トルコ玉

 むかしむかし、50歳になるまで、実の母親に甘やかされて育った男がおりました。


 ところが、ある日。




「シュウォウォウォウォ~~ン!」




 なんだかまばゆい光と共に、こうごうしい声がしました。




「若返りたくないかね、そこの若造」




「50歳になってまで、若造と呼ばれるとは思わなかったよ。あんただれ?」




「神様だよ」




「じゃあ、15歳になりたいなあ」




「いいじゃろう。ほれ!」




 と言って、神様はファッファッファッファ~~! と消えました。


 15歳の少年にもどった男は、旅立つことに決めました。


 80歳の年おいた、母親は言いました。




「おまえがいなくなったら、わたしはこどくのうちに死ぬにちがいない」




「そんなことはないよ。また、帰ってくるから!」




「それなら、いいんだけれど」




「ぼくは自分の道を見つけるよ!」




 そういうと、少年は母親が用意してくれた、新しい服を着て、ウマ、イヌ、じゅう、つるぎをもってでかけました。






 たびの道は、ただ長いだけで、なにも起こりませんでした。


 少年はたいくつしていました。




「トラでもでないかな」




 まったく、せけんしらずなことを言いました。


 すると、前方のしげみに、なにものかのけはいを感じました。




「でたか!」




 それは、元気のいい、キツネでした。


 ピョンピョンはねて、森の中へとかけて行きます。


 おそれしらずのイヌが、さっそくおいかけました。




「おもしろくなってきたじゃないか!」




 少年はウマでおいかけました。


 キツネはとある場所で、すがたを消しました。


 よく見ると、なにかのすアナがあります。


 少年はぼうしをそのアナにかぶせると、もちものをウマにくくりつけ、イヌにみがまえさせて、自分は大きな石を持ってアナの前にしゃがみこみました。


 キツネがでてきたら、ひとうちに殺してしまうつもりでした。


 しかし、キツネはいきおいよく、アナからとびだすと、ぼうしを頭にひっかけたまま、山の丘の方までかけさってしまいました。


 イヌは、いきおいよくほえ、おいかけます。


 その声におどろいたウマは、もちものぜんぶをしょったまま、いっしょにかけさってしまいました。


 なんと、少年は、あっという間にすべてをうしなってしまったのです。






 ウマとイヌたちをさがして、さまよった少年は、つかれはてて、やがてさがしまわるのをあきらめてしまいました。




「もう、どこをさがしたらいいのかも、わからないや……」




 そうして、山の中の、一本のポプラの木の下によこになり、よるをすごすことにしました。


 そしてよあけごろ、木の上で、オオガラスの声がしました。




『があ、あなた、わたしたちの木の下に、ねころがっているのはだれかしら』




『ああ、あれはね。せけんしらずの少年さ。ゆうべ、しなくてもよいことをして、すべてをうしなった、まぬけだよ』




『わかりましたよ。あの少年がすべきことは、北の町にいって、こううんをつかむことなんです』




『おまえはマメに、じょうせいをよむな』




『カラスのかってでしょ』




 それを聞くや、少年は北へむかいました。


 しばらくいくと、前方から、ものごいの女がやってきました。


 少年はあいさつをすると、話しかけました。




「こんにちは。あのね、ぼくね……」




「ふん、なにさ! こっちはあんたなんかに用はないよ!」




「そんな、言い方しなくてもいいじゃないか……」




「あんたが、あたしになにをしてくれんのさ!」




「ぼく、もんなしになっちゃったんだよ……それでね……」




「そらみたことか!」




「あ、あの。あのね、ぼくのもちもの、どこかで見なかった?」




「あっちへいけ!」




 少年は、はげしくののしられて、ショックでした。


 ですが、だまって道を歩いていくと、こんどは大きなおやしきを見つけました。


 マドは明るく、人々の楽しそうな声が、聞こえてきました。


 そこで、少年は戸をたたくと、すぐきためしつかいに言いました。




「あのぉ~~、ぼく、ちょっとこまってて~~」




「ご用けんはなんでしょう?」




「そのぉ~~、ぼく、もんなしになっちゃって~~」




 そのとき、すばやく女がきて言いました。


 けっこんしきのいしょうを着ています。




「なによ! よんでもいないのに、めいわくよ! 手ぶらでなにしにきたのよ!」




「手ぶらなのは~~、わけがあって~~」




「このひろうえんの主役はわたしよ! わたしがしあわせになる会なの! えんぎでもないから、でて行って!」




 花ヨメは少年にツバをはきました。


 少年は、しょんぼりと、それでも道を歩いていきました。


 すると、またいっけんの大きなおやしきを見つけました。


 少年は、またひどいめにあわされると思い、うらぐちへ回りました。


 そして、たいひの中にアナをほって、そこであたたまってねむりました。






