魚がわらう
あるとき、とある宮殿の外を、女の魚売りが通りがかりました。
窓からそれを見た、おきさきが、魚売りを呼びよせて魚を見せてくれるように言いました。
魚売りが、ビクを見せようとすると、底から魚がはねました。
「この魚、オスなのメスなの? わたくしはメスがほしいのだけど」
と、おきさきがいうと、魚は大声でわらいました。
「これはオスでございます」
と、魚売りは言って、立ち去りました。
おきさきは気持ちが悪くて、ふさぎこんでしまいました。
そこへ、王さまがやってきて、言いました。
「そんなに具合が悪そうにして。どうしたのか、言ってごらん」
「わたくし、魚にわらわれましたの。きみが悪い」
「なんとまあ! それはたしかかい? ユメでもみたんじゃあ……」
「いいえ! この目と耳で、見て聞いたのですわ!」
「その魚がわらった理由がわかれば、おまえの気持ちもはれるだろうね? そっこく、調べさせよう」
そういうと、王さまは大臣に命令しました。
「大臣、これから六カ月の間に、魚がわらったわけを調べてくるのだ。まにあわなければ、おまえを死刑にする」
大臣は、王さまの気性がわかっていましたから、必死で調べました。
名だたる学者や、まじゅつし、はては、うらないしにまで礼をつくし、たずねましたが、わかりません。
そんなこんなで五カ月たったころ、大臣はしんぺんせいりをはじめ、むすこを旅に出しました。
王さまのいかりが、むすこをきずつけるのを、おそれたのです。
「けっして、王さまの目のとどくところにいてはいけない。もどってきてはだめだよ」
大臣は、ねんをおしました。
さて、この大臣のむすこは、たいへん、かしこいわかものでした。
数日旅をするうちに、日ぐれて、帰りを急ぐお百姓さんといっしょになりました。
かんかんでりの道を、歩きに歩いて、つかれたわかものは、お百姓さんにこう言いました。
「おたがい、かわりばんこに、おぶって歩かないか? それが一番いい」
お百姓さんは、”こいつは頭がたらないのではないか?”と思いました。
また、わかものは豊作の麦畑にさしかかると、こう言いました。
「この畑は、食べてしまったものだろうか?」
「わしゃ知らん」
お百姓さんは、そう答えました。
また、森にさしかかると、わかものは小刀をさしだして言いました。
「これで、馬を二頭つれてきてくれ。小刀を持って帰るのを忘れずに」
お百姓さんは、”これは頭がおかしいやつだ”と思いました。
そして、深く大きな川にさしかかると、お百姓さんはくつとふくをぬいで、川をわたりましたが、わかものはそのまま川へ入っていきます。
”こりゃあ、ますますおかしい”と、お百姓さんは思いました。
そして、大きな都会にでると、知る人もなく、通り道でだれも見向きもしないのを見て、わかものは言いました。
「なんて大きなはかばだ」
お百姓さんはもう、頭が変になりそうでしたが、おそうしきをしている家にさしかかると、ごくようとして、あたたかなお茶とパンをくばっていました。
「なんてあたたかな街なんだ」
と、わかものは言いました。
お百姓さんはチンプンカンプンでした。
しかしまあ、このわかものは気がいい道づれでしたから、家につれて帰ったら、つまとむすめがおもしろがるだろう、とお百姓さんは思いました。
そこで、お百姓さんは言いました。
「もう、おそい時間だから、わがやにとまっていかないかね?」
すると、わかものは、こう言いました。
「ああ、ありがたいもうしで、かたじけない。しかし、あなたの家の屋根はがんじょうかな? それならばせわになるが、そうでないならえんりょする」
お百姓さんは、わけがわかりません。
いったん、家族とそうだんすることにして、わかものに待っていてもらいました。
「これが、水を土、土を水とも、光を闇ともいいかねない、大うつけなんだよ」
「まあ、父さん。ちがうわ。その方はかしこい方よ。わがやにお客をとめるだけのよゆうがあるか、と聞いているのよ。大うつけだなんて、しつれいだわ」
