第2話 聖刻騎士シーラ
日差しが眩しい。目を開けてみるとそこは思いっきり見知らぬ天井だった上に、そこら中に穴が開いていて、外から直接光が差し込んできていた。
……な、なに? このあばら家。
かろうじてベッドだと思わしき台の上に俺は横たえられている。
ベッドというにはあまりに硬く、背骨が痛い。
「おー? 目ぇ覚めたかー、お兄さん?」
ちびっ子としか言いようがない赤髪の少女がどこからか現れた。
地味で野暮ったい色の服を着ている。田舎娘を絵に描いたような。
「えっ……? ちょっ、どこよここ?」
「アタシの家に決まってらーね。どうだい? 怪我の具合は?」
「ああ、うん。正直あそこまで容赦なくやられるとか想像もしてなかったよ、マジ酷いよな……」
「気ぃ失ってるついでに傷口縫っておいた。感謝しなよお兄さん?」
「え……?」と額や口元(つまりは皮膚がパックリ裂けていた部分)を触ると、どういうわけか、糸っぽいものの感触があった。
しかもかなり太めのやつ。
……血の気が失せる。気付いてはいけないものに気付いてしまったのだと瞬間に後悔した。
しかし、意識が覚醒度を増していくにつれ、それは容赦なく襲いかかってきた。
「痛あああぁぁぁあ!!!!!??」
「いやー、まぁ、見よう見まねってやつでなー。傷口は塞げばいいと昔むかーし教えられたような、いないような?」
なにヘラヘラ笑ってるんだよこの小娘!
「医師免許がない奴は医療行為しちゃいけねーよこのあwせrdft……!」
あー、痛ッテェ! ツッコミの一つままならない!
なんて事しやがる。顔に一生消えない傷が残ったらどうしてくれる!?
しかし、彼女は物凄くにこやかに、それはもうお日様の光の様に無邪気な満面の笑みを浮かべる。
『今日も善い事をした』と言いたげ。
状況が全く飲み込めないが、事態はそんなことを構わず進行する。
「いやー、昨日は災難だったねー。
紛い物の騎士連中のオーボーにはアタシもうんざりさっ!
しかし、安心しな? 世間の勇者はみんなニセモノだけど、大船に乗った気でいてくれ! 君を助けたアタシこそが真の勇者!」
胸を叩き、燃えるような赤髪の少女は宣言した。
「我らは真の騎士! 我らこそは王国最後の希望!
真の騎士団はアタシ達『聖刻騎士団』であることは証明するまでもないっ!
聖刻騎士団団長! シーラ・レオンハート三世! このアタシが虐げられし民であるキミを救済しようっ!」
「真の……騎士団?」
「そうさね。治安維持だとかいって民衆を虐める今の騎士団にはもうウンザリだろ?
真の騎士道の継承者はアタシたち『聖刻騎士団』であるっ!」
見渡した限りにおいては、『アタシたち』って別に他に誰もいないが?
なにこの女の子版ドン・キホーテ? 異世界にも厨二病ってあるんだ……。
完全にヤバイとこの娘だけど、助けてくれたわけだし、悪い人ではなさそうだ。ここは流れに任せるとする。
「そうだ。若者よ、君の名を聞こう」
若者言われても、年齢君の方が下にしか見えないんだが。
「アサクラだ。アサクラ・カイ。日本の男子高校生」
「アーサー、ク? サー・アーサー? 爵位かな?」
「ただの苗字だよ。持ってるはずないだろ爵位」
「そうか、君が胸糞悪い貴族階級の人間なら治療の代金巻き上げてやろうと思ったところだ。
いや待て……、だんしこーこーせーとはなんだ?」
お、キタぞ。異世界ものあるある展開。
よし、なんだからここまで起こった事を一気に説明しておこう。
「話せば長いんだが……聞いてくれるか?」
「おうともアサクラ。ついでに君を騎士見習いに任命する!」
「勝手に決めるなよ。
……で、話すとだな……」
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