クモ
むかしむかし、神さまのお力で、50歳から15歳に若返った男がいました。
この少年は、とあるおやしきで「トルコ玉」のなくしものさがしで、ゆうめいになりました。
彼はたびのとちゅうなので、また山の方へ行き、またポプラの木の下に横になり、朝になるまで目ざめませんでした。
夜が白々と明けたころ、またポプラの木の上でオオガラスの声がしました。
『があ、あなた、ゆうべはどうなさったの。ずいぶんとおそかったわねえ』
『聞いてくれるか。ゆうべは下の里へ行って、とあるやしきで、女の人が苦しんでいるというのを聞いてきたんだ』
『まあ、そうでしたの』
グアラグアラとオオガラスたちはなきます。
『そこでは、やしきの女の人が、ひどいずつうになやまされておった。かわいそうにのう。あれは神にいのったって、しかたがない。わたしいがいには、げんいんなど、わかりはしないのだ』
『そのずつうのげんいんって、いったいなんなのです?』
『そこだよ。みんなして、まじゅつしだのおぼうさんだのを、たよりにしていたが、あれは何日か前に、女の人がひるねしていたときに、左の耳のアナから入ったクモが、中でスをはっているんだ。まちがいない』
『まあ、そんなことが! たいへんでしたねえ』
『それでおわりじゃあないのさ。クモってやつは、冬の間中、あったかいところにこもるだろう? あのままだと、春になるころには、女の人は頭がいたくて、気がおかしくなってしまうさ』
『じゃあ、どうすればいいんですの?』
『かあさん、それにはある、けいりゃくをつかわないとならん。クモに春が来たと思わせるためのね』
『そのけいりゃくってなんですの?』
『ああ、それはね……』
少年は聞くともなしに耳をかたむけ、ちゃんとそれをおぼえていましたから、その里へ行って、女の人をたすけてあげようと思いました。
ところで、このオオガラスのオスは、このへんなずつうのびょうきをなおしてください、と家の人が神にいのってささげたモチを食いすぎて、苦しい、苦しいと言いました。
『ああ、おまえ。わたしが死んだら、きっと3年と3カ月と3日の間モにふくすと、心からちかっておくれ』
『ええ、かならずそうしますとも』
メスのオオガラスは、おっとの苦しみように、心を動かされ、ちかいました。
しかし、このオスが死んでしまうと、メスは、すから彼のしがいを落しました。
『わたしには家事やいくじで、しなきゃならないことがいっぱい。なのに、そんなに長い間モにふくすなんて、考えられない。ほんのちょっとの間もおしいというのに、ばからしいふうしゅうだわね』
そう言って、かえったばかりの子カラスたちの、エサをとりに行ってしまいました。
さて少年は、わだいの家に行って、戸をたたきました。
女の人のさけび声とうめきが聞こえてきたので、少年はたずねました。
「どうしたのです?」
家の人は、顔色悪く、しんこくに言いました。
「おくがたさまが、原因不明のびょうきにかかり、たいへん苦しんでおられます」
少年は言いました。
「ぼくのまほうの力で、なおしてあげましょう」
「それはまことでございますか?」
「ああ、きみたちは、ぼくの力を知っているだろう」
「そうだった! れいのおやしきで、トルコ玉をさがしあてた、ゆうめいな、まじゅつしさんだ!」
少年はまんぞくそうに、うなずくと言いました。
「さしあたって、四角い緑の布と、水さしいっぱいの水、一組のタイコを持ってきて」
家人はそうしました。
「よろしい。ここからはだまって見ていなさい」
少年は、つくえの上に緑の布を広げると、その上に水さしの水をパッとまき、苦しむ女の人の左耳をむけて、体をかたむけさせました。
すると、一匹のクモが、左耳のアナから、ツツ―ッと、おしりの糸を伝っておりてきて、まるで春のツユにぬれた草原のようだとカンチガイしました。
そこで、クモはいったん、耳の中にひっこみました。
少年は、春雷のごとく、ドロドロとタイコをならしました。
すると、こんどは耳のアナの中で産んだ子グモたちといっしょに、6匹のクモがおりてきました。
少年は、パッと布をたたんで、外へ持ちだすと、みんな殺してしまいました。
「これで、ずつうはやみます」
「まあぁ! 本当。頭がかるくなって、すっきりですわ! あなた、おれいをうけとってくださいな!」
少年はお礼のお金をもらって、お金持ちになりました。
さて、これでふるさとの母親のところへ帰ろうか、と少年が思っていたとき。
「ちょっと、待ちなぁ!」
右手にタンケンを持った、ものごいの女があらわれました。
ものごいの女は、自分が左手ににぎっているものが、なにかを当ててみろ、と言いました。
「あたしは、おまえはペテンしだと思っている。もし、ほんもののまじゅつしなら、このしれんをカンタンにやってのけるはずさ。でなければ、このタンケンでおまえを殺す!」
少年はすっかりまいってしまいました。
まほうの力を、もう一度ためそうなんて、するんじゃなかった、と少年は思いました。
そこで、少年は言いました。
「それは、ともかく。ぼくはむりょくだし、あなたはぼくを思うようにできる。その左手に、にぎりこんだ一匹のハエのように、カンタンにつぶされてしまうだろう」
ものごいの女は、びっくりしました。
なぜなら、ものごいの女が左手ににぎっていたのは、一匹のハエだったからです。
ものごいの女が、左手を開くと、プウンとハエがとんでにげていきました。
「おまえ、すごいな! まほうの力って、ほんとうだったんだなあ!」
ものごいの女は、完全に少年のファンになってしまいました。
「あたし、あんたのなくしものが、どこにあるか、知ってるよ。あんないするから、おいでよ」
「ありがとう」
ものごいの女についていくと、谷の間に、少年の持ちものだった、ウマとイヌ、そしてじゅうにつるぎもありました。
「あんたが、なくしたって言ってたから、探したんだよ。キツネのすみかの近くにあったよ」
「ありがとう」
少年は、前よりもっとお金持ちになって、ふるさとの母親のもとへ帰りました。
おとぎのびんづめ! れなれな(水木レナ) @rena-rena
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