第21話 黒髪の事情
少年と黒髪のリーダーの男に連れられて、俺たちは建物の内部に入る。
現代建築になれている俺としては、意外と居心地が悪いわけではない。直線的な四角い建物は大歓迎だ。建物は学校や病院にも似ている。
細長いテーブルを俺たち3人と、黒髪街の住人二人は囲んだ。
「ちょっと待ってろなー? ウチで飼ってるニワトリがいるんだ、ちょっとシメてくるわっ!」
リーダーであるアニキはそう言うと裏へ引っ込んで行った。
「ここって……どういう家族構成になってるんだ?」
「黒髪は普通の色付きからも容赦なく生まれる、大抵は捨てられたり、行き場をなくしたり……で、ここに来る。
生まれた時に『シメ』られなかったのは運が良かったのか悪かったんだか……」
俺相手の時だけこの少年は大人びた、世間慣れした表情で話す。
食事の準備ができたのか、どこからともなく10人ほどの黒髪の人たち……しかし老人は居なかった、白髪頭はどう扱われるのかは今度聞いてみよう……が席に着いた。
アニキさんと子供たちが皿を並べている。
メニューはチキンのスープと付け合わせのサラダ……と、大量の芋。
なんだ、結構いいもの食べてるじゃないか。虫食いが目につく(現代人の俺には結構食べにくい……)けど、野菜もちゃんとある。
家庭菜園で採れたものという印象だ。田舎のおばあちゃんの家を思い出す。
「おいもー!」
と、約一名ホクホク顔で喜んでいらっしゃる。
「メシ時にこんな事もなんなんだが……」と、アニキ。
「ルーサー大臣のこと、調べてるんだって?」
「ええ、そうですが……」
アレックスくんが答える、なぜこの人たちが大臣さんを知っているのだろう?
「俺たちがなんとか暮らしていけるのも、思えばあの大臣さんのおかげなんでな。昔は菜園を作るのにお許しを貰うだけでそりゃー大変でね……何がいけないんだか……ルーサー大臣になってからは随分俺たちへの締め付けも緩くなった。あの人には本当に世話になったよ」
スープをスプーンでかき混ぜながらアニキは話す。
「ちょうど、僕たちは式典会場へ、あの黒い肌の大臣さんへ手向けの花を捧げてきたところだったんだ、そのあと妙なのに絡まれたけど……」
カラス少年が続ける、そこでシーラと会ったのか。
「……排斥派について、皆さんは何かご存知ですか?」
アレックスくんが不穏な言葉を呟いた。
「排斥派って?」
この人達以上に俺には知識がない。
「エルドリッチに敵対していた連中です。黒髪排斥派は騎士団を取り込み巨大化、エルドリッチを筆頭とする解放派と対立していました」
「その件で今回の襲撃事件が……?」
アニキが眉をひそめた。
「ハナシには聞いてる。なんでも、ここらを街ごとぶっ潰そうって連中だよな。奴らがルーサー大臣を……」
「可能性的にありえるというだけです。まだ決まったわけではありませんが……」
酷い陰謀話になっている。そんなにも問題は深刻なのだろうか?
「あの人が死んだとなれば……俺達は今度こそ行き場をなくすわけだな」
アニキの言葉にアレックスくんは沈黙する。
「大丈夫さ。あんたたち白い人に迷惑をかけようなんて思わない。俺たちはどっかへ……」
どこかとは、どこなのだろう。
黒髪の排斥派によって大臣が暗殺され、黒髪が追放(で、済むのだろうか?)されれば、それこそ奴らの思うツボだ。
「……もし、ボクに力があれば……」
「どうせ、みんな他人事でしょ。
分かってるよ。どうせ僕たちになにかするとか、今何をしてくれるかとかって、結局なにもないのを、僕らはよく知ってるから」
少年の言葉は黒髪全員の意見を代弁しているようだ。
「気にすんなや。あんたらにはあんたらの生き方がある」
アレックスくんも、シーラも黙りこくっている。
俺は、なんだか。
そんなのは見ていられなかった。
「なんだよそのあきらめムード!? この問題で被害被るの他ならぬ自分自身だろ! なんで自分のことを他人事扱いしてるんだよ、自己解決するぐらいなら、せめて助けを求めろ! なぁなぁで済ませんな!」
俺は叫んだ。
「……それを他ならぬ黒髪のあんたが言うか」
「なにそれ、なんかのプライド!? 俺は圧政に耐えてる被害者だから偉いんだみたいな逆被害者意識か!? どうせどうにもならないとか諦めるなよお前の人生だろ!」
「やめなよお兄さん見苦しい」
「見苦しかろうがやってやるわ、間違ってるだろこの世界!
お前らだ黒髪ども! なに洒落たゲットーで退廃の美学やってんだよ。可能か不可能かはともかくまずは覆す努力をしろ! 見苦しかろうが苦しいなら訴えてやれ!
アレックスくん? 君だって君だぞ! 俺達と比べれば君は『持ってる』側だ、無力だみたいなことを言うなよ!」
「アサクラ騎士見習い!」
「なんだよシーラ!?」
ふと我に返る。……黒髪の仲間たちも完全に沈黙していた。
あ、やばい。なにか、なにかマズいことを俺はやらかしたに違いない。
「……よし! お前の『革命ごっこ』に、アタシは付き合ってやる!」
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