第16話 こちらレオンハート探偵社
「騎士団って、あの騎士団?」
「そうです……。今回の件は妙なんですよ。大臣暗殺という非常事態に治安維持部隊である『騎士団』が動こうとしない……」
確かに、あの襲撃事件が起こった時に犯人を捕まえようと会場にいた騎士団は積極的に動こうとはしていなかった。観衆の安全の確保を優先したともとれるが、やはり初動は遅い。
「犯人と騎士団は、グルになってる……?」
俺がそう言うとアレックスくんは俯いてしまった。
「信じられないですよね……、騎士団は無実なのかもしれない、これがボクの妄想だったら、それならそれでいいんです。けれど、ボクにとって大切なのは……なんとしても……襲撃者を捕まえること……」
「アレックスくん……」
「勿論、お二人へはそれなりの報酬もお支払いします。なので、頼まれてはいただけないでしょうか?」
「む、別に金なんか……! このレオンハート施しを受けるほど窮してはいないぞ……!」
「嘘つけこの貧乏娘……」
だからヨダレ垂らした犬みたいな、物欲しそうな目で見栄を張るなよお前。
「まぁ、街の治安を守るのは騎士の務めだし、正当な報酬というやつだと思うがー?」
無駄な意地を張るシーラに俺は助け舟を出す。
「むー、うーん……」と赤髪の少女は眉間にシワを寄せながら唸り……、結局諦めた。
「……ま、まったく! アサクラ騎士見習いの守銭奴ぶりには困ったものだな! よし乗った、我が聖刻騎士団の仕事ぶりを見るがいい!」
「誰が守銭奴だ小娘!?」
そう言うと、シーラを部屋の奥の方へと姿を隠し、しばらく後に衣装チェンジをして帰ってきた。
「いかなる謎もズバッと解決! 探偵王レオンハートにお任せあれだ!」
「さりげなく探偵に転職するんじゃない!」
あの本のコレクションの中に探偵小説が混じっていてもおかしくなさそうな気がする。探偵に相当する職あるんだなこの異世界。
ところで、その黒マントとモノクル、どこから見つけ出してきた? そして、その姿は俺の世界の方では怪盗の方の衣装である。
「なに。心配するなアサクラ助手! 探偵は副業! 本業は気高き騎士のままさ!」
「そういう心配はしていないからな」
終いには『魔法少女☆レオンハートちゃん』とかスピンオフを始めないか心配だ。
なお内容は、襲いかかる侵略的甲殻類を主人公が騎士道ぱんちで成敗していくものである。
(……そのような作品があってたまるか、未だ未完結のマイナーアマチュア作品にスピンオフを作って、あわよくばアクセス数を稼ごうなどという恥知らずの作家は即刻筆を折るべきである! そのような事が許されるのは本編が素直に面白いものである場合だけなのだ。
ああ、海老食べたい。
詳しくは椎名某という四流のネット作家が「えびまよ」なるネタ掌編を書いているのでご参考いただきたい。これ説明責任は果たしたからな、作者!)
……なにを考えているのだっけ俺? 別のパラレルワールドに居そうな知的甲殻類の語りが聞こえてくるだなんて、やはり異世界に迷い込んだ疲れとストレスが溜まってるのかもしれないな俺……。
「お二人は本当に仲がいいなぁ……」
アレックスくんが貴族的な温かい視線をこっちに送っている。
「羨ましい……。ではなくて……、その後レオンハート卿は犯人を追いかけたのだとか?」
「うむ。取り逃がしたがな」
「犯人の特徴は覚えていませんか?」
「やたらガタイの金髪の良い男だった、脚も早くてアタシが追いつけないぐらいだ。このアタシが負けるなんて、あやつ、なかなか鍛えていると見える」
「今の所……、手持ちの情報はそれだけか……? なら、今取れる手は『他の目撃者を探す』とかか?」
俺に思いつく解決策はその程度である。あいにく俺は探偵見習いにまだ就職はしてないのでな。
「そういうことはこの探偵王がもっとも得意とする事じゃないか! 任せろ! では行ってくる!」
早速飛びだとうとするシーラ。もうちょっと頭を使え自称探偵王。
「現場百遍! おまけに犯人は現場にもどーるっ! 即ち犯行現場をウロついてる奴が犯人だ!」
「容疑者が際限なく増えるし、テキトー過ぎるだろお前!」
絶対、最近探偵小説読んだだろ! それも出来がよろしくないやつ!
「仲良いなぁ……」
また温かい視線を感じる……。
「それでは、そちらの捜査はレオンハート卿にお任せしましょう。よろしくお願いします!」
「よし! 行ってくる!」
シーラはそれこそ鉄砲玉のように駆け出していった。
「カイも、貴方もお時間はよろしいですか? あなたにはボクの捜査にお付き合いいただきたいのですが……」
「もちろんだとも!」
他ならぬアレックスくんの頼みである。よし、捕まえてみせよう犯人!
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