大店のにょうぼう

 むかし、ごうよくな王さまが、一人いました。


 王さまは、はぶりのいい商人の話をきき、その金持ちなことを知って、ざいさんをうばってやろうと思いました。


 しかし、商人にあとから文句を言われるのはいやでしたので、なんだいをつきつけて言いました。




「今から言う、四つのものを、しょもうする。六ヶ月の間にもってこなければ、おまえのざいさんをうばうぞ」




 王さまは、ごうよくですから、ようしゃしません。




「その四つのものとは、なんでしょうか」




 商人がたずねると、王さまが言いました。




「どんどんへるもの、どんどんふえるもの、へりもしなければふえもしないもの、へってもまたふえるもの、この四つだ」




「へへえ、かならずや……」




 商人はしぶしぶながら、けいやくの紙にサインをし、しゅってんしている店のほうぼうへ、手紙を書きました。


 しかし、どの店からも、ことわりのもんくがとどくだけ。




「金に糸目をつけないといわれましても、とうほうではあつかっておりませんので、ごしょうちおきください。おもとめのものは、見たこともなければ聞いたこともない。まかふしぎにて……」




 そうだよね、と商人は落ちこみました。


 このままでは、王さまにざいさんをとられ、自分はもんなしになってしまいます。


 なやんでいると、にょうぼうが言いました。




「あなた、なにをそんなにがっかりしているのです?」




「王さまが……いや」




 にょうぼうに何を言ったところで、と商人はだまりました。


 おっとが言わないので、このにょうぼうはますます心配になり、といつめました。


 そして、王さまのいいぐさを知ると、こう言いました。




「まあ、あなた。そんなものなら、あたくし、とついで来る前から持ってきました。今も大事にしまってあります」




「なに? ほんとうか! それはなんだ?」




「まあ、それはともかく、王さまにはこう言ってください。おもとめのものはにょうぼうがもっています、と」




 商人はその通りにしました。


 すると、王さまはおうへいにつかいをよこして、つげました。




「そんなら、そのにょうぼうを王さまの前に、つれてきなさい」




 にょうぼうは何度も言いました。




「まずは信用のおけるつかいをよこしてください。そのつかいから、おきさきにわたしてもらい、おきさきから王さまにわたすようにいたしますから」




 けれど、王さまは、さいしょからむりなんだいを言っているので、こまらせるつもりです。


 何度も、べつのつかいをよこして同じことを言いつけました。




 ついににょうぼうは、王さまのところへ行きました。


 しかし、手にはオボンを持ち、その上には牛乳とひよこ豆ひとつぶとエンドウひとつぶ、草を一本のせていました。


 王さまのところへ行くと、その前に牛乳をおき、王さまのしもべたちの前には豆と草をおきました。




「これはどういう意味かね」




「その前に、おもとめのものを、おうけとりください」




「これらの意味を先にもうしのべよ」




「いいえ、先に四つのものをうけとっていただきます。その上で、これらの意味をせつめいいたします」




 女房は言いました。




「まず、どんどんへるものとは、じゅみょうをさすものでございましょう。つぎに、どんどんふえるものとは、よくぼうをさすものでございます。そして、へりもせずふえもしないものとは、人のさだめにございましょう。最後に、へってもまたふえるものとは、自然でございます」




 さて、答えてしまってから、にょうぼうは言いました。




「このような場に、商人のにょうぼうをひきだすのを、止めもしないしもべなど、ロバか馬にございます。ですから、ちくしょうが好きなものをさしだしました。そして、王さま、あなたが子どもだというのなら、お乳をおのみなさいませ」




 王さまのしもべには、ロバか馬しかいないと言い切り、王さまは子どもかとののしったことになります。


 王さまは、だまってしまいました。


 にょうぼうは言いました。




「これでも、あなたがあたくしどもの王さまである、とおっしゃるのでしたら、もう何も、もうしあげることはございません」




 にょうぼうはピシャリと言って、さっさと帰りました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る