第6話 人助けが、正義が、聞いて呆れる
夕方近くになって、ようやく我らが騎士は約束の場所に意気揚々と現れた。
「助かったぞアサクラ騎士見習い! 持つべきものは仕事仲間だな!
さあさあ、一杯付き合えよ! なんでも好きなものを奢ってやろう!」
仕事、ね。笑わせる。
既に自分も共犯者なわけだが、その所業を肯定できる腐った心根を持つほどに俺はまだ落ちぶれてはいない。
「何が騎士だよ。何が騎士道だ? 人助けが、正義が、聞いて呆れる……」
目の前に明らかに犯罪行為を行なっている人間がいる。自分の事をそんなに善良な人間だと思っているわけではないが、それでも、だからこそ彼女を咎めないと。
俺にだってキレるときぐらいある。
「ああ。そうさね。そうに違いない」
俯いて、シーラは目線を反らせる。
「だったら、やめろよ。こんな事」
「あの、だ。アサクラ?」
「何だよ?」
「言い訳はしないし、できない。やろうとも思わないよ。
『お前には分からない』それだけさ。同意なんて求めてない。求めてなんかやるもんか……」
彼女の拒絶の言葉は、しかしどこか凛々しくすらある。
「やましさを抱えずに生きられるならその方がいい、分かってるさ、そんなこと。
……ホラ、行くぞアサクラ、黙って奢られろ」
酒場に入っていくシーラの背を俺は追ってしまう。
この問題を有耶無耶にして忘れようとさえする自分が、凄く嫌だった。
☆
「レオンハート様〜! 私の王子〜!」
店に入るなり、開いた胸元でグラマラスボディを強調し、スカートの丈だって短い黒のワンピースを着たセクシー女性がシーラに抱きついた。かなり薄手でヒラヒラの生地の衣装は、一歩間違えればお上に取り締まられそうなぐらい色々と際どい。
髪色は黒く、少しウエーブがかかっていたが、手入れは行き届いており、いわゆる『天使の輪っか』ができている。はっきり言って美人のお姉さんというか、フェミニンというか、そんな言葉が似合う。
「いらっしゃいませ王子さま〜、どうぞどうぞごゆるりと〜♪」
「よしてくれカンナ。アタシは王子ではない! 騎士だ!」
「……性別が一致しないし、騎士でも王子でもないわな……?」
ちょっとしたボケ&ツッコミ・メソッドの会話の後、席につくなり、ホクホク顔を浮かべるこの盗人は適当な食べ物をオーダーした。
「今日はなかなかの成果でなっ! というのもこの新米騎士見習いのおかげなのである。なので、なんかテキトーに頼むぞっ!」
本当に注文がアバウトだった。
それから、その金の出所。せめて少しは悪びれろ。
「我が騎士のご注文とあらば……お代は結構だといつも申し上げておりますのに。もう、シーラ様ったら……!////」
カンナと呼ばれた女性は今にもここにタワーを建設しそうである。タワーの名は「キマシー」という。
「……アラ? あなたは昨日の食い逃げ君の『キ○○○(放送禁止用語)』……! どうしてここに? わざわざ店に顔出すとかいい度胸してますわね?」
反論できない自分が最高に嫌だ。
「ああそうだ、カンナ? コイツに見覚えはないか? ほら、なにせコイツも黒髪だろ……、あまり多くないわけだしさ」
そういえば多種多様な髪色をこの街に入って以来見かけているが、黒髪の人間を見るのは彼女、カンナが初めてだ。
「そうですわねぇ。申し訳ありません、シーラ様。ワタクシ、このようなみすぼらしいにも程がある殿方をお見かけした覚えはありませんわ。しかし、黒髪街の方で見知った人はいるかもしれません」
「そうか。もしかしたら知人かと思ったのだがな」
「しかし、同じ黒髪の『偽り人』、心中お察し申し上げますわ……」
黒髪の女は俺を見て言う。何だよ、黒髪って何か問題が?
「『イツワリビト』って……?」
そもそも心中察せられる理由に見当がつかない。推し量るならもっと別のところをお願いしたい。
「(彼、どこの生まれですの? あまりにも無知過ぎじゃないかしら?)」
「(昔のことを覚えていないようだし、妙なことを口走るし……色々あったんだろうな、可哀想に……)」
また変な目で見られている……。
「とりあえず、お料理お持ちしますわね、シーラ様」
「そうだアサクラ。美味いものでも食べてゆっくりするといい……」
だから、哀れみの視線を送るな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます