Page.48 遺跡の深部へ
機械人形は何かに導かれるように遺跡の奥へと走る。
それを追う俺たちも全力疾走だ。
「おいおい! あの首なし野郎、俺ですら入ったことのないところをどんどん進んでいくぜ!?」
ギェノンが吠える。
機械人形が近づくと自動でどんどんドアが開いていく。
遺跡自体が呼んでいるみたいに。
「それに……ここらへんに転がってるもんは何らかの兵器じゃねぇのか? 随分と保存状態も良い。今にも動き出しそうで恐ろしいぜ……」
作りかけの動物を模した機械、並べられたあらゆる武器の数々……。
遥か昔、ここで兵器を作っていたのか?
だとすれば、兵器である機械人形の首が置いてあってもおかしくはないけど……。
「エンデ! 機械人形が立ち止まったぞ!」
そこは床に円形の模様が描かれた場所だった。
機械人形はその中央で立ち止まった。
すると、青い光が放たれ機械人形の全身を覆った。
ピピピと聞きなれない音が流れたかと思うと、床下から長い機械の腕が何本も現れた。
その腕は機械人形の体を分解し始める。
「これは……止めた方がいいんじゃないか!?」
「いえ、問題ありませんよ。エンデ様」
メイリは手に持った分厚い書類の束をペラペラとめくり読んでいる。
「これはロボットアームによるメンテナンスのようです」
「ロボットアーム……メンテナンス……?」
「機械の腕による体のお手入れです。エンデ様が剣のお手入れをなさるのと同じことです。ほっといても問題ありませんし、むしろ良いことです」
「そうか……良かった。機械とはいえ体がバラバラにされるのは見てて気持ち良くはないからなぁ。それにしても、その書類はどこで見つけたの?」
「棚やらデスクの引き出しやらからです。手触りは紙のようですが、古代の物にしては状態が良すぎます。これもまた超技術が使われているのでしょう」
俺も紙を一枚さわってみる。
たしかに手触りは紙だ。
でも、書かれている文字は鮮明で色褪せていたり変色したりはしていない。
現代の紙ではこうはいかない。
でも、それより気になったのは書類に書いてある文字が俺にはまったく読めないことだ。
「ここに書かれているのは古代文字です。人間界で暮らしていたエンデ様が読めないのは当然でしょう。こちらではまだ研究が進んでいないようですから」
「へー、じゃあ魔界は進んでるなぁ。ということはパステルも読めるの?」
「学園では習わんかったぞ。あくまでも専門家の間では解読されている文字というだけだろう」
「魔界の常識ってわけじゃないんだね」
じゃあメイリはわざわざ古代文字の解読を学んだというわけか。
スーパーメイドではあるけど、そういうイメージはなかったから意外だ。
ゴルドの元でメイドとして教育を受けるまでは研究者でもやっていたのか?
「機械人形のメンテナンスが終わるまで、私は資料をたくさん読んでおきますね」
メイリの過去はともかく、彼女のおかげで機械人形アンドロイドのことが少しわかった。
やはりGKAシリーズは100機存在する。
番号が大きくなるほど後の時代に作られたものである。
ここまではフレイアから聞いていた話と同じだ。
しかし、番号が大きいほど強いというわけではない。
中には局地戦用、つまり海中や空中、寒冷地帯や乾燥地帯などの特殊な環境で力を発揮するように作られた機体もある。
強さは時と場合によるということだ。
また、肝心の100番の資料は見つからなかった。
GKAシリーズの発案者はH・M……ヒムロ・マキナエルという人らしい。
一部の資料にサインが残っていた。
古代には頭のいい人がいたもんだ。
メイリもあくまで文字が読めるというだけで、中身はまるで理解できないと言っていた。
俺たちで失われた頭パーツを作るというのは絶対に無理だ。
そして、資料の中には日記のようなものも混じっていた。
ヒムロではない別の開発者の日記のようだ。
そこにはGKAシリーズの快進撃を我が子のように喜ぶ記述があった。
「かつて、アンドロイドたちは人間の指揮官をやっていたようですね」
「むぅ……人間の作った機械に人間が命令されるとはおかしな話だな」
「はい。しかし、メリットも大きかったようです。あくまでも敵を殺すのは機械が決めた作戦。自分たちに責任はないと考えていたようで」
「そんなわけなかろうに」
「ええ、ですが戦争というのは何かに責任を押し付けないと精神が保てないものなのです。機械的に動き、機械的に戦う。失敗しても機械のせい。自分たちは悪くない。罪悪感や自責の念は軽減される」
「そんなことで勝てるのか?」
「勝ったのです。生物として魔族に劣る人間が機械の力を使うことで生き残った……。それが古代の大戦なのです」
「我々はそんな恐ろしい時代の遺物の中にいるということだな」
そう言われると、途端に不気味さを覚える。
ここに放置されている機械の数々も、はるか昔にはたくさんの人の思いを乗せて動いていたのだろう。
神話のような古代の大戦は現実に存在したんだ。
「おっ、機械の腕たちが引っ込んだぞ」
メンテナンスを終えた機械人形には相変わらず首がない。
しかし、体はかなり綺麗になり動きも機敏になっている。
「胸の光は消えたままみたいだ」
首のありかを示す手がかりは失われたままか。
さて、これからどうしたものかな。
「遺跡の中を探し回った方がいいのかな?」
俺の何気ない言葉に機械人形は反応を示した。
無い首を振るような動きをしたのだ。
「ここに首はないって言いたいの?」
今度は無い首を縦に振るように動く。
メンテナンスを受けたことで言葉を理解できるようになったみたいだ!
