ネコのこざいく

 むかしむかし、一けんの大きな農家の家に、ずるがしこいネコが住んでいました。


 この家にはおそろしいほど、たくさんのネズミがいたので、長年、ネコは食べ物に困りませんでした。




「にゃー。なんて楽しいネコライフ。ネズミを毎日食べほうだいだ。ああ、おなかいっぱいだにゃー」






 ところが、年月がたち、ネコは老いぼれてしまいました。




「どうしよう……おなかがいっぱいになるほどの、ネズミが捕まえられなくなってきた……」




 そこで、ネコはじっくり考えました。




「そうだにゃ!」




 ネコは全部のネズミを集め、もう指一本ふれないからと、やくそくしてから、こう、えんぜつしました。




「やあ、ネズミたち。わたしはちょっと言いたいことがあって、集まってもらったんだ。わたしも年をとって老いぼれた。今になって、おまえたちに、なんてひどいことをしたのかと、こうかいしているんだにゃ」




 ネズミたちは、顔をみあわせ、そしてまたネコの言葉に聞きいりました。




「わたしは心をいれかえた。これから、めいそうてき人生をおくろうと思っている。もう、おまえたちを苦しめたりはしない。ちかうにゃ」




 ネズミたちは、大変よろこびました。


 長年にわたる、ネズミたちの苦しみが終わろうとしている、と思ったからです。




「じゃあ、もう、自分かってに、思いどおりにそのへんを走りまわって、いいのかちゅー?」




「もちろん。ただ、わたしはたのみがあるんだにゃー」




 ネズミたちは前足をそろえて、身をのりだしました。




「わたしのしんせつにたいして、うやまいの気持ちを表してもらいたい」




「どんなふうにです?」




 ネズミは首をかしげて言いました。




「一日二回、わたしの前を行進して、めいめいがわたしの前で、通りすぎるときにおじぎをしてほしい」




 ネズミたちは、長いことてきだったネコのきけんから、かいほうされたと思い、すっかり感謝しました。


 そして、このもうしいれに答えようと、れつをつくって、一日に二回のあいさつをすることにしました。






 よるになり、ネコは、へやのすみのざぶとんにすわりこむと、ネズミたちは、一れつになって……。




「おネコさま、ありがとう」




「あなたのごしんせつを、わすれません」




「ありがとう。ありがとう」




「おネコさま、だいすき!」




 と、ふかぶかとあいさつをして、とおりすぎていきました。






 ところがこのネコは、きわめてようじんぶかく、自分のもくてきのためには、しゅだんをえらばないのでした。


 こざいくをほどこして、手はずをととのえていたのです。


 ぎょうれつの最後のネズミを、だれにも気づかれないように、ツメでつかまえてしまい、ゆっくりと時間をかけて、むさぼったのです。




「しめしめ。ネズミのやつら、気がつかないぞ。うまいことを考えたものだ。にゃーご」




 それは日に二回、おこなわれ、長い間、ネズミたちに気どられませんでしたので、ネコはうまうまと食事にありつけました。






 ところが、ネズミの中にも、ぬけめなく、かしこいものたちがいて、家の中のネズミがずいぶん、へってきているらしいのに気づきました。


 それは、ラムバーとアムバーという、二ひきのネズミたちでした。


 この二ひきは、とてもなかがよく、しんゆうでした。


 そこで、二ひきはいっけいをあんじ、次の行進のために、ちょっとしたさいくをしました。






 よくじつのよる。


 ぎょうれつが、いつものように出発すると、ラムバーが先頭をきり、アムバーは一番後ろの「しんがり」をつとめ、ぎょうれつがつうかしている間中、二ひきはおたがいによびかけあい、安全をかくにんすることにしたのです。




 先頭であいさつをすませたラムバーが、しんがりにかなきり声でよびかけます。




「おーい、どこにいるかーい。アムバーくぅーん」




「ここにいるよーう。ラムバーくぅーん」




 と、ぎょうれつのしんがりから、あいぼうがキイキイと答えました。


 このようにして、ネズミたちぜんいんが、通りすぎるまで、おたがいによびかけ合いました。




「むう、こんやはネズミを食えなかった。いまいましい。だが、たまたまやらかしたんだろう。明日のあさは、太ったネズミを見つけて食べればいいのにゃ」






 ところが、よくあさも、ネズミたちは、そっくりおなじじゅんばんで行進してきました。


 しかもあの、ラムバーとアムバーが、応答をくりかえすので、手がだせません。


 ネコはすっかりおどろき、むかむかしてしまいました。


 二回も、えものにありつけなかったので、おなかはペコペコ。




 しかし、ネコはいかりをそっとかくして、もういちど、ためしてみようと考えました。


 そうして、そのばん、ざぶとんの上で、ネズミの行進を、いまかいまかと待っていました。






 一方、ラムバーとアムバーは、ネズミたちに、ちゅういをおこなっていました。




「ネコを信じすぎるのはよくないちゅー」




「ええっ、どうして?」




「ここさいきん、ネズミの数がへっている。おかしなことだと思わないか?」




「そういえば……おかしいなあ」




「とにかく、ネコがおこったようすをみたら、すぐににげるんだちゅー」




 


 いつものように、行進が始まると、ラムバーとアムバーがすぐに、応答を始めます。


 ネコはこれにカンカン!




「こ・の・ヤ・ロ・ウ! もう、がまんならん!」




 ネコはネズミのまっただなかに、とびこんで、ネズミをつかまえようとしましたが、ネズミたちはネコにけいかいしていましたので、つかまりませんでした。




「ちゅちゅー! ネコはウソをついていたんだちゅー」




「みんな、にげるチュー」




 ラムバーとアムバーがただしかったことが、しょうめいされたのです。


 またたくまに、ネズミはすににげかえり、ネコはいっぴきもつかまえることができず、へやはからっぽになってしまいました。






 このことで、ネズミはネコをしんようしなくなり、ネコは食事にことかいて、まもなくうえ死にしました。




 ラムバーとアムバーは、長いことネズミ社会からもそんけいされ、高いめいよをうけたということです。

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