第3話「素晴らしき仲間達」
──決闘じゃぁぁあああ!!
激高する王太子。
対して、
「あ、そう言うの良いッス。俺───負けでいいッスよ」
ハイ降参~! と手を挙げて、どこに隠し持っていたのか白いナプキンで白旗まで降ってるし……。
「ふざけるなぁぁぁぁあああ!! ぶった切ってくれるわ───」
シャキーーーーーン! と、腰にぶら下げた細剣を抜き出す……。あれ? 抜き出す───……。
「ぬぐ……! このッ、な、なかなか抜けない……!」
「あー……体格と剣の長さがあってないっすよ。背低いし、ちょっとおデブなんだから、そんな
シュラン───と、王太子の補助をして細剣を抜いてあげると、
「ほほーい、顔とか胸とか急所以外ならどこ刺してもイーっスよ。あ、細かい狙いはコッチで調整するので───」
「ふ、ふふふふ、ふざけるなぁぁぁああ!!」
ドスッ──────……!
「ヴァンプ!?」
余りの出来事に周りが硬直している間に、王太子の狂剣がヴァンプの肩に突き刺さっていた。
「いてててて……。あー、いった~……急所ダメって言ったスよね?───顔狙ったのは反則っす……だから、もういいっスか?」
ズボッ──────ブシュウ……!
何でもないように細剣を引き抜くと、綺麗にナプキンで血を拭き取り、王太子の鞘に戻してやる。
ドクドク流れる血も、何のその───。
むしろ、うまく調整して流血を王太子の顔面に吹っ掛けているようにすら見える。
当然、剣の扱いから見ても分かる通り、剣を扱ったことなどほとんどない王太子は顔についた血を見て放心状態になっている。
存外、刺した感触も気持ち悪かったらしい。
ひ、
「───ひ、ひぃぃぃいいい!!」
あとは、勝手に腰を抜かして、まー…見っとも無い声を上げている。
呆気に取られていた近衛兵が、ようやく動き出し王太子を運んでいく。
こうなればもうおしまいだ。
勇者パーティがおしまい───ではない。
このクソくだらない戦勝パーティが、だ。
国王ら、主催がいなくなったこともあり、参加者も若干白けた様子で三々五々帰っていく。
所詮は顔つなぎ程度のパーティだ。
勇者に顔を売っておけば後はそれでいいのだ。
誰も彼もパーティが長引くことなど望んでいないものである。
「ヴァンプ! ヴァンプぅぅぅ!」
だが、帰っていく来賓とは別に、ナナミは一人泣きながらヴァンプに縋りついている。
「ごめん! ごめんね! 痛いよね?!」
「お嬢は悪くないっすよ。まぁちょっと痛いけど……クリスちゃん、お願い~」
ヴァンプはヘラヘラと笑いながら、ため息をついている神官の少女に緩く頼む。
「はぁ……。いいですけどね。それから、僕はクリスティです!」
───
パァァァァア……。
淡い光がヴァンプの肩口にあつまり、見る見るうちに傷が引いていく。
本当なら御典医なり、なんなりが治療するのが筋だと思うのだが……。
勇者パーティとは言え、貴族というわけでもないし、ましてや先ほど王や王太子と揉めたものである。
この場に聖王国側の人間としては手を出し辛かったのだろう。うん……そういうことにしとく。
「おー……さすがは大僧正さま!───ドワーフ族の神童と言われるだけあるっすね」
「神童って……何年前の話ですか! 僕はこう見えて200歳ですよ!」
あ、なるほど……。
ドワーフの女性は外見上あまり成長しない。
人間でいうところの十代くらいで見た目の成長が止まるの常だった。
「あーめんご、めんご! チンマイから間違えたッス!」
「小さくないッ!」
プリプリ怒るクリスティとヴァンプのやり取りが漫才染みていているおかげで、泣きじゃくるナナミの悲壮感が薄れている。
ナナミからすれば自分が上手くあしらえなかったから、ヴァンプが犠牲になったと考えているのだろう。
「ほら、お嬢───もう治ったッス。そろそろ離してくんないですかね?」
ブンブンブン!!
