ネコのおてて

 むかしむかし、あるところに、四人の商人が、協力して商売をしていました。


 商売もののワタを、ネズミがかじるといけないので、ネコを一匹かっており、その買い値は四分の一ずつもちました。


 彼らはネコの足を一本ずつ選び、めいめい自分のものとし、思い思いのカザリをつけて、かわいがっておりました。






 ところが、あるとき、このネコが、足の一本にケガを負ってしまいました。


 この足の持ち主は、たいそうきのどくがり、ていねいにキズの手当てをして、油をぬった布をまきつけてやりました。






 キズのいたみは引いたのでしょうか?


 ネコは、ケガをした足をひきずりながらも、あちこち動き回るようになりました。






 ある日、商人たちが商売にでかけてしまうと、ネコはすぐさまへやでジャレて遊び始めました。


 そうしているうち、カマドの火が足の布にもえうつり、ネコはおどろいてあちこちかけまわりました。


 苦しかったのでしょう、ネコはソウコまでいってはねまわると、ほうほうのていでにげおおせました。


 しかし、ソウコのワタはぜんぶ灰になってしまいました。






 仕事を終えて、帰ってきた商人たちは大あわて。


 ざいさんが灰になったのが、ネコのせいだとわかると、ケガをしていない足の持ち主が、ケガをした足の持ち主を責めました。




「油をぬった布なんかまくからいけない。それで火がもえうつったんだ。なんとかしろ!」




 三人は口ぎたなくののしり、ことはさいばんにまでもちこまれました。






「そちたちのうったえを聞こう」




 さいばんちょうが、たずねました。




「ケガをしたネコの足に、まいてあった布に引火したのです。ケガをした足の持ち主のせきにんです」




 ケガをしていない足の持ち主たちが、口々に言いました。




「そちの言い分を聞こう」




 さいばんちょうが、たずねました。




「ネコにはふんべつなどあろうはずもない。そのかなしさで、わたしたちはざいさんを失いましたが、それはわたしたちが力を合わせればまた、なんとかなるものです。ネコはやけどで苦しんでおりますから、かわいそうでならない。しかし、わたしは、さいばんちょうさまの、おさばきにしたがいます」




「ふむ」




 さいばんちょうは、じっくり考えてから言いました。




「ネコは足をケガして引きずっておったのだな?」




「そのとおりでございます」




 三人は、口をそろえて言いました。


 さいばんちょうは、すこししんちょうにたずねました。




「四人でまた、やりなおしていく気はないのか?」




「ありません!」




 三人は、あくまでもケガをしていた足の持ち主が、全て悪い、だから灰になったざいさんを、べんしょうしろと言いました。


 そこで、さいばんちょうは、重々しく言いわたしました。




「ネコを動かし、走らせたのはケガをした足ではない。だから、ケガをしていない足の持ち主がそのせきにんを持つべきである。ざいさんとネコの買い値の四分の一を彼にしはらうように」




 三人はショックで口がきけませんでした。


 他人をおとしめようとして、まさか自分たちがドロをかぶろうとは!




「これで、ほうていを閉める」






 思いやりのある男のために、ネコはその後も働いて、ひとざいさん、きずいたという話です。

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