第9話 手がかりの刺青と心霊魔術

 しばらく俺はこの世界に来たことの経緯や、元の世界の事なんかをアレックスくんに話した。あまりにも彼は楽しそうに話を聞いてくれるので、ドクペの力もあってかすごく今俺は気分が良い。


「分かってうのはアサクラ騎士見習いはどうも妙にゃ衣類を着ている事、『なぜかコチラの言葉が話せる事(強調)』、そして、このガラクタにゃ」


 スープとパンを三回おかわりした後、結構な量のドクペを飲んでいるシーラの呂律はそろそろ怪しくなりつつある。


 やはりこのドリンク、アルコールに準ずるものが入っている。


 ……準ずるものだ。断じてアルコールではない。


「へぇ、これはこれは興味深い!」スマホを手にするとさも楽しそうに彼は言った。

 ああ。これぞ俺が望んだ反応……アレックスくん、君はなんていい奴なんだ。なんて異世界ファンタジー然としているんだ。彼を見ていると心がほっこりする。

「あと、左手の刺青だにゃー……」

「え? 刺青……?」

 そんなもん彫った覚えはない。


 左手の甲には見慣れない絵か図形のようなものがあった。しかも見るからに結構禍々しい。謎の翻訳能力を持つ俺だが、それがどういう意味のものなのかは理解できなかった。


「魔法陣……の様にも見えますね」とアレックスくん。

「はっ! やはり俺は何か重大な使命があってこの世界に召喚されたのか!」


 どうせなら世界を救う使命とかあっても良いのに。あとチートスキル。

 ……じゃなくて、早速だけど尻尾を掴んだぞ俺に細工をした『何か』!


「ふむ……どこかでこれを見たことがあるような……?」

「本当かアレックスくん!?」


 意外とこの一件の解決はすんなりと行くのかも知れない。


「調べますよ、カイ。あなたの頼みとあれば」

「ぜひ頼むよ。そうだ、アレックスくん。頼まれついでに聞いて欲しいのだが、例えば、人の心を操作する術……魔法、呪い、マジックアイテムっていうのに心当たりはないだろうか?」

「カイ……? 今なんと……?」

 突然顔色を変えるアレックスくん。


 あれ? やはりこれは聞いてはいけない質問だったか?


「だから……人の心だったり、認識を書き換えることが出来る術というのに心当たりはないかなと……」


「カイ! それは……!」と、アレックスくんは立ち上がる。俺は何かとんでもない地雷でも踏んでしまったのだろうか……?


「ボクが追い求め続ける魔術史上最大の謎にして禁忌……『心霊魔術』!!!」


 彼の声量が2割ほど上がった。


 ……あかん。なんか妙なスイッチ押してしまった。

 同時に静まり返る店内。


(また始まったぞあの変態……)(ざわざわ……)

 というささやきが辺りで交わされている。


「アレックス……声がデカイんら、そんなマユツバものの話追っかけてうのはお前ぐらいにゃん……」

「なにをおっしゃるレオンハート卿。心と霊、精神と魂に影響を与える魔術は古来より研究されてきました……! しかし、今まで誰一人その真理に到達できたものはいなかった!

 カイ、君がそれを知っているなんて!」

「いや、俺は別に……通訳が魔法でできれば便利だろうにと思ったぐらいで……」

「ますます君に興味が湧きました! 是非ボクら二人で魔術界に革命を起こしましょう……!!」


 目を輝かせながら俺の手の平を両手でがっひり握りしめるアレックスくん。近い近い顔が近い。駄目だ、彼は彼で変な酔い方をしている!

 騎士見習いだけでも手に負えなくなりそうなのに君まで俺に妙な役職を押し付けるんじゃない!


「けど……アレ? 魔法で心が変えられるのなら、案外アサクラくんの以前の記憶の方が上書きされた『設定』って可能性も……」

「当然じゃないですかカンナ嬢! 心霊魔術にかかれば人口記憶の植え付け、人格の書き換えだって夢ではありませんよ!」


「なっ……!」

 なにを言いだすんだこの人達は!?


「い、いや。違うんだ! カイのことを疑ってるんじゃなくて……!」


 なんで俺だけ扱いがコズミックサイコホラーなんだよ。ちょっと異世界に迷い込んだだけで人のSAN値を勝手に削らないでいただきたい。

 俺だけ邪神にでも憑かれているのか。


「思いつかなかったわけじゃないけど! その仮説マジで怖いからやめていただけません!?」


 ……それでも、俺はこの無意味かもしれない主調をやめるわけにはいかないのである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る