野ウサギのとくし

 むかし、谷にすむヒツジとヤギがおりました。


 二人は夏にむけて、北の大高原に向かいました。


 たっぷり草を食べて、太るためです。






 しかし、そのときはうん悪く、ハラをへらしてうろつきまわる、オオカミにであってしまいました。


 ヒツジはいっしょうけんめい、おねがいしました。




「秋にはきっと、おおごちそうになって、またこの道をきますから、どうか今は食べないでください」




「りょうかい」




 その方がとくだと、オオカミにも思えたので、やくそくをしてわかれました。






 秋になり、たいへん太ったヒツジとヤギでしたが、オオカミとのやくそくを思い出し、気持ちが重くなっていきました。




「ぽっぽ~~ん!」




 たまたま、野ウサギがピョンピョン、ピョン! と通りかかりました。


 そして、おはようを言うために、道にたちどまると、ヒツジとヤギが、それはかなしそうなのに気づきました。




「ぽぽ~~ん? おはようございます、ヒツジさんにヤギさん。そんなにかなしそうにして、どうしたのです?」




 野ウサギはそう言って、耳をかたむけました。


 ヒツジは言いました。




「このあたりのオオカミと、わたしたち、やくそくをね……」




「ほおう! どんな? どんなやくそくなんです?」




 そこで、ヒツジはすっかりわけを話すと、どっとなみだをこぼしました。




「ぽっぽ~~ん!」




 野ウサギは言いました。




「それはたいへん。いいですか、そのけんはぼくにぜんぶまかせてください。せきにんは持ちましょう。オオカミのあつかいなら、ぼくこころえてますから」




 そうして、野ウサギは、どこからか上とうのふくとけおりものの上着、はやりのぼうしをもってきて、左耳に金のわをつけ、耳の後ろに筆をはさみ、大きな紙をもって言いました。




「これでぼくは、シナのやくにんに見えるはずです」




 それから、小さなつつみ二つをヤギのせなかに、小さなクラをヒツジのせなかにくくりつけ、自分はその上にすわって、オオカミのもとへとむかいました。






「そのほうは、なにやつじゃ!」




 野ウサギは、きちんとやくそくの場所へ来ていたオオカミに、いばってといかけました。




「わたくしは、正式なけいやくのもと、そこのヒツジとヤギを食べにきたオオカミです。しつれいですが、あなたはどなたさまでしょうか」




 オオカミは身を低くして、言いました。




「うむ、わたしはシナのこうていの、とくべつのつかいだ。インドの王さまに持っていくオオカミの皮100枚を用意するよう、まかされておる。さても、ここであったが幸運よ。おまえの皮をいただこう」




 そして、野ウサギは、耳にはさんでいた筆をとりだし、手に持っていた紙に、大きく「一」と書きました。


 オオカミは、ふるえあがって、いちもくさんに、にげてゆきました。

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