第3話 作り話ならもっと面白くしてくれないと!

 アサクラ・カイは何処にでもいる男子高校生だ。

 学校と勉強、スマホとネット、ぐらいしか毎日することがないんだから、我ながら相当つまらない人間だと自覚している。

 本当に何処にでもいるやつだ。


 趣味のいくつかを上げると、アニメ、マンガ、ゲームと見事にオタククラスタに属している。

 高校二年生、17歳。身長は高くも低くもない。

 運動も勉強も中の下。帰宅部。


 唯一の自慢はネットの小説投稿サイトに書き手側として参加している事である。

 読むのも書くのもファンタジー一辺倒。現代ものよりも異世界ものを好んで読むし、書いている。

 しかしまぁ、自己満足なのだけど。


 その時、俺はちょうどネタ出し兼、散歩兼、コンビニへ食料調達に出かけていた。

 頭の中にはポテチを何味にしようかと、小説で次に出すヒロインの設定をどうするか程度のことしか無かった。


 ツンデレは前やったし。あ、ケモノ娘とかベタで良いよね、そういえばまだやってなかったわ……と、そんなことを。

 次に主人公が戦う事になる魔物も前回とは別のタイプ出したい、ネタ帳であるスマホを取り出すと、いつものノートアプリで過去出したアイデア確認した。

 だから、街の風景から目を離したのは一瞬だった。


 一瞬にして、俺の周りの世界は、景色は消失していた。

 視界ゼロの霧の中に居る、というのが一番近い表現なのだと思う。

 圧倒的白というやつだ。

 霞がかかっているのは視界だけではない。


 突然、現状が全く認識できなくなった。……その状況の説明は難しいけど、自分の身体が、自分の意識が自分のものだと感じられなくなった。


 眠りに落ちる瞬間のような、意識の断絶。


 目が覚めたときには、既に中世風の街中を、自分がどこを目指しているのかさえ分からないまま歩いていた。

 なぜだが疲労困憊だった。


「……と、いうわけなんだ」

「ゴメン、アサクラー。ちょっと君が何を言ってるか分からないぞ?

 作り話ならもっと面白くしてくれないと!」

 赤毛の少女は非常に混乱した顔つきで俺の話を聞いていた。

「嘘じゃないんだって!

 神隠しにあうってあんな感じなのかな。とにかく俺は、別の所から来た、別の時代と場所か、あるいは別の世界から」

「そっか……、頭ぶつけたもんな……。うん。大丈夫さ。きっと良くなるよ」



 聖刻騎士団兵団長(笑)に物凄く可哀想なものを見る目で見られた。君が言うかそれ。



「で、だんしこーこーせーとはなんだ?」

 そういえば解説してなかった。

「そうだな……」

 いや、この説明は非常に難しい。

 ああ、俺のネット小説ならこんな好奇心を抱くキャラクターをそもそも出さないってのに。面倒くさい。

「学者……見習い? ってやつ」

「いや。君が人より賢いようには見えないぞ? だいたい、金のない君が学者な訳ないだろー? ダメだぞー、嘘はー」


 一応、学者という地位はあるにはあるようである。


 それより自分が異世界人である証明を続ける。



「見ろよ、俺の服!。こっちにはこんな格好してる奴いないだろ? よって俺は異世界人! QED!」

「変わった格好してるな、とはアタシも思ってたけどさー」


 上下ジャージ姿で良かった。どうだ。ナイロンやポリエステルなんて化学繊維この文明レベルの世界には存在するまい!


「とりあえず、その血塗れのボロは着替えよっか?」

「スルーされただと!?」


 いや。まだだ。

 異世界ファンタジーのベタ展開に精通する俺には、まだ奥の手が残っている……!

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