チューンとエリィ

 むかしむかし。


 ある古い村で、男と女がであいました。


 男の名はチューン。


 女の名はエリィ。


 チューンは愛のしるしに、エリィに青い玉のペンダントをおくり、エリィはそれをかたときもはなしませんでした。






 しかし、エリィの父親は、まずしいチューンとのつきあいを、みとめてくれませんでした。


 恋こがれて、たがいに会えない日は、おちつかず、気持ちがしずむ、チューンとエリィ。


 そんなある日、エリィの父親が言いました。




「エリィ、おまえは村一番の金持ちとけっこんするんだ。どうだ、いいだろう」




「おとうさま、わたし、いやです」




「おまえはわたしのむすめなのだから、言うことをきかなくてはいけないよ。さあ、ここにいる、この青年とけっこんすることに決まったよ」




「まって、おとうさま」




「さあ」




 そこには、宝石や衣できかざった、ぜいたくな男がいました。




「エリィ、このわたしにつりあう女は、そうそういません。こんやくのしるしに、プレゼントがあります。このようなものでよろしいですか。お気にめしましたか」




 ぜいたくな男は、赤い玉のブレスレットを、エリィにあてがいました。




「いやです。わたし、いやです」




「エリィ。わたしは、あなたの父親が決めたいいなずけです。かってはゆるしませんよ。二度とその口からいやという言葉は言わせません」




「そんな……」




 ぜいたくな男は、花をいちりん、さしだして、エリィのくちびるをふさいでしまいました。






 チューンは、そのころさかばで、りょうりをはこぶてつだいをしていました。




「やぁだ! それで、エリィとこんやくしたの?」




 女たちの、キンキンした声がひびき、戸口からぜいたくにきかざった男が、はいってきました。




(エリィ? いまたしかに、エリィと言った……こんやくだって? まさか……)




 心さわぐチューンでしたが、もうまにあいません。


 エリィは、けっこんすることに、決まってしまったのでした。


 ぜいたくな男は、せきに女たちをすわらせて、言いました。




「ああ。とてもじみな女でね。しかし、金を持っている。どうやらキミたちとアソベルのも、今のうちってわけでさ」




 チューンはこの男をなぐりつけました。




「きゃあ!」




「なんだおまえは!?」




「エリィは、わたさないぞ!」




 チューンはエプロンをはずして、なげすてました。




「オレは……オレは、エリィだけを……」




「へえ……」




 ぜいたくな男は、ニヤリとわらって言いました。




「あの女もたいがいアソんでるな。けっこんしたら、しつけないといかん」




「オレたちは、しんけんだ!」




「けっこんするまえの相手は、みんなアソビだ」




「このヤロウ!」




 そのとき、店にけいさつがはいってきました。


 ぼうりょくをふるった、チューンはけいさつにつかまって、ろうやにいれられてしまいました。




(エリィ、ほんとうに、あんなやつとけっこんしてしまうのか……オレには、どうすることもできないのか)




