第5話 騎士の仕事
「……とりあえず、君のことはアタシの方で情報を集めておこう。これでもアタシは顔が広い! この街の守護神さね!」
「そうか、じゃあ俺は……」
どうしよう。寝てればいいかな?
「……よくないわ。俺も付いていっていい?」
「フム。騎士の仕事に興味があるとは、アサクラはなかなか見所があるやつだな!」
そうは言ってないが。
「騎士の仕事?」
「街の平和を守るのさ! 弱きを助け強気を挫く、これぞ騎士道精神」
やっぱドン・キホーテだこの子。いつか風車に特攻して怪我でもしないといいんだけど。
何するのか分からないけど、でも少し楽しそうではある。ここは一肌脱いでお供のサンチョを買って出てやるとしよう。
☆
幸いにして俺の怪我の具合は軽く、動くのにそこまてまで支障はなかった。痛いには痛いけど、骨までやられてはいなかったらしい。
シーラ・レオンハート三世が暮らすボロ屋敷は街の中心からそれた裏通りのさらに奥に位置しているようだった。
ほとんど迷路のような道を歩いて行く。
しかし、屋根に大穴が空いているあの家、雨の日とかどうしてるんだろう?
どこを目的地としているのかは釈然としないが、俺は彼女に案内されるままに大通りへと出る。
途中、シーラは街の子供達に声をかけた。
……のだが、やはり自称騎士という彼女はやはり変人扱いされているらしく、あまり喜ばしい反応は返されなかった。
「で、何するの? 騎士の仕事って?」
「困っている人が居たら助ける! 以上!」
「何のために、とかシーラには無いの?」
「ん……?」
と、少々困った顔を浮かべた。
「なんでだ? アタシがそうしたいからするだけだ。理由なんてそれで十分だろ?」
おお。ちょっとカッコイイ、正直見直した。
「しかし、日々の糧というのはなにかと入り用なもんでなー」
なぜか、そこでシーラはソワソワとし始める。
早いとも遅いとも言えぬ妙な歩調で二人歩く、なんだか、わざわざ妙なルートを歩いている気がする。
「おっと、失礼……」
途中、シーラが道を歩く初老の男と肩をぶつけた。今の動きになんの必要が?
急に早足になり、突如目が泳ぎ始め挙動不審になるレオンハート三世。
「なぁアサクラ、今ちょっとアタシは走り出したい気分なんだ……! あとで落ち合おう? 昨日いた酒場がいい、場所分かるよな?」
「おい。急にどうした?」
「ちょっとこれを預かっててくれ! アタシが囮になる! それじゃあな!!!」
そして、シーラは猛然とダッシュする。
「こっちだおっさん! 韋駄天のレオンハート様とはアタシのことぉ!!」
妙な捨て台詞まで吐くその姿は完全にチンピラ然としていた。
男はそんなシーラの姿を見るや否や、顔が明らかに憤怒に転ずる。
なんだか物凄く嫌な予感がする。ここはあの二人には関係のない、ただの通行人に徹することにする。
シーラから渡された布の袋が呪い袋のような気さえしてきた。これを持っているといつか必ず厄介な事態に遭遇しそうな気がする……!
いや、まさか、そんな馬鹿な……と、思いながら、人混みの中へとあえて入っていくことで俺は自分の匿名性を獲得しようとした。
しばらく歩いた後に立ち止まる。布の袋の中にはコインが詰まっていた。これを目にして、悪い予感は間違いなく的中したのだと理解する。
間違いなくこの財布はシーラのものではない。
スリやがったぞあの女! その上俺にまで片棒を担がせて……。
知りたくもない騎士の活動の実態を目の当たりにして、心には後ろ暗いものしか感じなかったが、結局俺は待ち合わせの場所へ向かうしかなかった。
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