何故か全力否定。
腰に抱き着き、顔をグリグリと押し付けてくる。
「あー……。じゃぁ、──────えっと、あ」
どうしようかと思案するヴァンプは、
「───うん…………。いだだだだだだだだ! お嬢がしがみ付いてるから痛い、痛い、痛ーーーい!」
「うわ、大根芝居……」
ジト目で睨むクリスティとは裏腹に、
「え?! えええ?! ご、ごめんヴァンプ! ごめんね!!」
素直なナナミはすぐに離れると顔を上げてヴァンプに謝罪する。
だが、
「うっそです~」
ピョンと跳ね起きると、ナナミから距離をとる。
「う、うそ?!」
「回復してもらったの見てたでしょ?……だから、」
バッチン!!───「はぶぁあッ!」
「馬鹿ッ! 嫌い! ヴァンプ、大きっらい!!」
ぶは……。
「お、お嬢───……加減してよ」
ドクドクと鼻血を流すヴァンプ。
今度ばかしはヘラヘラしていられない。
なんせ、勇者の膂力でぶん殴られたのだ。
床で何とか踏ん張ったものの、ぶっ飛んでいってもおかしくはなかった。
あ、床板割れてるし……。
ナナミはナナミで、顔を赤くして走り去ってしまった。ありゃ、泣いてた?
「く、クリスちゃん……回復おね」
「嫌です。自業自得です───あと、僕はクリスティです」
ふん、だッ! とプリプリと肩をいからせて去っていくクリスティ。多分回復してくんない……。
ぐは……。
歯も折れてるっぽいぞ、これ!
「女の子を泣かせちゃだめですよ」
泣いてるのは、俺だよ!
……次に声をかけてきたのは魔術師長のサオリ。妙齢の女性といった風貌だが、これで500歳だという。
エルフもドワーフも長命種族なので見た目では分からない。
「あううう……サオリしゃん───回復して」
「アタシに頼むと高くつきますよ?」
え?
金獲るの?!
「い、いくら……」
「金貨10枚」
たっか!
……たぁっっか!!!
「な、仲間でしょ?」
「公私混同はしませんので」
薄情!!
あまりにも薄情!
「もういいッス。このまま一生鼻血を出し続けて出血多量で死ぬッス。墓には『ヴァンプ鼻血で死す』と書いてくださいっス」
「わかりました───王立記録院にそう申請しておきましょう───
ふわぁ……。と風が流れて、「ヴァンプ鼻血で死す」という淡い文字がキラキラと輝きながらどこかへ飛んでいく。
「え? ……古代魔法使ったス?!」
「はい。アナタの遺言のようでしたので、ぜひ……。王立記録院なら、アタシが存命の間はずっと記録として残しておきますよ」
いや、冗談なのに……。
「あ、冗談ッス。取り消します───」
「あ、無理です。でも、閲覧は自由ですから誰でも確認できますよ。目立つように記録院の今日の『真言』にアップしておきますね」
やめて!
めっちゃ、恥ずかしい!!
「では、これで───」
スタスタと歩き去っていく、クソ陰険アホ魔術師───。
「あ、取り消す方法がありました」
訂正。
世界一凄い、天才美女魔術師長の大先生。
「アタシが死ぬか、記録院がなくなれば取り消せますよ」
訂正。死ね───このクソビッチ。
「ちなみに、アタシはハイエルフ───殺されない限り、寿命で死ぬことはありませんよ」
殺すリスト入り、決定!
「その辺にしといてやれよ」
むぎぎぎぎ、と鼻血面でヴァンプが唸っていると、肩を貸してくれる頼もしい背中。
「オーさん! さすが話の分かる人!」
「オーさん言うな! オッサンみたいに聞こえるだろうが! 呼び捨てでいいからオーディにしろッ」
そういいつつも冷たい視線。
あ、そうそう……。オーディはヴァンプのことをあまり好きではないのだ。
真正面からバリバリと敵と打ち合うオーディからすると、暗殺や斥候といった暗がりでコソコソするような戦闘スタイルが気にくわないという。
「あーい……オーディちゃん」
「ぶっ殺すぞ」
モノスッゴイ至近距離からにらまれる。
うわ───顔こっわ!
「って、オーディっち顔真っ赤っすよ?───ははん。さては俺ッチに気が、」
ゴッキン!───「いっだ!」
「俺は下戸だ……! あんまり酒には強くない───酒は嫌いではないがな」
そーいうのは、言う前に殴らないでよ……。
うわ───鼻血が両方から出てきた。
そのままズルズルと引き摺るようにしてヴァンプは連行されると、オーディの手によって与えられた自室に放り込まれた。
「朝まで大人しくしてろ───いらぬ騒ぎを起こしたせいで酒がまずくなった」
「ごめんっす───あ、医者呼んでくれないっす?
バターーーーーーン!!
「…………あ、っす。どもっす」
結局、ポーション飲んで治しました。
勇者パワーだったので、ハイポーションを二本も……。
くそ、出費かさむな───。
庶民染みた悩みのヴァンプさん。
鼻血が止まるのと、
ゴロン──と寝ころんだベッドの寝心地はさほど良くなく、天井も小汚い染みで一杯だった。
はー……さてさて、そろそろ仕事の時間だな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます