野生のロバ

「うぬ。おなかがへった、へった、へった~~うぬ」




 ある日のこと。


 一匹のうえたオオカミが、谷の上流のところを、うろついていました。



「うぬん? あれは野生のロバじゃないきゃ~~。やったやった。今日はごちそうだ。うっひっひ」



 オオカミが、そっとしのびより、とびかかろうとしたとき。


 まだ一歳そこそこのロバは、言いました。



「ヒィ~~、オオカミのおじさん!」



 どうやら、気がついていたようです。


 それならば、にげればよかったのに、ロバはこんなことを言いました。



「今、わたしはきびしい冬をこしたばかりで、ガリガリです。秋になったら、もっとよいごちそうになっていますよ」



「うぬ。よろしい、よろしい」



 オオカミは言いました。



「それではあと六ヶ月、おれは待とう。おまえは秋に、ここでおれを待つんだ。そのかわり、今は見のがそう」



 オオカミは手をうって、他のえものをとりに、走っていってしまいました。






 秋、オオカミがやくそくの場所へむかおうと、丘をこえて行くと、一匹のキツネにであいました。



「うっひょひょ~~。おはようさん、オオカミのアニキ。どちらへ、おでかけ?」



 オオカミは答えました。



「うぬ。おれは春先に見のがしてやったロバに、あいにいくんだ。秋になって、まるまると太っているってやくそくだったんだ。うっひっひ」



「うっひょひょ~~、それはすごい」



 と、キツネは答えました。



「ひとつわたしにも、わけまえをくださいよ~~。ほら、ロバって大きいですから、食べきれないでしょう? うっしゃっしゃしゃ」



「うぬ、いいぞ。キツネの兄弟」



 と、オオカミは答えました。



「だいかんげいだよ、ごうせいなパーティーにしようぜ」



 そういうと、二人はいっしょに、でかけていきました。






「ぽっぽぽ~~ん!」



 ちょっと行ったところで、ピョンピョン、ピョン! と、変な歌をうたう、野ウサギがやってきました。



「おはようございます。オオカミの兄さんと、キツネの兄さん」



 と、野ウサギは言いました。



「こんないい朝に、おそろいでどちらへおでかけですか? ぽぽ~~ん!」



「おはよう、野ウサギの兄弟」



 と、オオカミは答えました。



「おれは春先に見のがしてやったロバにあいにいくんだ。食おうと思ってな。秋には太って待ってるっていうから。キツネの兄弟も、いっしょにパーティーしようぜって、言ってたところなんだ。うっひっひ」



「へえー、それってほんとうですか、オオカミの兄さん」



 と、野ウサギは言いました。



「ぼくもつれていってくださいよ。ロバって大きいじゃないですか。ぼくみたいにちっちゃな生き物にも、ちょっとくらい、めぐんでくださいよ」



「うぬ。いいともさ~~。おれたちは、だいかんげいさ」



 そうして三人は、そろってやくそくのばしょへ、むかいました。






「いたいた。うっひょひょ~~」



「うぬ。やくそくを守ったようだ」



「ほんとうにいた……これはおどろいた! っぽ~~ん!」



 野生のロバは、草を食べてまるまると太り、ハダもなめらか。


 春先からにばいほど、大きくなって、待っていました。



「うぬ。よくぞ待っていてくれた、ロバの兄弟。そういうやくそくだったな。おまえを殺して食うが、元気そうでおれもうれしい。後ろのツレは、おれといっしょに、おまえを食いたいってさ」



 そういうなりオオカミは、ロバののどぶえにかみつこうとして、身をかがめました。



「ぽっぽ~~ん! オオカミの兄さん! これはいけない。ほんとうによくない……」



 このときになって、野ウサギはさけびました。



「ぽぽぽ~~ん! ちょっと、ちょいちょいと待ってくださいよ。ぜひ、ていあんしたいことがあります。こんなにすてきに、まるまると太ったロバを、ひとかみで殺してしまうなんて! もったいないし、血がムダにながれますよ。ですからぜひ、このロバの首をしめたらいいと思います。ぽ~~ん!」



「うぬ? そっそれはいい考えだ!」



 オオカミは言いました。



「おまえにしては、すばらしい考えだ。で、どうやるんだ? うぬん?」



「いや~~、いたってカンタンです」



 と、野ウサギは答えました。



「あそこに見える、ひつじかいのところへ行って、ロープをかりてきましょう。そうしたら、それをロバの首にかけて、思いっきり、ひっぱればいいんです」



「うぬ。そうしよう。うっひっひ」



「うっひょひょ~~、そうしやしょう。うっしゃしゃしゃ」



 キツネが近くのひつじかいから、ロープをかりてきました。



「ぽっぽぽーん!」



 と、野ウサギはうたいました。



「ここからは、いっさいをぼくにまかせてください。ぽ~~ん!」






 そこで、野ウサギは、ロープをとりあげ、一方のハシに大きなわっかをつくってむすび、もう一方のハシに二つのわっかをつくってむすびました。



「ぽーんぽ、ぽんぽんぽ~~ん!」



 野ウサギはうたいました。



「いいですか、この大きいほうのわっかを、ロバの首にかけ、小さいわっかにオオカミさんとキツネさんの首をいれます。ロバは大きいですから、いっせいにひっぱらねばなりません。ぼくがあいずしますからね!」



 オオカミとキツネは、これはなかなかよいアイデアだと思いました。


 みんなじゅんびをして、野ウサギはロープのハシを、歯でもってくわえました。



「ぽーんぽぽんぽんぽ~~ん!」



 と、彼はうたいました。



「さあ、じゅんびはよろしいか?」



「うぬ。いいとも」



「うっひょひょ~~。いいともさ」



 オオカミとキツネが答えました。



「それならいっせいに、ひっぱりましょう。そーれ!」



 と、野ウサギが言いました。



「うぬ、もっとひっぱれキツネの兄弟」



「うっひょひょ~~、もっともっとひっぱれ、オオカミの兄弟!」



 野生のロバは、ロープがひっぱられるのを感じると、二、三歩前へ、ふみだしました。


 オオカミとキツネはおどろきました。


 なんと、自分たちの体の方が、じめんをひきずられています。



「うぬん! おまえ、ひっぱれよ!」



 と、オオカミはロープがきつくしまったので、かなきり声で言いました。



「うっひょひょ~~! おまえが、ひっぱれ!」



 と、キツネもかなきり声。



「りょうほう、ひっぱるんですよ。ぽ~~ん!」



 と、野ウサギはさけびました。


 そして、ロープをパッとはなすと、野生のロバは、オオカミとキツネをひきずりながらかけていきました。


 数分後、かれらはともに、首がしまって死んでしまいました。


 野生のロバは、ヒィ~~っとないて、ロープを首からはずしました。


 そして、いつもの草地で静かに食事を始めました。






「今日はまた、いいことをした。ぽ~~ん!」



 野ウサギは、心をはずませながら、家へ帰っていきました。

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