第28話 幽霊屋敷と猫
翌日、俺はゴシックな洋館の呪術的な意匠をされた門の前に立っていた。「汝すべての望みを捨てよ」と言わんばかりな地獄の門のように毒々しい。
門を開けると、屋敷に向かって白い道が続いている。小道は森と言って差し支えない木々に両脇を覆われていた。
「やっぱ……豪華な家に住んでるんだなー……」
何を隠そう、この屋敷はかのアレックス・ウェルズ卿のご邸宅である。
突撃! 隣の貴族邸! なのだ。
道筋はシーラからざっくり説明を聞いた。無事たどり着けて良かった。彼女の方は私用だとかで今日は別行動だ。
いいだろう。ここは男同士腹を割っての話し合いが必要とされる場面だ。
黒髪の件で交渉がしたかった。協力してくれるのかは分からない、けれど彼以外に頼れる人間がいないのも事実だ。
ここは黒髪代表としてのおれの初仕事といって差し支えない。
しかし、このレベルの屋敷なら見張りの一人二人立っていてもおかしくはないのだが、まったく人気がない。先ほど森と評した庭の木々も……あまりにも鬱蒼と茂りすぎている。
はっきり言って怖い。はっきり言って不気味。なんか、幽霊屋敷系のダンジョンにいる気分なんだけど……!!
なんで友人宅に訪問してるだけなのにRPG要素が襲ってくるんだ……!? こちとらステータスの表示さえできんのだぞ……!
そして、植え込みから飛びかかってくる影……!
「エンカウントした!?」
この後に及んで戦闘要素を盛る必要は無いぞ異世界の女神! ……いるのか知らないけど。そもそも俺は丸腰なのだが!
「にゃー」
「あ、なんだ猫か!」
狼とかならともかく、猫と遭遇して戦った挙げ句、皮を剥いでアイテム入手なんていう物騒なファンタジーものはどこを探したって存在しないはずである。
あってたまるか。なにせ『ぬこ様』だぞ。
流石に猫なので、身体の大きさもそう大きいものでは無い。可愛い動物である。
緑色の澄んだ目が悪がしこそうであり、丸っこい顔はやっぱ可愛い。
「おいでー」
そして、猫を見るなりなぜか構いたくなるのは人間の脳の奥の方にインプットされている本能なのである。
「にゃーん」
おお、人懐っこいじゃないかこの子。
飼い猫かな? だとすればアレックスくんの猫か……?
「ぱたぱた」
背中から生えたコウモリの翼ををパタパタさせて空中に浮遊するニャンコ。
……ま、魔獣とかなのかな? この子……?
そういえば、常識的に考えて猫より安全そうなウサギが敵キャラだったゲームもあったなー。
そして、敵キャラは敵キャラであるという鉄の掟には逆らえなかったりするものなんだよなー。
『魔獣』とか物騒な名前がついてるには大抵訳があって、いくら見た目が可愛かろうと人を襲うし、場合によっては食い殺す、故に討伐対象なのだというのがファンタジー世界の掟、世の理だという『設定』は数限りなくある。
もしかして、ゲームであったら既に戦闘開始BGMが鳴り響いている感じなのだろうか。
こんなところで生命の危機……!?
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