 よくじつのことです。


 たいひの中の少年の顔を、こづきまわすものがありました。


 目をさましてよく見ると、それはブタのハナヅラでした。




「まったく、ろくでもない朝だ」




 少年は、勇気をふりしぼって、おやしきのうらぐちからめしつかいをよび、たのんでナイフをかしてもらいました。




「こいこい、こっちだブタのハナヅラ」




 少年は、ものかげに一匹のブタをおびきよせると、首をきりつけ、殺しました。


 そして、その肉へんと頭をとると、たいひの中へもどって、何事が起こるか、見ていました。


 しかし、なんにも起こりません。


 そのうち、おやしきの主人がでてきて、のうさぎょうを見はるために、あちこち動き回りました。


 すると、むねにかけていた、おおつぶのトルコ玉がひとつぶ、おちました。


 おやしきの主人は気づかずに、さっさと家の中へはいっていきました。


 少年は、ふいに、これはチャンスだと思いました。




「このひとつかみのゴミを、トルコ玉にかけて……っと」




 そうして、数分後、おやしきから、一人のめしつかいがでてきて、このゴミをひろうと、うらにわのカベのひびわれにおしこんでしまいました。


 トルコ玉もいっしょだったようです。


 そのうち、おやしきではおおそうどうが起こりました。


 主人のトルコ玉がないことに、いまさら気がついたのです。


 そこかしこ、どこもそこもさがしてしまうと、こんどはまじゅつし、うらないし、おぼうさんがよばれて、じゅもんをとなえはじめましたが、トルコ玉は見つかりませんでした。


 日が暮れると、みんなしょんぼりと帰っていきました。


 少年は思いきった行動に出ました。


 おもてのとぐちに近づくと、大声で言いました。




「ぼくは、ゆうめいなまじゅつしだ! おまえさんがたのさがしものを、見つけてやろう!」




「なんだって!?」




 とぐちからでてきた主人がおどろいて、まさかまさかと首をふります。




「あなどってはいかん。明日、みんなの前でしょうめいしてやるから、町中に知らせろ。そしてぼくにごはんをちょうだい」




 主人はあっけにとられてしまいました。




(いやいや、一回だけでも、チャンスをやろう。そうだわたしは、この町で一番のお金持ち。おたからはぜーんぶ、わたしのものなのだから、しかたがないなあ)




 そうして、主人は、少年がもとめるものを、すべて与えてやりました。






 よくじつ。


 町中の人が、おやしきに集まりました。


 中には、少年をどやしつけ、ばとうしたものごいの女と、少年にツバをはきつけた花ヨメもいました。




「どうしたんだ? おい」




「なにが起こるんだ、なあ?」




「そうよ、はやくして!」




「いいかげんに、待たせないでよ!」




 みんながふしぎそうにしていると、少年がこわきにブタの頭をかかえてやってきました。




「これから、えんぜつを始めます」




 そして、こほん、と、少年はひとつ、せきばらいをしました。




「ぼくには、しんじられないほどの、まほうの力がある。それによって、このやしきの主人がなくしたトルコ玉をさがしあてようというのだ。ここにとりいだしたる、ブタの頭に、チチンプイプイのプイ! さあ、これでまほうの力がやどった。どんな悪事も、悪人もみのがさないぞ。ごろうじろ!」




 少年は、一歩一歩、人々の間を、じゅんぐりにめぐり、花ヨメの前で止まりました。


 ブタの頭が激しく動きました。




「フガフガッ」




「おお、これはいけない。とんでもないしょうわる女だ。自分のことしか考えず、こまっている人にツバをはく、よくない人物だ。この女をたたきだすまで、これ以上のたんさくは、続けられないなあ」




 そこで、人々はこの花ヨメをたたきだしました。


 次に、少年は、ものごいの女の前で立ち止まりました。




「フゴフゴッ」




 ブタの鼻がはげしく、うごめきました。


 もはや、少年が何も言わずとも、まわりの人々はこの女をたたきだしました。




「よろしい。これでたんさくが続けられる」




 そして、少年はうらにわのカベをくまなく見つめ、とあるところで、はげしくブタの鼻をうごめかしました。




「フガーッ、フガーッ」




「まちがいない。このカベの中にトルコ玉はある!」




 そこで、人々は、このうらにわのカベをしらべました。


 すると、カベのひびわれの中から、ゴミといっしょにトルコ玉がでてきました。


 主人はどんなに、おどろき、よろこんだでしょうか。




「ほっほっほ! これは、おれいです。ほっほっほ!」




 主人は、少年に新しい服と、食事、それからお金をたっぷり与えました。




「ぼくはこれで、しつれいします」




「ありがとうございました」




 そうして、少年は、ここへ来るよりも、ずっとましなじょうたいになって、自分の道を行くことにしました。

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