四人のアクマ

 むかしむかし。


 とある国の、とある町に、二人の兄弟がいました。


 兄の方は、金持ちで、弟の方はまずしくて、毎日小さな畑をたがやして、ほそぼそと食べていました。






 あるとき、この二人の兄弟がケンカをしました。


 兄が言いました。




「世の中、悪いと知っていても、やらなくちゃなんないことはあるもんだ。ぜんにんには、くらしづらい世の中だから」




 しかし、弟は言いました。




「苦しくても、人さまのためになることを、しなくちゃだめだ。神さまは、ちゃんとみてるのだから」




 そこで兄が言いました。




「それじゃあ、町へ行って、五人の人に聞いてみようじゃないか。もし、ぜんにんが勝つと五人中多くが言ったら、オレは全ざいさんをおまえにやる。しかし、ぎゃくなら、おまえのざいさんは、全ておれのものだ」




 町の人々は口々に言いました。




「世の中、ぜんにんが生きづらくなっている。しょうわるが、あまいしるをすって、いい思いをして、そのうえ金をもっているのだから、やりきれない」




 兄はしめたとばかり、弟の全ざいさんをいただきました。


 弟は、どうにかたのみこんで、家にすむことだけは、ゆるしてもらいました。


 が、つまも子どももいるのに、米つぶ一つないくらしで、一家はしだいにうえてゆきました。


 子どもがおなかをすかせてないているのを聞くと、弟は心ぞうがとびでるほど苦しくなり、とうとうつまに言いました。




「天の神さまは全てを兄におめぐみなさった。その弟が、兄に助けをもとめることを、わるいこととは思うまい」




 そして、からのフクロを持って、兄のところへ行きました。




「アニキ、つまも子どももまずしくて死にそうだ。どうか助けてくれないか。米をわけてほしいんだ」




「金をもってくるならな。ただじゃやれんなあ」




「その金があれば、苦労はしてないんだよ。アニキはなんだって持ってるじゃないか。めぐんでくれ」




「ただじゃいやだといってるだろう。もし、本当に金がないなら、片目をおいていけ」




 弟は耳をうたがいました。


 これが実の兄の言うことでしょうか。




「おれを片目にするつもりか」




「いいじゃない。片目が見えるんだから」




 弟は、これも神さまのおぼしめしだと思い、片目をくりぬいて、米をひとフクロめぐんでもらいました。






 さて、米のひとフクロでうえをしのぎましたが、やがてその米もつきると、おなじことが起こりました。


 弟はもう片方の目もくりぬくと、米をひとフクロめぐんでもらいました。


 つまと子どもたちは、またも血まみれで帰ってきた、弟を見ると、たいへん悲しみ、なげきました。


 しかし、弟は言いました。




「今まで、ものごいははずかしいことだと思ってきたが、これでものごいをするほかなくなった。さあ、おれの手をひいて、町へつれて行ってくれ。どこかのやさしい人が、めぐんでくださるだろう」






 ものごい生活が始まりました。


 弟は、毎朝、つまに手を引かれて、町角へゆき、めぐんでもらった食べ物とお金で食いつなぎました。


 しかし、あるとき。




「つまがむかえにこないな……手さぐりでも、帰るか……」




 ところが、目の見えない弟は、ある森の中に迷いこみ、とある木の根元にこしをおちつけ、ひとばんすごすことに決めました。


 その木の上には、じつは、四人のアクマが集まっていました。


 アクマのかしらが言いました。




『さて、今月はどのような悪事をはたらいて、どんなふうに人々をこまらせたか、ほうこくしてもらおう』




 一人目のアクマが、かしらのアクマに言いました。




『へへへっ。オイラァ、この町でふたりの兄弟を見つけたんでさ。善悪のことでケンカになったんで、弟が負け。そこでオイラ、やつの目玉をくりぬいてやりやした!』




『けっこう。やつめ、一生目が見えないままだな。この木の葉のつゆをぬれば、目が見えるようになるとは、知るまい。フォハハハ』




 アクマのかしらは、よろこびました。


 二人目のアクマが、かしらのアクマに言いました。




『わたくしは、となり村の、川という川、池という池、井戸という井戸をひからびさせました。人々はうんと苦しみ、いってきも水をのめずに、のたれ死ぬでしょう』




『それはけっこう。となり村のやつら、全員死ぬな。あの山の上の七つの岩をどければ、たっぷり水がでてくることを、知るまいからな』




 アクマのかしらはもっと、よろこびました。


 さて、三人目のアクマが、かしらのアクマに言いました。




『あっしは、みずうみのほとりにある国の、王女にのろいをかけてきやした。これがきれいなむすめで、よめいり先が決まったもんで、町中お祭りだったんですが、そのときをねらってですね、口をきけなくしてやりやした。町中悲しみのどんぞこでやす』




『これはけっこう。王女は二度と口をきけまい。この木のエダをすりつぶしたものをのめば、しゃべれるようになるとは、知るまいからな。それでは!』




 アクマたちは、一か月後にまた、この木の上に集まることをやくそくして、さっていきました。


 彼らの話を聞いていた弟は、まず、この木の葉のつゆを、目のくぼみにすりつけました。




「おお、ぼんやりとだが、少しずつ見えるようになってきたぞ……」




 朝日がのぼっていました。


 弟は、この木のエダを何本か、ポキリポキリとおりとると、いそいでわが家に帰りました。


 そして、つまにぜんぶ話してしまうと、いそいでとなり村へ行きました。


 そこでは、水が全くなくなって、バタバタ人が死んでいました。


 弟は、王さまにあいに行き、人手をかりると、つるはしなどの道具を持って、山の上の七つの岩をどけました。


 すると、いずみがわいて、となり村の川という川、池という池、井戸という井戸がうるおいました。


 人々は助かり、王さまはたいへん喜びました。


 王さまは、弟にたくさんのほうびを与え、たたえました。


 しかし、弟はすぐに、みずうみのほとりにある国へ行き、王さまにあって言いました。




「王さま、王女さまが口がきけなくなったとか。それをなおしてさしあげます」




 そして、あの木のエダをすりつぶすと、王女にのませました。


 王女はすぐにしゃべれるようになりました。


 王さまはたいへん喜びました。


 王さまは、弟にたくさんのほうびと、車、馬を与えて、たたえました。






 さて、目も見えるようになり、抱えきれないほどのほうびで、大金持ちになった弟を、兄はねたんでくやしがり、がまんできなくなって、秘密を聞きに来ました。




「いいじゃない、いいじゃない。ちょっと聞かせてくれるくらい」




「アニキ、あの森の中の一本の木に、アクマがひと月に一回、集まってくるんだよ……」




「む! そうか。ではさっそく行ってくる!」




 兄は言われたとおりの場所に来て、木の根元にすわっていました。


 やがて、四人のアクマが集まってきました。




『先月の仕事がみんなしっぱい。これは、きっとおれたちの話を、ぬすみぎきしていたやつが、いるにちがいない』




 そして、ぞろぞろと木からおりてきたアクマたちは、木の下にすわっている兄を見つけました。




『こいつだな!』




『おまえら、やれ!』




『へい!』




 兄はくびり殺されてしまいました。

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