第17話 火薬銃談義

 俺とアレックスくんが向かった先は……意外であろう、魔法雑貨店グリモアだった。

 目撃証言を追うレオンハートと二手に分かれ、こちらが調べるのは物証の方である。


「おはよう、婆さん」「御機嫌よう、マダム・アシュリー」

 既婚者だったのかこの婆さん。


「おお! 坊やじゃないか、よく来たねぇ」

 目を細め優しい声で少年を迎えるアシュリー婆さん。まさかの孫を迎えるおばあちゃんの反応!? これもやんごとなきアレックスくんの天使的見た目と紳士スキルがなせる技!?


 どういう知り合いなのだろう。さすがに親戚ではなさそうだけど。


「(おいジャリ……なぜお前が坊ちゃんと一緒にいる……)」

 一方、ドスの効いた小声で俺は迎えられる。予想通りの反応だけど、俺何かこの人に悪いことしましたか?


「(なんか妙なことしでかしたら複製粘土口に詰めてイバラに変えてやる……」


 想像するに痛そうなんでやめてくれ。


 そんな中、アレックスくんは早速要件を切り出した。


「マダム、最近こちらのお店で銃を購入した人間に覚えはありませんか?」


 これが我々がグリモアに来た理由である。襲撃に用いられた銃の出どころを特定するのだ。そして、グリモアは雑貨店でありながら品揃えは手広く、銃器も取り扱っているのだという。


「坊ちゃんも人聞きが悪い……。ライセンスの無い人間に銃を売ってなんていませんよ……」


 急に揉み手で媚びへつらうよつな態度をとる老婆。仮に売ってたとしても表立っては言えないだろう。誰にだって後ろ暗いことはある。


「正直に答えてくれないか、婆さん?」

「口の聞き方に注意しなよ坊主」


「……頼むよ。殺されたのはアレックスくんの知人なんだ」


 俺に出来るのは、正直に頼む事ぐらいか。


 しかし老女はなにも答えない。じっと俺の目を見つめている。


「なぁ小僧、お前が疑り深いのは分かるが、始祖たるついの神にかけて、坊っちゃんの前でアタシは嘘をつかんよ。絶対に、売ってはいない」

 真剣味のある瞳に気圧される。


「すまん。疑い過ぎた……、悪かったよ。

 ……婆さん、銃を見せてもらってもいいか?」

「勝手に見な。そっちの棚に飾ってある」


 ガンラックという奴だろうか、オーク材とか、よくわからないが高級そうな材質の木で出来た棚に銃器が陳列されている。

「断っておくが、ライセンスの無い人間には売らんからね小僧」

「分かってるって……」


 俺は並べられた銃を見回す、そのほとんどは美しい装飾を施された、どちらかと言うと実践向けでない芸術品に近い。


「犯人は標的から結構離れてぶっ放したよな。ハンドガンで命中できるものなのか、アレックスくん?」


 異世界の銃の射程の基準というのはどれぐらいあるのだろうか?


「火薬で飛ばす銃ですと、あの距離で当てるのは不可能でしょうね。やはり魔法銃の使用かと思われます」

「魔法銃? 銃にも種類が?」

「火薬銃なんて使うのはとてつもない変人だろうね。何が良いんだかまったく……」

 一応それで商売してる婆さんがそのセリフ言うか。あと、火薬は男のロマンなの!


「ちなみにコレ、どっちが魔法銃?」

 一先ずあの襲撃者はライフルの様なもので狙撃してはいないので大型の銃は容疑から外す。


「魔法銃は材質を問わず製造が可能です。ただ、ほとんどの人が使うのは金属製の魔法銃ですね。『火薬銃風』魔法銃というのが最近の流行りですよ。大きな違いがあるとすれば……」

 彼はいくつか金属製の銃を手に取ると、撃鉄を引く。引き金に指をかけると、カチリと音を立てて撃鉄が下がった。

「例えば、魔法銃であれば、この撃鉄は飾りだったりします。着火の必要がないんですよ。

 しかし! 火薬や雷管を用意するものは物凄く手間なのですが、やはり火薬銃に火薬銃にしかない魅力が……!!」

 徐々に語気が上がっていくアレックスくん。そうか、君もロマンが分かるんだね!


「要するにパーカッションロック式がメジャーなんだね?」

「あれ? なぜカイはそんなにお詳しいのですか!? パーカッションキャップの発明は火薬銃史上最大の、歴史的大発明だとボク思うんです!!!」


 おお、やはり彼も男の子である。


 俺は銃口を覗き見た。そもそもライフリングが施されていない。それにガンラックにはリボルバー式拳銃もなく……、いやそもそも棚にあるのはどれも前装式の銃ばかりだ。どういう文明・技術水準なのだろう。

 ライフリングの溝が刻まれてない様な銃であの距離から当てるのは、いや、飛距離を考えても多分無理だろう。

 ライフリングは銃に刻まれた螺旋形の溝である。それによって銃弾への回転をかけることで軌道は安定し、命中率が上がる。


 実際に銃に触ったことはない俺だが、ディ○カバリーチャンネルとヒストリー○ャンネル大好きっ子である。あれは本当に為になるし、いつか小説のネタにできればと覚えておいた。


 しかし、この世界の『火薬銃』は基本的に嗜好品扱いなのか、殺傷能力に重きを置いたようには見えない。

 異世界ではディスカバ○ーチャンネル知識も使えないか……。


「やっぱ無理だよなぁ。あの距離からこんな古い拳銃で標的に当てる、おまけに連発って……」


 俺の銃器への無駄知識も虚しく、襲撃に使われた銃の可能性は『魔法銃』とやらに違い無かった。

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