「でも、おまえ……」
お百姓さんは、首をかしげています。
「じゃあ、かわりばんこにおぶって歩くのがいい、というのはなんなんだい?」
「それは長い道のりだから、かわるがわるお話をして歩けば、おたがいたいくつしないって意味よ」
「へえ! じゃ、じゃあ、食べてしまった畑というのは、なんだい?」
「それは、畑の持ち主に、しゃっきんがあるかと聞いているのよ。いくら豊作の実りでも、お金をたくさんかりていたら、みんなもっていかれて、食べてしまったのと同じでしょう?」
「そんな意味だったかい!? じゃあ、小刀をよこして、馬二頭たのむっていうのは? 小刀は返せというんだ」
「それは森の中を行くときね、つえが馬のかわりになるから、二本、切ってきてくれというのだわ。小刀は大事にしてくれ、という意味よ」
「へええ! でもあのひとぁ、川をわたるのに、くつもふくもぬがねえんだよ。深くて、大きな川なのによ」
「深くて大きな川なら、底が見えなくて、どこにとがった岩がひそんでいるか、わからないわ。はだしで入るほうがあぶないし、ころんだらびしょぬれになってしまうじゃない」
「ふーむ、すると……大きな都会で「大きなはかばだ」とか、おそうしきの場で「あたたかい街だ」とかいうのは?」
「そりゃあ、いくら人が大勢いても、かんげいもされないなら人が死んでいるのと同じ、はかばのようなものでしょう。それに、おそうしきでは、おもてなしをされたのでしょう?」
「ああ、まったくその通りだった! なんてかしこいむすめだ。みんなわかっちまった」
そこで、お百姓さんは「屋根はがんじょう」です、とわかものに言いました。
そして、むすめはわかものにおくりものをして、おてつだいの男に伝言をとどけさせました。
『月は満月。一年は十二か月。海の水は岸べをあらう』
たくさんのおもてなしをいたします、という意味でした。
ところが、おてつだいの男は、むすこにせがまれて、このおくりものの中身を少し与えてしまいました。
うけとったわかものは言いました。
「うん、ありがとう。では、こう伝えておくれ」
『月は新月。一年は十一か月。海の水は岸べをあらうにはたらない』
伝言をもってかえった、おてつだいの男は、ぬすみがばれて、こっぴどくしかられました。
なぜでしょう?
さて、お百姓さんの家にごやっかいになることになった、わかものは、王さまの話と、自分の身の上をすっかり話してしまいました。
すると……。
「まあ、それは!」
と、むすめがいいました。
大臣のむすこはすなおに聞きました。
「魚がわらったのはなぜですか?」
「それは、きゅうでんにいるメイドの中に、男が一人まぎれこんでいるからですわ」
「なんと!」
むすめの答えを聞くやいなや、わかものはみじたくをととのえ、むすめをつれて父親のもとへ帰りました。
「今ならば、まだ間に合う! 父上は死なずにすむ!」
そうして、大臣のへやにいって、魚がわらったわけを話しました。
「なんと! なんとかしこいむすめなのだ!」
大臣はおどろき、すぐさま王さまのところへはせました。
「なに? メイドの中に男が? そんなはずはあるまい」
王さまは、相手にしません。
「ならば、王さま、大きなアナをほって、メイドたちにとびこえさせてください。それでわかります」
そこで、王さまは大臣の言う通りにしました。
すると、一人だけ上手にアナをとびこえたメイドがいて、それが男だとわかりました。
「どうして、魚がわらったのか、これでよくわかりましたわ。あなた」
王さまは、おきさきの気分がかいふくしたので、ほくほくです。
大臣にはほうびが与えられました。
「むすめよ、ありがとう。むすこよ、よくやってくれた!」
大臣は首がつながり、わかものは、このかしこいむすめとけっこんして、すえながく幸せにくらしました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます