第4話 なぜ言葉が通じるのか?
「ホラ見ろよ? コイツをどう思う?」
「何これ? ゴミ?」
シーラは眉間にシワを寄せながら、俺が取り出した物体を眺めている。正直、変わり果てたその見た目はガラクタに近い。
昨日倒れ込んだときの衝撃で表面には無数のヒビが入ってはいるが、現代日本出身者であることを証明するにはこれ以上の物はないのだと聞く。
そうやって適当な反応が返せるのは今のうちだ、あまりのオーバーテクノロジーぶりにひっくり返るがいい田舎娘!!
「スマァァァーーット・フォォォーン!!!」
高らかに宣言すると、俺はスリープモードを解除する。幸いにして、電源は生きていた。
「おわ! なんか光った!!」
想像どおりの反応だ! これはもう勝ったと言わざるを得ない。
目を輝かせながら彼女は画面を見つめている。
続いて、おもむろに俺はカメラアプリを起動した。
部屋の風景とシーラの顔を数枚写真に収める。
そのシャッター音に彼女は驚いた。
勝ち誇った表情で俺はディスプレイを見せつける。
「なにこれ凄いっ!」
子供のように純粋キラキラの目で写真を見つめている。
よしよし、いよいよ君も俺の主張を認めざるを得ないだろう。
「これで分かったか! これが俺が違う世界の……」
「アサクラが作ったのか!?」
…………は?
「い、いや……。作ったのは俺ではないが……」
気になるとこ違うのでは?
「なんだ……君じゃないのか……」
彼女は露骨に落胆を見せる。
「君が魔法技師か何かかと思ったのにー」
「いや、魔法じゃねーし、科学だし!」
「魔法でも作れるんだから魔法に決まってらーね」
「いやお前何言って!?」
こっちの常識が通用しないとは思ってはいたものの、この世界、科学万能に対し魔法万能でなんとかなってしまうの?
「100歩譲って、君が学究の徒であることは認めるとしよう。けど、アタシには君が異世界人などではあり得ない証明ができるのである!」
「ほーぅ、やれるもんならやってみやがれ!」
「君、アタシよりもずっと訛りが無い! こっちの国の言葉ペラペラ! 以上、証明終わり!」
……え?
それ言う? 俺だってそこは気にならないように心掛けていたのに……?
「待て待て待て!! 不文律を犯すんじゃない!! その問題は触れてはいけないとされる『お約束中のお約束』だろ!!?」
「知らないよ、お約束とか……。ホント、大丈夫かい君?」
この子、デキる……!
しかし、完全ここで俺は頭を抱えた。
ど……どうしろと言うんだ一体!?
「もしあるなら、反論を聞いてやってもいいぞ?」
反論? 何か……何か無いのか俺!?
「異議あり! 反論! 魔法でスマホ作れるんなら、言葉の壁も魔法で何とかなるのでは!?
多分、この世界の女神様なんかが『すまない……、君を手違いで死なせてしまったみたいだ。本当に申し訳ない。今から君を別の世界に……言葉は通じるように手配しておく……』みたいなことで言葉が通じる魔法をかけたんだよ! 覚えてないけど!」
「いくら馬鹿なアタシだってそんなことが出来ないことぐらい知ってるっ! 魔術をなんだと思ってるんだっ!」
なんか物凄く怒られた。
「魔法で人の心は変えられない、コレ世間のジョーシキ! 着てる服とか、その光ってる板は『作ろうと思えば作れる』の!
……ならおかしいのは君の出自に決まってるのさっ!」
魔法の常識が俺だけに不都合過ぎる。
「そうだよなぁ……。うん。現実は実に過酷だ。時に人は逃げ出したくなる。異世界や女神の存在を信じた結果、君は少しおかしくなったんだね……ぐすん」
涙目になるレオンハート三世。
いや待て、君の妄言もあまり事情が変わらない気がするのだが、なんでこっちに可哀想なものを見る目ような目線を!?
しかし、この言語問題は厄介だ。
耳に聞こえるものも、目に映るものも、明らかに俺が知っている言語や文字ではなかったことには気付いていた。
よってこの事態、たまたま言語が同じでしたでは無いのだ。
しかし、意味は通じてしまうし、自分が話すときもそうだ。何かが俺を翻訳しているのだ。
確実に俺の意識、認識には何らかの細工が施されている。しかし、それはこっちの世界の常識では起こりえないとされる細工だ。
あまりに自然過ぎて最初から違和感すら感じなかったし、完全にお約束に呑まれていた。
今の俺にはこのお約束を説明するための物証も、なんらかの理論も一切存在しない。
いくら説明しても妄言だと思われるのがオチだ。
……まったく、俺以上の「信用できない語り部」も居ないだろう。
信じてくれ、としか言えない。
ならば。しゃーない。よろしい。とことんやってやろう。
こっちにはこっちの意地がある。
見つけ出してやろうじゃないか! 俺の言語や認識を書き換えた何かを!
とにかく現物を揃えてやる。常識外の魔法なり。マジックアイテム。呪い。この世界の女神様的な者だってなんだっていい。とっ捕まえて白日の下にさらしてやるのだ。
流石に数日前まで暮らしていた元の世界が俺の妄想な訳がない。それだけは絶対に譲れない一線だ。
「いいだろう! やってやる! 絶対に! 絶対に、貴様に俺を認めさせてやるぞ小娘……いや世界!!!」
「アサクラ騎士見習い!? そんな顔をしたら傷口が開くぞ!?」
うん、無理に高笑いしたせいで口元から出血してる感じがする。
「俺は俺だ! 絶対に、絶対に、絶対に、異世界人であることを撤回しない……!
全身全霊かけて証明してやるから覚悟しろ……!!!」
痛みによるハイを感じながら、俺は世界に向けて喧嘩を売るのだった。
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