 石のろうやで、エリィをおもうチューン。


 なみだが、けいさつになぐられた、ほほにしみました。




「ようやく、おとなしくなったな」




 ふってきた声に、チューンが顔をあげると、エリィの父親がいました。




「おまえに、むすめはやらん」






 こんやくが決まってから、エリィはしんでんのさいだんに、毎日いのりをささげていました。


 そこへ村一番の金持ちの男がきて言いました。




「けっこんまえに、からだをきよらかにするのはいいことだ」




 ぜいたくな男は、エリィに近づくと、そのほほにふれました。




「いやです!」




「それは、言わせないと言いましたよ」




 するどい音がして、男のほほが、うたれて赤くなりました。


 すぐにエリィは、うちかえされて、うでをおさえつけられてしまいました。




「わたしに、さからうなと言っている。さもないと、あの男を殺す」




「チューンを殺す……?」




「ふふふ。そうか。チューンというのか」




 エリィは、はっとしてくちびるをかみました。


 しかし、男は衣をひるがえして、行ってしまいました。


 男のそのほほには、くつじょくとうらみが、にじんでおりました。






 けっこんしきの当日になりました。


 エリィのいいなずけは言いました。




「なぜ、赤い玉のブレスレットをしていないのだ。わたしのプレゼントだぞ? ありがたくつけるがいい。わたしの花よめ……」




 エリィはずっと、なにかを思うように、あおざめていました。


 けっこんしきをとりおこなう、しんでんまでの道のりで、エリィはふと、気がふれたようにわらい始めました。




「わたし、もう、ガマンできない!」




 ぜいたくな花よめいしょうをぬぐと、エリィははだしでにげだしました。




「花よめが、気がおかしくなった! ふきつだ!」




 しゅういの人々は、そういって、エリィをつかまえると、ベッドにくくりつけてしまいました。


 そのまま、何日もそうされていて、エリィはついにかんねんしました。




「ごめんなさい。チューン……」




 エリィは、そのまま死んでしまいました。






 エリィの死を知ったチューンは、おもいなやんで、自分も死のうと思いました。


 そこで、ニワトリをいけにえにささげて、神にいのりました。




「神さま。オレの命をとってください。オレを死なせてください」




 いのりはききとどけられ、まもなくチューンは死にました。






 その後、エリィのいいなずけが、彼女にらんぼうをはたらいたことがわかり、エリィの父親はいかりました。




「わたしのむすめに、なんということをしてくれたのだ」




「これはお父上さま。彼女が男をつかって、わたしにらんぼうをしたのです」




「なに?」




「たしか、チューンとかいう、男ですな」




「あいつか!?」




 エリィの父親がしらべたところ、チューンは死んでいましたから、手もとには彼の日記ちょうだけがとどきました。


 そこに書かれた、チューンの気持ちを知って、エリィの父親は、ふかくはんせいしました。




「これほどまでに、むすめをおもう気持ちを、なぜふみにじってしまったのだ。エリィよ、すまない。すぐにおまえの男をそばにおいてあげるからね」




 エリィの父親は、チューンの日記ちょうを、エリィの青い玉のペンダントのよこにおき、しんでんにささげました。






 そのころ、エリィのいいなずけの男は、うかないかおをして、川べりを歩いていました。


 ふと、川のきしべを見ると、なにか光るものがありました。


 それは男が、エリィにあてがった、ブレスレットでした。




「おのれ、わたしをバカにして……ゆるせない。あの世でも、チューンなどという男とは、いっしょにさせない!」




 エリィのいいなずけは、草のたばをつかむと、しんでんのさいだんにおきました。


 それはちょうど、チューンの日記ちょうと、エリィのペンダントのまん中でした。


 すると、エリィの父親のユメに、エリィがないてあらわれました。




『おとうさま、大きな木がじゃまで、わたしはあのひとといっしょになれない』




 エリィの父親は、目がさめるとしんでんへ行って、日記ちょうとペンダントの間においてある、草のたばをどけました。


 しかし、エリィのいいなずけは、こんどは竹づつに水をいれて、おなじ場所におきました。


 すると、エリィの父親のユメに、エリィがないてあらわれて、言いました。




『おとうさま、大きな川があって、わたしはあのひとといっしょになれない』




 エリィの父親は、目がさめるとすぐにしんでんへ行って、竹づつをどけました。


 エリィのいいなずけは、こんどは、赤い玉のブレスレットを、おなじ場所におきました。


 すると、エリィの父親のユメに、エリィがないてあらわれて、言いました。




『おとうさま、いやだと言っているのに、しつこくされて、わたしはあのひとといっしょになれない』




 エリィの父親は、目がさめるとしんでんへ行って、ブレスレットをどけました。






 ようやく、エリィの父親にも、なにが二人をじゃましているのか、わかりました。


 エリィの父親はエリィのいいなずけのところへ行くと、彼の目の前で、ブレスレットをこわしました。


 エリィのいいなずけは、ショックをうけて、口もきけませんでした。






 そのことがあってから、もう二度と、エリィは父親のユメにあらわれませんでした。


 人々は、二人があの世でむすばれたのだと、語りつぎました。

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