ネコの大工
あるところに、老いぼれネコの大工がいました。
彼は仕事がうまくいかず、老いてネズミをとることがむずかしくなったので、家族やなかまにみすてられ、いつでも開店休業中でした。
あるとき、子供と年老いた母親をかかえた、メスネコが、アパートをリフォームしてほしいと言ってきました。
メスネコは、はぶりのよい様子でしたので、彼はネズミ60ちょろりくらいなら、やってもいいかなあと、もらしました。
(60ちょろりかあ……)
メスネコは考えました。
(それくらいなら、わたくしのかせぎでも、なんとかなるかもしれないわ)
「じゃあ、いろをつけて、65ちょろりで、おねがいしますわ」
「にゃっはっは。おまかせください、奥様。にゃっはっは」
ネコの大工はこしを低くして、ひきうけました。
ところが、彼のもとをはなれていった、ズルいなかまがやってきて、こう言いました。
「ヘッヘッ。おまえ、あのアパートの大きさなら、屋根の上はりをしちまえば、あと100ちょろりは軽いぜ。たしか、おまえのかりてる倉庫に、古い屋根材があったろう。ペンキ塗りなんてかったるいことをしてないで、パァーッとやっちまいな。ヘッヘッ」
「え? でも……もう、足場を組んで、みつもりをしてしまったし、屋根はペンキをぬるだけだよう?」
「ヘッヘッ。おまえはバカだな。あと100ちょろりいただけるところを、65ちょろりでまんぞくするなんて」
「じゃ、じゃあ、おれには少しむずかしいけれど、100ちょろりのためだ。屋根の上はりをしようかなぁ」
老いぼれネコの大工は、とつぜん、メスネコをたずねていって、言いました。
「おたくのアパート、まっきてきです。屋根はペンキじゃどうにもならない。上はり工事に変えますね」
老いぼれネコの突然の申し出に、メスネコは目を白黒させて言いました。
「さあ。わたくしの目からは、わからなかったけれど。そんなにいたみがきてましたの?」
「にゃっはっは。そうなんでございますよ。奥様」
「じゃあ、65ちょろりでは足りませんでしょうねえ」
「はい。165ちょろりになります」
(ええっ、そんなにかかるの。でも、もっとがんばって働けば、なんとかなるかもしれない)
老いぼれネコはメスネコに、ネコなで声で言いました。
「そのかわり、二階のろうかも、やっておきますよ」
「まあ、ごしんせつに。じゃあ、たのもうかしら」
「足場もくんでしまいましたし、前金は30ちょろりでおねがいします。にゃっはっは」
「それなら、最後までちゃんとしてもらわないと。30ちょろりね、とってきます」
メスネコは子供をおいて、30ちょろりのネズミをとって、老いぼれネコの大工にわたしました。
あっというまに30ちょろりのネズミを食べてしまった、老いぼれネコは、ハラをすかし、とうとうガマンできなくなったので、メスネコをたずねていきました。
「奥様、屋根の上はりに手間がかかったので、途中金をください」
「あら、どれくらい?」
メスネコは、内心こわごわとして言いました。
「あんまりたくさんだと、こまるわ」
「いえいえ、たったの10ちょろり」
(それくらいならば、がんばって働けば、なんとかなるかもしれないわ)
「わかりました。とってきます」
そんなことが三回ありました。
「おまえ、うまいことやってるらしいな」
ズルいなかまがきて、老いぼれネコに言いました。
「ヘッヘッ、おれにもいちまい、かませろや」
「いいけど、そううまくいくかな」
「ヘッヘッ、かんたんさ。足をすべらせて、屋根から落ちたことにすればいい」
「なら、みまい金をくれるかな」
「ヘッヘッ、おまえズルい考え、もってるなぁ」
「おまえには負けるよ。にゃっはっは」
そして、老いぼれネコの大工は、メスネコのところへ行きました。
「屋根から落ちたので、みまい金をください」
「なんですって?」
メスネコはこのあつかましさに、おどろきました。
「仕事中のことなら、自己責任でしょう」
「じこせきにんってなんですか?」
「それは、あなたのせいでしょう? わたくしはお客よ? どうしてみまい金なんか!」
この言葉に、老いぼれネコはカァーッときました。
「奥様。奥様は家をリフォームするということが、どれだけ大変か、ごぞんじない。とてもきけんな仕事です。落ちたらイタイどころではありません。死んでいたかもしれないというのに、なんですかそのタイドは?」
「わかりましたわ。で、いくらほしいの?」
「にゃっはっは。ざっと20ちょろり」
「とってきますから、おまちください」
20ちょろりのネズミを食べてしまい、ハラがすいてたまらなくなった、老いぼれネコは、またメスネコをたずねていきました。
「まあ、今度はいったい、どれだけかかりますの?」
「おなかがすいたので、10ちょろり」
「あなたのめんどうなんてみられません!」
「いやいや、屋根から落ちたのです」
「また!? それはあなたのせきにんでしょ!?」
「いやいやいや、それなので、スケットをたのんだので20ちょろり」
「さっきより、ふえてますわ!」
「それくらいは、はらえるでしょう。にゃっはっは」
「ま、まあ……しかたありませんわね。おまちください」
メスネコはキリキリマイして、ネズミをとってきました。
リフォームの仕事が終わると、老いぼれネコは、65ちょろりのネズミを受けとり、お腹いっぱい食べました。
ところがこんどは、めんどうをみてくれる相手がほしくてならなくなったので、病院に行きました。
「先生、独りでさびしいので、たのみます」
と、老いぼれネコは言いました。
「わかりました。もっとも重い病名をつけてあげましょう」
お医者はうけあいました。
老いぼれネコは、書かれたしんだんしょをもって、さいばんしょへ行きました。
「かんいさいばんは、こちらのうけつけです」
「にゃっはっは」
うけつけのひとは、それはそれはていねいに、仕事をしてくれましたので、やがてメスネコのところに、ちょうていせいきゅうがとどきました。
「まあ! ネズミは全部しはらったのに、あと100ちょろり、しはらいなさい、だなんて言ってきたわ! どういうこと?」
そして、いっしょにとどいた、しんだんしょを見つけ、びっくりしました。
しんだんしょには、ざつな文字でこう書いてありました。
「もう、じゅみょう。手がつけられません」と。
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