヴァンプ、クリスティ──すまないッ!」
ギリギリまで発動を遅らせ、さらには魔法の咆哮を戦場のど真ん中ではなく、敵に主力後方に指向するサオリ。
それでも魔法の危害半径にヴァンプ達が飲みこまれてしまう───。
「かはぁ……」
殲滅魔法……発動───!!!
カッ─────────!!
「クリスティ!! 目をつぶれ!」
いつものふざけた口調を装う余裕もないのか、ヴァンプは魔王軍隠密のヴァイパーの如く喋ると───。
ガバッ!!
ヴァンプは身を挺して、クリスティを庇った!
その背を盾にし、彼女の小さな体を魔法の奔流から守って見せんとするッ!!
「ヴァ───?」
クリスティの小さな叫びが戦場に響いたかと思ったその瞬間───……。
ズドォォォオオーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます