第35話「丸投げって駄目だと思います」

『拝啓、魔王様─────

 …………何とかして!!!!! まる』



 まる……?




「は…………? 何とかって……え? 何をどうしろと?? え、まる??」

「ま、まる??」


 コロン…………。


「あら? くそジ───魔王様、何か落ちましたよ?」

「お? ホントだ。っておい、今くそジジイつったか?」

「うっせぇボケ」

「…………をい!!」


 コロン。

 コン、コンコン、コン……コー…………。



 コロン……。



「てめぇ、いい加減に──────ん? これって……」

「お前が一々…………あら?」


 綺麗な……。

 それはとても綺麗な───。


「ま、魔法結晶、か? 滅茶苦茶デカいな……。こんなん初めて見たぞ」

「これほどの大きさのものは初めて見ますね───」


 それを魔王が何気なく拾い上げようとして、


 クルリと裏返す。

「……………あれ?」

 な、何やら妙にピカピカしてるけど───……。


「ひ!」


 その意味するところに気付いたシェイラがビクンと背筋を跳ねさせる。


「ちょ、ちょ……! そ、それ、活性化してますよ!!」

「え?」


 ズザザザ!! と気持ちの悪い動きでシェイラが距離を取る。

 ポツネンと残された魔王は魔法結晶を片手にボケらーっと。


「か、活性化?? え、は?」

「───ぼ、暴走寸前です! ば、ばばばばばば、爆弾ですよ、それ!!」


 ば、爆弾?!


「え? うぉ!! あっちぃ!!」


 少し触れただけで熱を持っているのが分かる。

 そして、よくよく見るまでもなくビカビカと不安定に揺れる光が結晶内で渦巻いているッ!!


「ば、」

「爆発するの!?」


 ちょ、

 ちょちょちょちょ、


 ちょーーーーーーーーーー!!


「「ちょっとぉぉおおおおお?!」」


 ヴ、ヴヴヴヴ、ヴァイパーの奴何ちゅうもん送り届けてくれとんねん!!


「『何とかして!!! まる』って、このことかい!!」


 つーーーーーか、

「まる──────じゃねぇぇぇええええ!!」


 じゃねぇぇぇぇええ!


 ねぇぇぇぇぇえ。


 ぇぇえ……。




 その瞬間、魔法結晶のなかで臨界点を迎えた魔力が迸るッッ!!

 サオリの込めた千年の魔力の奔流ががががががががががががががががががが!!



 キュィィィィィィイイイイイン…………。





 カッ────────────!!





 ─────────ズドォォォォオオオオオオオン!!!




「「ぎゃぁぁぁああああああ!!」」



 ドゴォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ───!!!!




 遂にあふれ出した魔力の奔流!


 爆発第一段階!!

 一直線に伸びた魔力の奔流がドキュウウン!! ドキュウウウン!!! と、空を薙ぎ払い、飛竜部隊ワイバーンズを焼き殺していく。


「ひぃぃぃぃぃぃいいい!!」

「あああああ! 私の飛竜部隊がぁぁぁあああ!!」


 魔王の掌の中で殺人光線を次々に解き放つ魔法結晶。

「あちっ、あちっ、あっちぃぃいい!!」

 ここまでくればもう後は大爆発を残すのみ!!


 そして、魔王城を巻き込み───……!!


 『何とかして!!! まる』


「何とか!! 何とかしろシェイラぁぁぁぁあああ!!」

「何とかってなんじゃい!! 具体的に言えや!! つーか、お前が何とかしろ!!!」


 ぎゃーぎゃー!!


 魔王の掌から発射されるようにも見える怪光線!

 次々に撃墜される飛竜からすれば魔王が乱心したようにも見えるだろう。


 そして、ついには地上軍にも炸裂し始め被害が拡大していく。


 スドォォオオンン!!

「「「うぎゃあああああ!!」」」


 ドッカーーーーン!!

「「「ほげぇぇええええ!!」」」


 木の葉のように舞い上がるのは、受閲中の兵士たち!


