第44話 紅い花弁が舞う
鮮血を表す比喩にはこのようなものがあるだろう。
紅い華が咲いた。花弁が舞った。散った。
三文文士ならぬ底辺アマである俺にはそのような陳腐な表現しか思い当たらないところだが。
実際に、アレックス・ウェルズの胸元から吹き出しているのは実際に紅い色の花弁だった。
アレックス君はイタズラっぽい笑みを浮かべている。
会場からは悲鳴が上がったが、彼の胸元にあるのが大量の花弁であると気付くと人々の表情は一様に困惑したものと変わった。
そして、花びらに包まれたアレックスくんの身体は文字通り消失した。
「ご心配いりませんよ。お集まりの方々!」
会場にアレックスくんの声が響く。
幻影魔術機。
対象のホログラムを任意の地点に投影させる魔法機械。
そんなものがあるのだ、と、アレックスくんは得意げに語っていた。
アレックスくん、正確には彼の映像が投影されていた壇上には、その魔法に使ったのだろう水晶の魔術機械が設置されている。
「残念でしたねエドワード騎士団長!
今あなたが今こうして僕を襲撃した事が、あなたが大臣襲撃を企画した犯人であることの何よりの証拠だ!」
会場に騎士団長の姿はあるのだろうか。
奴は高みの見物を決め込んでいるのかもしれないが、これでアレックスくんの告発は決定的なものになった。
これで、少なくともあの鬼畜騎士はなんらかの痛手を被るだろう。
そして。
「よく現れてくれたな襲撃者! おっと、逃げようなんて考えるなよ!」
アレックスくんに変わり、俺は壇上に躍り出る。
「今度はこっちにもお前の持ってるのと全く同じ銃がある。
複製を思いついたのはお前だけじゃなかったてことだ!」
群衆の中、犯人の姿を探す。
壇上からは人々がどのように並んでいるかよく見える。
人々が銃を撃った男から離れようとした結果、円形にスペースが空いている。
即ち、その中心に居る男こそが襲撃犯。
俺は、ソイツへと銃口を向けた。
「ちなみに、今テメーはテメーが持つ銃の複製品を持つ俺の仲間に……かんっぜんに包囲されてるって事!」
遠くから銃声が連続して轟く。
仲間のクロカミ達が会場と接する通路から天空に向けて発泡した音だった。
襲撃犯は周囲を見渡してたじろぐ。
明らかに鳴り響いた銃声に動揺しているようだった。
「さあ、今度こそ諦めてお縄に付きやがれ!」
……おや、俺までどこぞの自称騎士の口調がうつっちまったかな……。
しかし、男は俺の恫喝に対して思いもよらないような行動を起こした。
いや、俺のツメが甘かったのだ。と、即座に後悔した。
ソイツは手近な人間に掴みかかると、銃を突きつけ、人質に取ろうと――。
「この腐れ外道……!!」
その場でコイツを撃ってしまおうかと思った。
それを一瞬思いとどまったのは、自分の射撃能力に全く信用が置けず、下手をすれば人質か、あるいは周りの人間に誤射しかねないと判断したからだ。
そう、そのように判断してしまったのだ。
この能無し根性なしの自称ヒーローは……。
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