ゾウの女王

 むかしむかし、あるところに、まずしいけれど思いやりのある、ジャイマーラーという女せいがいました。


 彼女は聖人のつまで、それはそれはつつましく、はでなところのないくらしぶりでした。


 市場へ行くと、聖人の夫にはおふせが集まります。


 ジャイマーラーは、つむいだ糸をわずかな金にかえ、彼と、森のけものたちに、食べ物を見つくろってはわけ与えていました。


 森のけものは、シカ、イノシシ、ヤギ、小鳥、ときにはゾウまでも集まってきました。


 夫婦は、けものたちにしたわれ、ときにくだものを、ときにきせつの野菜をおかえしにもらい、幸せにくらしていました。






 ところが、ジャイマーラーの幸せは、とつぜんやぶられました。


 夫が第二夫人をむかえたのです。


 その第二夫人は、わがままで、みにくく、もらいてのない、なまいきな娘でした。


 しかし、資産家の聖人の娘だったので、大きなおやしきを建てて、夫とくらし、ジャイマーラーをめしつかいのように働かせました。


 泣いてくらしたジャイマーラーは、あるとき、きひんのある美しいゾウにであいました。




「どうしてだろう。あなたが泣くのを見るたびに、川の水が塩からくなっていく」




「それは……ですのよ。ですから……」




「おう! そのようなことが!」




 ゾウは、ジャイマーラーの身の上を知ると、いだいな力をもって、ジャイマーラーの小さな家と、その横の第二夫人のおやしきを、どとうの水でおし流してしまいました。




「そんなむじひな人間の世界などすてて、わたしの国へ来なさい。そして女王になって、わたしたちとくらしましょう」






 帰る家のなくなったジャイマーラーは、言葉を失いました。


 そうしてぼうぜんとしていると、ゾウは長い鼻で彼女をだいてもちあげ、せなかにのせると、長い旅にでました。






 七日と七ばん、森の中を歩いて、彼らはゾウの国にたどりつきました。


 よいかおりがします。


 ジャイマーラーは、うっとりとして真白なおしろにみちびかれ、真っ白な玉座にすわりました。


 そうしていると、まるでジャイマーラーは、美しい人形のようでした。


 ゾウたちが何千頭も集まり、長い鼻を高々とさしあげて、ジャイマーラーの前にうやうやしく、ひざまずきました。


 いつのまにか、ジャイマーラーのなみだは、かわいていました。






 あくる日、ゾウは彼女をふたたび、せなかにのせて、大きなにじ色にかがやくタキにつれて行きました。


 そして、七つのツボに、七色のタキの水をそそぎ入れると、ジャイマーラーの頭にふりかけました。


 すると……。


 ジャイマーラーは、美しい一頭のメスのゾウになっていました。




「さあ、これからあなたは、わたしたちの女王。あなたの命令がわたしたちのおきて。幸せにくらしましょう」




 その森では、今もゾウたちのむれの先頭に、必ずメスのゾウがいるそうです。

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