カエルのしんせき

 むかし、一羽のカラスが、一匹のよく太ったカエルをつかまえました。




(うっふっふ。あの屋根の上がいいわね)




 カラスは、カエルをくちばしにくわえて、とんでいきました。




(うっふっふ。ゆっくりとつついて、食べてあげよう)




 カラスが家の屋根の上に止まると、カエルははっきりと聞こえる声で、くすくすわらいました。




「ケロケロ。ケロケロ」




「なにわらっているの、カエルくん」




 とカラスは言いました。




「ヤ、なんでも」




「なによ、いいなさいよ」




「なんでもないッス、カラスの姉さん」




 と、カエルはナメた口をききました。




「かまうことはありません。ただ、ぼかぁ、ちょうど思い出したことがあって、カラスの姉さんのゆくすえが、ちょっと……ね」




「それで、なんでわらってるのよ?」




「ヤ、たいしたことじゃなくって。ちょうどこの屋根のすぐ近くに、ぼくのお父さんがすんでたなぁって」




「なんだ、そんなこと。カエルのお父さんが、どうしたの?」




「だから、たいしたことじゃないんですよ。でも、ぼくのお父さん、すごくどうもうで、チョー強いから、もしぼくを殺しでもしたら、必ずふくしゅうにきますよ」




 カエルは、ケロケロッとわらいました。




(まあ。めんどうごとはいやだわ)




 カラスは安全なところをもとめて、とびはねました。




(ここなら、いいでしょ)




 カラスは、カエルの父親がすんでいる屋根の、反対がわのすみに止まって、一息つきました。




(まあ、かわいい雨どい)




 その近くの雨どいは、ランカンについている小さなアナと、木せいのクダをとおして、雨水を流すしくみになっていました。




(さて、カエルをひとのみにしてあげよう)




 そのとき、またカエルがくすくすわらいました。




「ケロケロケーロ。ケロケロケーロ」




「こんどはなにぃ? カエルくん」




 と、カラスはたずねました。




「いやー、おかまいなく。言うほどのことじゃあ、ありませんよ」




 と、カエルは答えました。




「でも、なかなかここはラッキーだったなあ。ちょうど思い出しましたよ。ここの雨どいに、ぼくのお父さん以上にキレやすい、ぼくのおじさんがすんでいたって」




「で?」




「もしだれかが、ここでぼくを傷つけようものなら、大変ですよ。おじさんのすごく強い手にガッチリつかまれて、とってもにげられやしません」




 カラスは、いくらかひるみました。




(この屋根から、はなれたほうがよさそうね……)




 と、思いました。




(あそこがいい。井戸のヘリ近く)




 そこで、またカエルをくちばしでつまみ上げると、カラスは地面にカエルを置きました。




(さあ! 食べるわよ!)




 そのときカエルが、言いました。




「ちょっと、カラスの姉さん。くちばしがナマッているんじゃあない? ぼくを食べる前に、あそこの平らな石で、トいでおいでなさいよ。まったくマナーがなってないんだから」




 カラスは、かちんときましたが、それもそうだ、そうしたほうがいいと思い直して背中をむけ、ピョンピョンと二、三歩、地面をはねました。


 カラスが目をはなすや、カエルは死にものぐるいでジャンプして、ぽちゃん、と井戸の中へとびこみました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る