Page.47 超古代の残骸
「なるほど、確かにこれは見逃さないな」
朝――。
秘密の地下通路を抜けて、太陽が照り付けるザーラサン砂漠を東へ。
首狩り鬼人ギェノンの根城『魔神の蟻塚』は嫌でも目に入った。
外観は巨大な岩。
その表面には窓と思われる穴が無数に開いている。
蟻塚と表現したくなる気持ちはよくわかるな。
「…………」
みんな熱さで口数少ないけど、メイリは特に少ない。
それだけギェノンを含めた賊を警戒していると見える。
俺やパステルの選択を疑うのが彼女の仕事だ。
今回は流石に裏切られないと思いたいけどね……。
「おう! 来たかエンデ! ……思ってたよりかわいい仲間たちだな」
ギャノンは蟻塚の手前で俺たちを待っていた。
こんな熱い中で
「女ばっかじゃねーか! これはお前の女なのか? ハーレムか? 確かにここらの地域にはそういう文化があるが、お前って遠くから来たんだろ?」
「ハーレムなんてとんでもない。俺たちの中心はこの子さ」
バテバテのパステルが精いっぱい胸を張る。
威厳はない。
「ああ、お嬢様のお忍び旅行か?」
「それは世を忍ぶ仮の姿。俺たちは魔王である彼女を中心とした魔王軍なんだ」
「……へ?」
まあ、そういう反応になるよね。
言う必要なかったかな?
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
俺たちはアジトの中に招かれた。
外見は武骨な岩でしかなかったけど、中の通路は非常に整備されている。
あのザンバラの地下通路を思い出す。
「正直、ハーレムの方が納得できるってもんだ! これが魔王軍とはなぁ!」
「やっぱり?」
「そらそうよ。これなら賊の方がまだ軍隊っぽい! 最近は賊も組織
「やっぱ戦力を増やした方が良いのかな……」
「いや、笑いはしたが少数精鋭ってのも悪くない。大軍を維持するにはそれなりの物資が必要になる。なくなれば戦争して略奪するしかない。無駄な争いを好まないなら軍隊は少ない方が動きやすい。お前たちの場合は国みたいなデッカイもんを守るわけでもないしな」
「小さくて悪かったな鬼人よ」
パステルが自嘲気味に笑う。
自虐は好きでも人に言われると結構傷つくんだよなぁ……。
俺も覚えがある。
「本当だぜ。魔王ってのは人間の王みたいに小太りで動けない奴じゃいけねぇ。軍勢の中で誰よりも強くなければな。それこそ一人で国と釣り合うぐらいの存在感が必要だ。まあ、偉そうに言ってる俺に魔王の資格はないし、力も過疎の村と釣り合うぐらいしかねぇが……」
「それは謙遜しすぎじゃない? 少なくとも俺よりも強そうだけど……」
「いや、エンデには勝てねぇよ。あと後ろのメイドとピンク色にもな」
「俺はピンクじゃなくて桜色だ! おいおい鬼のオッサン、行き過ぎた謙遜は嫌味だぜ? 俺は戦闘要員じゃねぇスライムだ。ガチガチの戦闘種族であるオーガに勝てるわけないだろ。それにお前はそれなりに戦いの経験も……」
「本当にそうか? お前たちも十分修羅場くぐってんじゃねーか? 少なくとも俺はお前たちが恐ろしい。まとっている空気が違う。俺が日ごろ相手をしているゴロツキどもとはな」
「俺たちが恐ろしいだって……?」
「ああ、昨日会ったばかりの賊の頭の言葉をうのみにしてアジトにのこのこ入ってくる……。普通なら危険極まりない判断だ。腕に自信がないと出来ねぇ」
「それはギェノンが信用できると思ったからさ」
「ありがたい言葉だ。それも真実だとお前の目を見ればわかる。だが、真実はもう一つある。お前たちは俺程度の賊ならば最悪裏切られても対応できると思っている……違うか?」
「うっ……」
「疑いもしないのは三流、疑うのは二流……。一流は裏切られようが力で抑え込む。そう考えれば、お前たちの行動は立派な魔王だ。恐ろしいと言いたくもなる」
「それはそうだけど……」
「……すまん、変な話をした。そんなこと言いだしたら『恐ろしい恐ろしい存在をアジトの中に招き入れた俺はアホか?』って、話だからな。結局は勘よ。俺もお前たちを信用できると思ったからこうやってアジトを案内している。裏切られないことを信じてな」
「まっ、人を信じられる者が超一流だと私は思うがな。それにしても初対面の時とは打って変わって我々を評価しているではないか。どんな心変わりだ?」
「いやいや勘弁してくれ! すぐに見抜けるわけないだろ! こんな変な集団の実力をよぉ! 話してるとわかって来たんだ。お前らの妙な落ち着きの理由がな。まあ、落ち着いてない奴も一名いるが……」
「ああ、アイシャは魔王軍ではないのだ。お前に礼を言うためにここまでついてきた一般人だな」