「ぐおぉぉおおおお!! しぇ、シェイラ! バリアーだ! 魔王城結界を展開しろっ、早く!」

「はぁぁぁ?! ま、魔王城結界てアンタ?! 

い、いいいい、今結界は切っていますよ! 忘れたんですか?? 閲兵式中だし、それに───」


 それに?

 それに、なんじゃぁぁああああ?!


「な、ななななな、なんでもいいから早く!!」

「無理! 無理無理無理無理! 無理ですって! ほら、あれぇ!! 魔王城結界は常時ONにできないって、先月会計監査の時に言われたでしょ?! だから、今ブレーカー落としてんの!!」


 ぶ、

 ブレーカー?!


「はぁぁぁ!? ぶ、ブレーカーだぁぁ?! あ、アホぉぉぉおお!! オマエ、なにしとんねん!!」


 魔王城の結界は以前は常時張りっぱなし。


 外部から招き入れたい者を入場させるときのみ、結界を解除していたのだが、そもそも侵入を阻むべき勇者は遥か彼方。ほとんど機能していないと言っていい。


 それゆえ、常時結界を張り続けているのは非効率的なのではないかと、会計監査に突っ込まれた審議会で質問されたのだ。

 その時にきっちりと必要性を説明するべきは魔王だったのだが……。


「アホは、オメェェーーーだ!! テメェが会計監査に突っ込まれたときにちゃんと説明できずに、しどろもどろに「えー」と「あうー」とか言うてるから、監査にダメだしくらったんだろうが!!」


 そう。以前のことではあるが、魔王様、説明失敗……。


 そして、泣く子も黙る会計監査より、経費削減のため必要なときのみ結界を張れとのお達しが掛かったのだ。

 彼等に逆らうと予算が下りないばかりか、最悪逮捕される案件なのである……。


 ゆえに魔王城結界は必要時のみの展開と相成ったわけだが……。


 一応念のため、普段は日中だけ結界を張るようにしていたのだが、最近は「ON、OFF」が煩わしいということで、日中も切る事がザラにあった。


 しかも、間の悪いことに……。


「た、待機エネルギーが無駄だからって、ブレーカー落とすように言ったの魔王様でしょ?!」

「い、言ったっけ? ワシそんなこと言ったっけ?」


「言った! 言いました!! 「まずはお手本、魔王城から経費削減推進する」とか言って、って、あーーーーーーーーー!」


 ボシュ、ボシュ……!


 殺人光線の奔流が止まったかと思えば、今度は魔法結晶が何やら唸り始めた。

 魔力の奔流が溢れ、結晶がボコボコと形を変えて今にもはちきれそうに───!!


「やばい、やばい!!」

「やばい、やばいやばいやばいやばい!!」


 閲兵台の上で右往左往する魔王たちに、さすがに兵士達もザワザワと───。




 そして、




爆弾だぁぁぁぁああエネミィ フラぁッグ!」

総員伏せろぉぉぉおおオールフォープローン!!!」


 魔王は絶叫する。

 シェイラも頭を抱えて姿勢を低くする。





 そんなことは無意味と知りつつ……!!





「「爆発するファイヤ インぞぉぉぉぉおザ ホールド!」」





 ッッッッ……カ!!


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…………!!



 ───────チュドォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!








 その日、遥か北の大地にて、大陸を揺るがす程の大爆発が確認されたという。

 遠く離れた勇者達のいる地からもその閃光は見えたそうな……。


 そのあまりの衝撃に各国の首脳陣は揺れに揺れた。

 あの光こそ、魔王軍の新兵器、もしくは魔王の強大な魔力の発露なのではないかと……。


 そして、事態を重く見た世界各国は勇者の進撃を全面サポート。

 当面は大陸に侵攻したの魔族の駆逐を世界中に騎士団が担うことに。


 かわりとして、勇者ナナミのパーティは海路を使って魔王領へ直接進撃することが決定した。


 それは、

 一撃の元に魔王軍の本拠地を強襲し、魔王の首を狙う少数精鋭を中心とした特殊作戦の開始であった……。





 ついに勇者たちは魔王を討つべくして、魔王領へと乗り出す──────。

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