第42話 決戦当日

 そして時は集会当日に至る。


 幸いにして、襲撃者がこの日になるまで俺たちの前に姿を現すことは無かった。

 護衛の仕事は半分は片付いたというところだろう。


 問題は、いや、勝負の時は今日この日にある。


 事前に流した情報と張り紙の効果があったのだろう、演説会場である城前の広場は結構な人が集まっていた。


 そしてこの場所は、あの日大臣が襲撃された場所でもある。


 会場の設営もほとんど終わり、辺りには祭りでもあったあの日と同じように露天の姿さえあった、現金なものだと思う。


「アサクラ。近くに怪しい人間は居ないらしい。……今のところは、な」

 と、今回は警備部隊となったクロカミを指揮するシーラが告げる。


「来るなら……やっぱ演説の最中だろ」


 それが一番目立つし、一番ドラマティックだ。

 何もそんな点にこだわる必要なんて一切無いのだが、キザったらしいヤツならやりそうな事。


「とりあえず現状維持だな。演説まではアレックスくんに誰も近付けさせない」

「ああ。モチロン演説中も守り切るさ。

 そして、必ず姿を見せるだろう犯人を、今度こそアタシがとっ捕まえてみせる」


 積年の恨み、とでも言うように彼女は言い放つ。


「――それじゃあ、作戦の最終確認だ」


 俺の手には、今は魔法銃ではなく、あの時犯人の宿から押収したオートマチックが収まっている。



 アレックス・ウェルズ伯爵は演壇に立つが、彼の登場による拍手はまばらだった。


 これからの演説の内容が万人受けする選挙演説などではなく、世間でも異端となる……つまりは、偽り人問題に対する非常に挑戦的な……内容となることは事前に告知されていたのだから、この展開は予想がついていた。


 少数派の擁護、と言えば聞こえはいいのだが、自身の経歴に泥を塗るような発言になってしまう可能性は実のところ凄く高い。


「お集まりいただき感謝します」


 彼は口を開き、浅く頭を下げる。その仕草から嫌味ったらしさは微塵も感じられない。


「暫く、今は亡き僕の友人、エルドリッチ・ルーサーの魂のために祈りを捧げましょう」


 舞台の上で、アレックスくんは両手を組み、頭を垂れた。

 会場の人間もまた同じ動作をする。

 暫しの黙祷の後、彼は頭を上げた。


「さて、何分舞台慣れしているとは言い難いボクのような人間ですので、果たして如何に自らの主張を口にできるのか不安ではありますが……」


 自嘲気味な笑み。

 場馴れしていないというのは事実なのだろう、いつもの彼とは違い、笑みには引きつったものが混ざり、額には大粒の汗が浮かんでいる。


 すると、傍らにいるシーラが告げた。


「アサクラ。連絡があった。

 ヤツは、今、ここに居る」


 彼女も随分と真剣な、緊張した面持ちをしている。

 決戦当日、舞台の幕はすでに上がってた。


*「クロカミが現在ヤツに張り付いてる。今すぐでも取り押さえられるかもだが、どうする?」*


 今取り押さえる事に成功すれば、襲撃それ自体を防げるかもしれない。

 しかし、簡単に襲撃の成功を許すほど、こちらも無策では無い。


「計画通り泳がせる。もし俺たちの読みが正しければ……」


 この舞台は二重の意味合いを持つことになるからだ。


「この演説が持つメッセージ性が更に高められる事になるだろう。

 今度はこっちが奴らの思惑を利用してやろうじゃないか」


 俺の言葉を聞き、シーラは無言で頷いてみせた。

「アタシはいつでもヤツを捕らえられるよう人混みに紛れる。

 アサクラ、アレックスを頼んだ。

 このまま計画通り進めるぞ。Show must go onだ!」


 シーラは犯人の元へと向かう。

 俺は壇上に一人立つアレックスくんの方へと視線を向けた。


「さて、今日ボクが発表すべき事は大きく二つ。

 一つは事前告知の通り、先日のエルドリッチ・ルーサー大臣殺害犯の告発。

 そして、二つ目はボクが彼の意思を継ごうというのは何を意味するか、です」


 告発、という言葉に場内がザワついた。


「本題に入る前に少し歴史のおさらいをしましょう。

 始まりは神話の時代。

 白き神と黒き神が、多種多様な色を持つ人類を創造した際、神はその中に例外的存在を創造しました。

 すなわち、白と黒との両色を持つ存在。

 色薄き肌と色濃き髪を持つ種族、彼らは人が持つ魔力を所持しない事から、生まれながらの忌み人――半人の偽人と呼ばれました」


 アレックスくんの演説は続く。

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