「俺に礼を? 確かにどこかで見た顔だが……」
ギャノンがまじまじとアイシャを見つめる。
アイシャはびくっと体を震わせながら頭を下げた。
「そ、その! 昨晩は人さらいから助けていただいてありがとうございました!」
「……昨日のアレか。わざわざご苦労なこった。別に俺は助けたつもりはねぇから気にする必要なんてなかったんだがな」
「それでも助かったのは事実ですから! 私お礼しに来ました! ありがとうございます!」
「どういたしまして。よくできたお嬢さんだな」
これでアイシャの目的は果たされた。
とはいえ、一人で町に帰すわけにもいかないのでこのまま地下の古代遺跡までついて来てもらうことになる。
ただ、なかなかその地下までたどり着かないなぁ……。
「このアジト……なかなか広いなぁ」
「確かに広いんだが、進まないのは無能な部下たちがやたらウロウロしてるせいだ」
ギェノンが多少イラ立ちながら言った。
確かに先ほどから俺たちの周りには人が多い。
「女だ……!」
「みんなかわいいぞ!」
「アニキったらどこから連れてきたんだ?」
「えっちだ……」
まあ、群がってくる理由はハッキリしてるな。
「おいモノゴ! さっさとこいつらをどけろ! 邪魔でしょうがねぇ!」
「へい、おっぱい……じゃなかったアニキ! 別に変なところなんて見てませんよ!」
「そのデカい目でごまかせると思ってるのか!? いいから仕事に戻れ!」
「へ、へい!」
大きな一つ目を持つ男モノゴは仲間を引き連れてピューッとどこかに行ってしまった。
「あれでも俺の右腕というか実質ナンバーツーなんだよなぁ……。聞き分けだけは割といいからな」
「あはは……」
ギェノンもなかなか苦労してそうだな……。
「彼らは普段何をしているんですか?」
「俺と同じだ。ボスからの命令である『敵対勢力の排除』を行っている。それが結果的に義賊みたいな働きになってるってわけだ。人間とは敵対してないから殺す必要がない。罪のない奴を傷つけるのは良い気が死ねぇ。クズどもならスッキリするがな」
「じゃあ、首を集める理由は……」
「ただの成果報告なんだなこれが。怪しい儀式でもしてると思ったか? 残念ながら倒した敵の数がわかりやすいから集めてるに過ぎない。魔族でも首とられたら大抵死ぬから証拠としてちょうど良いんだよ。まあ、そんなことしてるせいで変なウワサが広まって恐れられるようになっちまったが、むしろ敵対勢力へのけん制になってるから悪くねぇ」
やっぱ真面目な人だなぁ。
今度こそ俺の人を見る目は間違っていないはずだ。
「お、ついに到着だぞ。この金属の大扉の向こうが古代遺跡だ」
これまた見たことないデザインの扉だ。
二枚の金属の板が左右にスライドする形っぽいけど、手をかける場所がない。
昔の人はどうやって開けていたんだ?
「毎回開け方がわかんねぇから力づくで開けてるんだぜ!」
ギェノンの怪力で扉が開く。
金属のきしむ音がなかなか頭に響く。
「よし! 野郎ども突入だ! ……なんてな」
遺跡の中は……想像と違っていた。
てっきり地下通路やこのアジトみたいに石造りの遺跡だと思っていたけど、壁や床は白い金属で出来ている。
今でこそ薄汚れているが、以前は遺跡全体がぴかぴかだったのだろう。
「ん? 前に俺が入った時と物の配置が変わってるような……。まあ、あの扉は筋肉バカなら開けられるし、使える物は自由に使えって言ってあるからな。ということで、別にお前たちもいるもんなら好きに持っていきな。俺には使い道がわからんガラクタばかりだ」
そう言ってもらえるのは嬉しいが、俺たちにも何が必要なのかわからない。
とにかく、しらみつぶしに首を探すしかないか……。
「……あっ、パステル様! 機械人形が!」
メイリの背負っていた包みがもぞもぞと動く。
次の瞬間、布と鎖を引きちぎって首のない機械人形が姿を現した。
「うおおおおおおおおおおーーーーーーっ!?」
「ぎゃあああああああああーーーーーーっ!?」
ギェノンとアイシャが同時に腰を抜かす。
首がないまま動き回る体は流石の首狩り鬼人も初めて見たようだ。
「ザンバラに来てからうんともすんとも言わなかったくせに、急に元気になりおったな」
「言ってる場合じゃないよパステル! あいつ奥の方に走って行っちゃったよ!」
「良いことではないか。やっと手掛かりが我が手に戻ってきたのだ。追うぞ、皆の者」
「りょ、了解!」
首のない背中を追って、俺たちは超古代の残骸の奥深くへと足を踏み入れた。
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