第19話 少年と騎士

 我々は急いで式場広場へとレオンハート容疑者の確保に向かった。襲撃事件の犯人ではない、スリの疑いである。

 一見してちびっ子でしかない赤毛の少女の姿はすぐに見つかった。


「まったく! ほら、涙を拭いて顔を上げるのだ! 常に気高さを失ってはいけないぞ少年!」


 なにやってるんだアイツ?

 シーラの隣には黒髪の子供が蹲っていた。


「なにやってんだお前?」


「なんだアサクラか。アタシはいつも通り騎士の仕事をしていたのだ! 弱きを助ける、これ騎士の務め!」

「今日は探偵王じゃなかったっけ?」

「むむ……!」


 そんな俺たちを見て少年は小さな声を出した。


「……え? お姉ちゃん、騎士なの?」

「見所がいいな少年! 我こそは王国最後の希望! 真の騎士たる聖刻きし……」

「その前口上は毎回やるのかお前」

「聖刻騎士団、団長シーラ・レオンハート三世ー!!!」


 強引に続けやがった。


「おおー!!」

 純粋少年が勢いに飲まれかけている。なんでも信じる年頃の子に間違ったことを吹き込むんじゃない。


 俺は無言でレオンハートの頭に無言の空手チョップを入れる。


「いてっ! なにをするのだアサクラ!」

「ちょっと、あんた! レオンハートさんに何するのさ!」


 今にも噛みつきそうな敵意むき出しの視線で俺を睨みつける少年。


 レオンハートさん? マジで? 言いくるめられてるだと!? いや、あのチンチクリンの小娘の戯言をなぜ信じられる?

 俺が異世界人だという件には、紳士対応のアレックスでさえ半笑いの対応だというのに……!


「レオンハート卿、聞き込みの方はどうですか?」


 アレックスくんが尋ねる。うっかり忘れかけていた。


「あれだけ派手にやったからなぁ、例の謎の金髪男のことは皆覚えていたようだ。しかし、分かったのはそれだけだった……」

「どうしよう、似顔絵でも作るか?」

「犯人と顔見知りだという人間は居なかったのでしょうか?」

「確かになぁ、奴がこの街のもんじゃないことだけは明らかだな」


「この国って結構広いのか?」


 根本的に地理関係に疎い俺である。というか、この世界に初めて来たような人間には探偵の真似事は無理だろう。


「アタシも他所の国や世界のことは知らんなぁ」

「ヴェロキス国は地方国家のなかでも小さな方でしょうね」


 今初めて知ったわ国名。


「なんにせよ、犯人は余所者って事か。怪しい旅人がなにを探すべきかな?」


 推理と言う名の井戸端会議になっている。


「ええと、お兄さんたちは何を話してるの?」


 少年の存在を忘れていた。


「ちょっとアタシらは探偵をやってるのさ。こちらレオンハート探偵社! なんだよ!」


「た、探偵騎士……!」


 なにかヒーローを見るような目をしているが、それは果たしてカッコいいのか少年? ……というかシーラの属性がどんどん増えていく。見境ないなコイツ。


「ふむ。それは悪くない」

「調子に乗るな!」

「ところで少年も襲撃事件のときになにか見なかったか?」

「偽人が式典にいちゃ……変かと思って行かなかったよ……」


 ごめん、俺は思いっきり客席にいた。

 それにしても、俺や少年のような色をした人間は色々とやっかいな立場らしい。少年の地雷を踏んだ――いや、この問題はもっと深刻で根が深いのかもしれない。


「けど、今朝この辺にいたらこんなものを拾った」


 取り出したのは、俺の持っているものと同じ薬莢。

 複数回発砲したのだから、オートマティック銃なら自動的に薬莢が排出され、同じものが現場に残っていてもおかしくない。


 ……だから、なぜオートマティック銃がこの世界に存在するんだ?


「アサクラ、まずアタシはこの子を仲間の元へ送ってくるよ。おおかた黒髪街の方だろう」


 放っといたら手癖の悪いシーラが何をするか分からないし、黒髪街というのもきになった。


「付き合うよ。アレックスくんはどうする?」


「ええ……ご一緒します……」

「……?」


 彼のその返事には、いまいち気がすすまないような響きがあった。


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