第18話 魔法銃ではあり得ない

「魔法銃っていうのは?」

「ホントに……カイは不思議な人ですね。魔法の事はからっきしなのだから」

「だから、『異世界人』だと言っているだろう」

「おっと、申し訳ありません。

 あらゆる材質で製造が可能なのが、この魔法銃です。露骨に魔法銃らしい見た目をしてるのは……これとか」


 透明な銃なんて初めて見た。ガラス細工か水晶のように透明で、バレルの内側の穴も確認できる。

 撃鉄もなく、トリガーだけが動かすことができるパーツだった。


 ──銃の偽物。いや、この世界ではこちらが本物か。


「オモチャみたいだな……」

「しかし……、人は殺せます」

「詳しく教えてくれ」


 アレックスくんは魔法拳銃の一つを手に取ると解説をしてくれた。


「使用者の魔力が、グリップに埋め込まれた魔力抽出機構によって抽出され、その魔力はバレル内に充填されます」

 抽出機構というのはグリップに透けて見える色違いの水晶のようなパーツのことだろう。


「圧縮された魔力はトリガを引くことでに開放され、銃弾を押し出して……、『バン!』」


 銃器を見てから少しアレックスくんが楽しげにしてるので俺は安心する。


「原理まで圧縮空気でBB弾飛ばすエアガンに似てる……。ところで、魔力がない人間には撃てなかったりする?」

「お察しがよろしいですね、カイ。使用者の魔力を消費することから、魔力の量が少ない人間、または扱い慣れてない人間には使いこなせません。だからこそのライセンス制でもありますね」

「ライセンスは使用者側の都合でもあるのか、ちなみに、連射も可能?」

「そういうギミックを仕込んでいる新型もあるにはあるそうですが……」


 俺は銃のとなりに置かれた別の物が気になった。宝石を入れるような化粧箱が意味ありげに置かれている。


「それは弾薬ですね。そうか、魔法銃と火薬銃との一番と違いはこれです!

 カイならご存知ことと思いますが、火薬式の弾薬は弾頭と火薬ガンパウダー雷管パーカッションキャップの三つが無いと発砲ができないわけですが、魔法銃は弾頭に相当する部分さえあれば発射できます。これで装填の時間が大幅に節約できますね」


 箱を開けてみると、魔法銃用の弾丸が詰まっていた。材質は銀であったり、見たこともない材質まである。やけに煌びやかで華々しく、ジュエリーでも見ているようだ。

 ファンタジー小説なら、この後、属性エンチャントなどの設定が飛び出てきそうである。いつかそんな設定の小説書こう……、今まさに自分がいる世界がファンタジー世界なのだけど。もしも、いつか帰れたら。


 しかし、これが魔法銃の弾薬なら、俺の手元にある証拠品と、魔法銃使用説とは……完全に矛盾してしまう。


 言うまでもなく、あの時に拾った『空薬莢』である。俺はそれを取り出すとじっと眺めた。


 魔法銃は弾頭だけで発射する、火薬の詰まった薬莢部分は必要ない。


『実包』。火薬、雷管、弾頭を一体化し、薬莢の底部に組み込まれた雷管プライマーを撃鉄で叩くことで着火するタイプの弾薬。現代社会で弾薬バレットといえばこれを指す。

 こんな複雑な機構、魔法銃なら必要が無い。


 魔法銃説を取れば薬莢の存在が矛盾する。ならば火薬銃説? なんらかの人間が世間に流通するより先に、このタイプの銃と弾丸を開発したか? そんなことは起こり得るのか……?


 俺はある信じられない可能性に思い至る。

 これは、俺のスマートフォンと同じなのでは無いだろうか。


「カイ、それは何ですか?」


 アレックスくんも、薬莢を見慣れてはいないらしい。


「おい、小僧……」

「……なんだ婆さん?」

「あんたが手に持ってるそれだが、たしか、金髪のガタイのいいのが以前来て、そいつと似たようなものを複製できないか聞いてきたよ」


 もし俺の予想が正しければ、この事件はアレックス君たち以上に、俺自身にとっても重大な意味を持つことになる。

 金髪の男、彼を見つけないと。


 しかし、現段階ではまだ俺の思い込みかもしれない。目撃証言を調べているシーラの方にも行ってみよう。


「アレックスくん。俺今思い出したんだけど」

「どうしました?」


「手グセの悪いあの泥棒娘、また仕事を始めて無いだろうな……」

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