第41話 夜を駆ける

「大丈夫です。既に向こうの銃はこちらの手元にあります。

 連続した射撃も出来ない、性能面で劣るこちら側の銃しか使用できないとあれば、僕への襲撃が成功する確率は低いと判断していいでしょう」

「納得はいくが、それだとそもそも仕掛けてこない可能性が増えてくるな」

「そこは情報戦で炙り出すところです。

 それに、仮に襲撃に出なければ集会の場でエドワードは一方的に糾弾される事になります。実行犯を捕まえられないのは残念ですが、エドワードを不利な状態に追い込む事には成功しますしね」

「……むしろアイツが黙って糾弾されるとも思えねーもん、やっぱ何か仕掛けてくるか……?」


 やはり、やりようによってはどう転んでも何かが起こる。起こってしまうような気がする。


「新聞社にツテがあるのです。まずはそこから騒ぎに火をつけて貰いましょう」

「さすが、顔が広いんだな」

「まぁ、これでもそれなりに名のある家の生まれですしね」


 と、アレックスくんは照れた笑いを浮かべる。


「それでは、早速ボクは出かけてきますね」

「ちょーっと待ったーー!」


 なにやら、小娘が騒いだ。


「どうしたんだ、名もない家の生まれの娘?」

「何を言う! レオンハートの名はそこらの貴族の比では無いわ!

 ……ではなく! その作戦をする上で大切な事は他にもあろう!」

「……他に何が?」

「やれやれ、部下がこうもフシアナでは困ったものだ……」


 いつもの上司ヅラである。

 なんだそのヤレヤレ系ヒロイン。

 いや、別にヒロインだとは思っていないが、通常ヤレヤレ系をやらねばならないのは現代人の俺の方ではないか?


「もうそういう前置きいいからさっさと話せ」


 いい加減面倒くさくなってきた俺は単刀直入に訊ねる。


「ゴエーだよ護衛! 用意周到に大演説会を催しても、それ以前にヤラれてしまっては元も子もあるまい!」

「珍しく真っ当な意見だ!」

「お前、上司のアタシを何だと思ってるんだ……少し凹むぞ……」


 しょげるとは、もっと珍しいものが見れた。


「では、ここは俺たちレオンハート探偵社……聖刻騎士団だったか? ……がボディーガードを引き受けないとな!」

「そういうわけだ! アレックス、貴様の背中はアタシらが預かろう!」

「頼りにしていますよ。お二人に任せるなら、ボクの背後には常に平安があることでしょうとも」


 こういう時、浮かべる笑みに嫌ったらしさがないのは、やはり産まれる家柄にに左右されるのだろう。


 護衛クエスト付きで俺とシーラはアレックスと共に新聞社に向かう。……俺には、ただの警護だけではなく、別の考えもあった。



 闇世の中、夜と同じ漆黒の髪色の集団が駆ける。


 ――アレックス・ウェルズ公爵が国政への参加を表明した。


 手元に携えた紙面にはサイズの大きな飾り文字でそのような文面が踊る。

 黒髪たちは散開すると、街の目立った要所要所へとその紙面を貼り付ける。


 新月の夜だった。

 夜目の効く、暗がり慣れした彼らならではの犯行。


 朝になり、街人たちは初めてその光景を目にすることになる。

 即ち、おびただしい数の紙面が張り出された街並みと、その紙面の内容をとだ。


 ――偽り人問題への革新的な解決策を公爵は公約に掲げる。


「これは先日殺害されたエルドリッチ・ルーサー大臣の意思を次ぐことでもあります」

 そうウェルズ氏は語る。

 詳細は来たる○○日、城前広場にて催される集会にて発表されるとの事――。


 拡散された情報と共に事態は動き始める。

 しかし、今はまだ誰もこの先に起こることを知らない。

 他ならぬ公爵自身も、俺と、協力者たる黒髪たちもまた。


 ――「また、氏を殺害に及んだ悪漢への告発をその場で行うつもりです。もちろん、そのための証拠もある」

 と、ウェルズ氏は過激な主張を述べた。


 また、氏の友人であるA氏は語る――。


――「我々は大臣襲撃の企画犯の正体。そして、それ以上に実行犯の正体について重大な情報を手にしている。

 自首するなら今のウチだぜアウトサイダー? 俺の同類よ。

 俺はお前がどこから来たか知っている。

 そして、お前が持つ情報には興味がある。事と次第じゃお前にとって有意義な取引にしてやってもいい」


 挑発的に。

 A氏は続ける。


――「いずれにせよ。集会の現場で会おう。その方が貴様の身のためだと思うからな」


 実行犯の確保、そしてクロカミ達の未来にも影響する大きな賭が始まろうとしている。

 夜な夜な、集会の噂は街中で増殖していくのだった。

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