第8話 普通の貴族からは信用された話。
「出たな、似非貴族」「出ましたわね」
女性陣からはどうしてか非難の声が上がった。
少年の着ている衣類は見るからに品が良さそうで、髪は目の上で綺麗に切り揃えられている。その髪色はアッシュかチャコールに近い少しくすんだ色のブロンドだった。
身につけた細やかな貴金属製のアクセサリーは嫌味ではなく、決してチャラチャラしているどころか、むしろ持ち主の品の良さを表している。
口調はどこまでも穏やかで教養を感じさせる。
どこぞの鬼畜金髪騎士が目つきの鋭いイケメンだとすれば、今前にいるのは愛らしい美少年の部類に入るだろう。
「そして、初めまして。黒髪の旅人さん。
アレックス・ウェルズです。どうぞお見知り置きを」
爽やかスマイルを浮かべ握手を求めるその姿はまさに若き紳士。
「アサクラ・カイだ。こちらこそよろしく頼むよ」
「カイ、とお呼びしても?」
「ああ。好きに呼んでくれよ。……って、あれ? さっき君、俺の事『旅人』って……?」
「ええ。確かにそう言いましたよ。遠い国からこられたのですよね? たしか、ここでは無い別の世界だとか……」
その一言に俺は目をパチクリさせた。
嘘だろ。俺を信じてくれただって!?
異世界人であることを認めさせる。俺の目的はこれにて達せた。よし第一部完!
「ワオ! アレックスくん! 見る目があるのは君だけだよ! 是非とも仲良くしよう、さあさあ隣に座ってくれ!」
……いや、完じゃない。何も終わっていないし始まってさえいない。
握手に応じるどころじゃ無く俺は熱烈に手を握り返すとブンブン振る始末だった。
やっぱり分かるやつには分かるんだ。そうだよな。見るからに異世界人然としている俺なのだし。結局のところこれは狭量な価値観、世界観しか持たない一部の人間が疑っていただけなのだ。
「水を差すようで悪いが、やめとけアサクラ。そいつの場合は少し事情が違う。確かに本物の金持ちだが、そのせいで余計にタチが悪い、付き合う人間は選べよ」
「またまた、人聞きが悪いですよレオンハート卿」
柔和な顔でシーラに大人の応対をする姿はかなり手慣れていた。実に紳士スキル高い。
四人がけテーブルで俺の隣に座った彼であるが、椅子を引くという当たり前の動作が既に『尊い』。あとなんか良い匂いがする。
「ここで知り合ったのも神の思し召しですね。カイ、いざとなったらボクを頼ってくださいね。それに、偽り人のような立場の人間を救うために、ボクらのような立場があるのですから」
弱気を助けて強きを挫くを公言してたどこぞの似非騎士(スリ)とは比べ物にならない説得力だ。
「この世界で生きたいとあれば微力ながら力を貸しましょう。あるいは同じような境遇の異世界人を見つけて、カイが元の世界へ送る手伝いをしたっていい。是非ボクに協力させてくれませんか?」
あまりにも慈愛に満ちた言葉に、一瞬背中に後光が見えた気さえした。
一方の女性陣二人はジト目で睨みつけてドクペ(酒)をガブガブ飲み続けている。
「あのお二人は疑われているようですが……、大丈夫、ボクは信じますよ!」
「お、おお……アレックスくんマジ紳士!」
マジ天使の上位互換である。
さて、元の世界に帰る……か。
最近それを目的にしてる小説って見かけないよな。そもそも俺のように『迷い込んだ』だったり『アブダクション』された系は転生ものではなく『転移もの』に分類されるし、『一度死んだ』ことをもってなんでも『転生』になるのかという問題もある。『異世界で生まれ直す系』は字義通りなら間違いなく転生ものなのだが……。と、異世界転移・転生譚というジャンルには凄く曖昧なものがある。
近年このジャンルのトレンドは元の世界の帰還ではなく、異世界で一旗あげる作品が優勢なのだが、かと言って俺には元の世界への未練がないわけではなかった。
ああ懐かしのサブカル! アニメ、マンガ、ラノベ! そしてネット! スマホの電波がなぜか届くぐらいのチートスキルが割と真剣に欲しい。
「アレックス? お前もコイツに見覚えないわな?」
「ええ、昨日ご不幸(暴行)に遭われたときに初めてお見かけした次第でして……」
「できればその時助けて欲しかったんだけど……」
「な? コイツは平気で見て見ぬ振りをするようなヤツだぞ? 信用するなよ、アサクラ騎士見習い……!」
この自称騎士、マジモンの貴族と騎士道精神でも競ってるのだろうか?
あとシーラ目が座ってるし顔赤らんでるし。このドリンク、アルコールに準ずるものがやはり入ってると思われる。
「早速ボクに君のこと、君が居た世界の事を教えてくれませんか? 君は……君は本当に素敵だよ!」
『素敵』という言葉にはどのような意味があるのか知りたい気がするが、あまり気にしないでおくことにしておく。
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