「まったく、古代のテクノロジーには驚かされるばかりだな。首の持ち主がここに首がないと言うのならば仕方がない。退散するとしようぞ」
「そうだね。長時間この場所にいるのは良い気がしない。なんだか俺たちが異物のような感じがする」
「おいおい! その首なし野郎を町に連れて帰るのか!?」
ギェノンが急に声を荒げる。
「そりゃ私たちが持ってきたのだからな。持ち帰るのは当然だ」
「それはそうだが、今のこいつは武器を装備してるぞ!」
機械人形の腰部分には独特なデザインの銃や剣が装備されている。
これまであんなものは装備されていなかったけど、メンテナンスの際に持たされたのだろう。
「こいつは兵器だ。武器を持つのも当然だ」
「だが、その兵器が相手してたのは古代魔族なんだろ? なら動き出した今、俺たち現代の魔族を狙っても何もおかしくねぇ!」
「ふむ、一理あるな……」
「悪いことは言わねぇ。ここに置いて行った方がいいぜ。嬉しいことにアジトには閉じ込める場所くらいいくらでもある」
「……エンデはどう思う?」
パステルは俺に答えを求める。
機械人形も話の流れを理解しているのか、少し寂しそうに背中を丸めている。
暴れそうには見えない。
あいにく機械の知識がないから俺の答えは感情論になる。
「連れて帰るよ。愛着もあるし」
機械人形の背筋がピンと伸びる。
よく見るとお尻に尻尾が付いていて、それをぶんぶん振っている。
わかりやすい奴だ。
「そうかい。あんたらの物だし、いいって言うなら止める権利はねぇ。だが、武器は外しとけ。特に銃は暴れた時に関係ない奴を巻き込みやすい」
「そうだな。屋敷に帰る際にまた取りに来るとしよう」
パステルが機械人形の腰から武器を外そうとする。
すると、機械人形は自ら武器を外した。
「物分かりのいい奴だ。む? こいつの体に何か文字が刻まれておるぞ」
人間でいうと鎖骨の間、そこに見慣れない文字が刻まれている。
メンテナンス前は汚れで見えなかった。
「メイリ、読めるか?」
「フェナメト……と書いてあります」
「それがお前の名なのか?」
機械人形は体を小刻みに前後させて「うんうん」と頷く。
「そうか、ではこれからはフェナメトと名前で呼ぶとしよう。機械人形では愛想がないからな」
フェナメトはまた「うんうん」と頷く。
会話が成立すると不気味さも薄れるな。
「いつまでザンバラにいるのかは知らねぇが、あの町はもうじき年に一度の大カーニバルだ。それを見てから帰るのをオススメしておく」
「うん、そうしようと思う。いろいろ助かったよギェノン」
「なぁに、戦いばかりじゃ飽きるってもんだ。たまには誰かに世話焼くのも悪くねぇ」
「もし、フェナメトがこの遺跡の物を動かしたせいで何かトラブルが起こったなら遠慮なく呼んでくれ。眠ってる兵器が動き出したり……とかね」
「ハッハッハッ! 心配いらねぇよ! 腕っ節だけは自慢できるバカが集まってるんだ。トロいオンボロ機械くらいなら抑え込めるぜ」
「まあ、一応言っておこうと思っただけさ」
俺たちは遺跡を後にし、ギェノンに再度礼を言ってザンバラへの帰路についた。
首に関する手がかりが見つからない限り、ザンバラの大カーニバルを見て屋敷に帰ることになりそうだ。
それにしても、フェナメトは以前なにに反応して動いていたんだろうか?
ザンバラに着くまでは明らかに西に引きつけられていた。
それが急におとなしくなって、メンテを受けた後はここには首がないと反応した。
アジトの遺跡にないだけで砂漠のどこかにはあるのかと思ったけど、あれ以降フェナメトが何かを主張してくることはない。
まさか、見つけた首が何らかの原因で消えたのか?
なにか首からの知らせが途絶えたのか、壊れたのか、それとも……誰かが意図的に隠したのか。
でも誰がどこに隠せるんだろう?
広範囲から首を探し当てたフェナメトの能力からどうやって逃れられる?
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