ツボむすこ





 あるところに、こしのまがったおばあさんがいました。


 おばあさんは、四つのツボを買ってきて、たなにならべておきました。


 そして、こしをたたいて、言いました。




「やれやれ。わたしにむすこがいたなら、麦かりに行ってくれるんだろうに」




 すると、たなでツボが、カタコト鳴りました。




「まあ、ないものねだりだねぇ」




 おばあさんが、目をしぱしぱさせて、マドの外を見ていますと、ツボがそばにやってきて言いました。




「かあさん、おれ、麦かりに行こうか」




「へえっ?」




 おばあさんが、おどろいていると、ツボはなおも言いました。




「かあさん、おれ、麦をかりに行こうか?」




 そうして、おばあさんの目の前をカタコト動いて、戸を開けて麦かりに行ってしまいました。






 地主は、このツボを見て言いました。




「おめえさんにはむりだな」




 そして、タバコを口にふくむと、プワーッとふいてはきました。




「いったい、なんだってツボが麦かりに来たんだ」




「やらせておくれよ」




「できるもんならな」




「よし! やるぞー!」




 ツボは、五ちょうぶもあろうかという、地主の麦畑を、一人でかってしまいました。




「へえ、おまえさんやるねえ」




「この麦たち、だっこくしおわったら、ツボいっぱいになるくらい、麦をくれる?」




「ああ、そんぐれえいいよ」




 地主は、ツボをあまくみていました。


 だっこくした麦を、ツボのそそぎ口にいくらいれても、いっぱいになりません。


 何時間もかけて、ようやくいっぱいになったと思ったら、麦はもうひとつぶも残っていませんでした。


 地主は、ざんねんに思いましたが、やくそくしてしまったので、だまっていました。


 ツボは麦をつめこみ、カタコト帰ってゆきました。




「ただいま、かあさん」




 おばあさんの家のうつわという、うつわが、麦でいっぱいになり、その年の食べ物にはこまらなくなりました。






 また、あるとき。


 おばあさんが、りょうりちゅうに、やけどをしてしまいました。


 たなでカタコト、ツボが鳴りました。




「かあさん、もう、台所しごとはやめたほうがいい。おれがおよめさんをつれてくるから」




 そういうと、ツボはカタコトいって戸を開けて、けっこんしきの花ムコのところへ行きました。


 花ムコが、そわそわしているのを見かけたツボは、中に水を入れて、道ばたにちょこんとすわっておりました。


 それを見つけた花ムコは、用をたせるとばかりに、そのツボにすわりました。


 ツボは花ムコにくっついて、はなれなくなりました。




「うわあ! なんだ、なんだ?」




「花ヨメをくれると言うまで、はなれない……」




「やるやる! やるから、はなれて!」




 花ムコは、めとったばかりの花ヨメと、ツボのえんむすびのぎしきをとりまとめてしまうと、とっとと家に帰りました。


 花ヨメをつれて、ツボはカタコト帰ってゆきました。




「かあさん、これからはこのおよめさんが、台所をとりしきってくれるから」




「おやまあ!」




 こうして、おばあさんの家は、またにぎやかになりました。






 またまた、あるとき。


 ツボがカタコト、おばあさんのそばに来て言いました。




「かあさん、もう、パンをかむのはたいへんだろう。よいミルクを出す牛を連れてきてやるよ」




 ツボはカタコトいって、戸を開けると、川で水をのんでいる水牛のところへ行きました。


 ツボはその水牛のハラにくっついてはなれなくなりました。




「ンモォー! モモモォー!」




 牛はとんで、はねて、あばれましたが、それでもツボはとれません。


 そのままかけて、たどり着いたのが、おばあさんの家の前でした。




「かあさん。これでおいしいミルクがのめるよ」




 おばあさんは、しんじられないやら、おどろくやらで、口もきけません。


 そうして、くらしていると、ツボがカタコトやっているのが、「むすこがヨチヨチ歩いている」ように見えるおばあさんでしたが、およめさんはちがっていました。


 よるに彼女が手をふれると、ツボは美しいわかものに変身するのです。


 けれども、それはないしょのヒミツ。

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