ヤマアラシとゾウ

 あるところに、頭のいいヤマアラシがいました。






 ヤマアラシは川のほとりに住んでいました。


 あるとき、ヤマアラシはおいっこに、水を持ってくるように言いました。


 ヤマアラシのおいっこは、言われた通りに川まで行って水をくんでこようとしました。




「えっ?」




 川はドロでにごっています。


 これではのみ水になりません。


 おいっこは、走ってヤマアラシのおじさんに言いました。




「なに? 水がドロだらけだと? しょうがねえな。またアライグマかなんかが、あそんでいやがるんだろうさ。さっさと追い出して水をくんでこい」




「はい」




 おいっこは、また川に行って、水の中をよく見ました。




「ぱおーん」




 中であそんでいたのは、ゾウでした。




「ゾウさん、そこであばれられると、水がのめないから、出てください」




「うーん? ボクが水あびしてるのが、そんなにきにくわないの? うーん。じゃあ、ボクより大きい生き物にだったら、けいいを表して、あやまってもいいよ。けど、今はまだあがりたくないなあ」




 これを聞いたヤマアラシは、自分の一番太くて長い毛を一本、ぬきとっておいっこにわたして言いました。




「このりっぱな毛の持ち主だ。おまえがこれより、りっぱな毛のもちぬしだったら、あやまってやる。そうでないなら、早くどかないとおこるぞ」




 ヤマアラシのおいっこから、毛をわたされたゾウは、びっくり。




「うーん。これほどの太くてりっぱな毛は、ボクにもないぞう。わかった、あやまる……」




 ヤマアラシは、ゾウが行ってしまった後で、好きなだけ水をのみました。






 ところが、ある日ゾウは見てしまったのです。


 ヤマアラシが、小さな体をして、昼ねをしているところを!




「あの毛の持ち主が、こんなにちっぽけだったなんて、頭にきた!」




 ゾウは、長い鼻でヤマアラシをおしのけようとしました。


 すると、パチッと目ざめたヤマアラシが、とつぜん言いました。




「あ! 木がたおれてくる!」




「え? それはたいへん」




 ゾウが上を見ると、たしかに木がたおれてくるように、見えました。


 ゾウは長い鼻で、しっかりと木のみきを支えました。


 するとヤマアラシは、するりととおりぬけて、




「お! サンキューな。オレはちょっとヤボ用だ」




 と言って、どこかへ行ってしまいました。


 ゾウは、そのまま三日も木を支えていました。


 おなかがへって、どうにもガマンができなくなったので、帰ってこないヤマアラシにわるいと思いながらも、鼻を少しどけました。


 木はちっともたおれてきませんでした。




「うーん? だまされたんだぞう!」




 ゾウはおこって、その日から、ヤマアラシをきょくたんにきらい、追いかけまわすようになりました。


 そのころ、ヤマアラシは家族に、まぬけなゾウのことを何べんも話して、わらいころげていました。






 また、とある日、ヤマアラシが山にいると、ゾウが足をならしてやってくるのが、見えました。


 ヤマアラシは、そのへんにころがっていた大きな岩にかけよると、こう言いました。




「お! こんなところに、神の助けだ! おおい、ゾウさん、この岩がころがってふもとの家族をおしつぶさないように、助けてくれ!」




「うーん。そういうことなら、まかせてくれる?」




 力のあるゾウは、たのみをひきうけました。


 そのまま何日も、大岩の前で、ふんばりつづけました。


 気がつくと、ヤマアラシのすがたはどこにもなく、大岩もさしてころがってあばれるようすはありません。




「うーん……これは、またけしからん!」




 ゾウはおこって、ヤマアラシのところへもんくをいいに行きました。


 すると、ヤマアラシは、また森の岩の下へもぐりこみ、




「おおい! たすけてくれ! 岩におしつぶされてしまう!」




「え! それはたいへん」




 ゾウは長い鼻で、岩をささえました。




「へっへん! また、だまされにきやがったな」




 ヤマアラシはわらって、さっていきました。


 ゾウは、気がつくと、カンカンになっておこりました。






 そこで、ヤマアラシとゾウは力くらべをすることになりました。




「ボクとおまえ、どちらかが二回、勝ったら、相手を殺す!」




 そんなぶっそうなたいけつとなりました。


 しかし、ヤマアラシは、アナホリたいけつのときには、前の日にほっておいたアナにもぐりこみ、勝利。


 そして、かけっこのときは、前の日に周囲のヤマアラシにたのんで、けいかくを話し、ゾウの先にあらわれては、




「やあい、のろま」




 とはやしておこらせました。




「はあ、ふう、どうして全力ではしっているのに、勝てないんだ」




 ゾウは、負けをみとめましたが、殺されるのがこわいので、森をにげだして、にどと帰ってきませんでした。






 今でも、その土地の山には、ゾウは近づきません。

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