第26話 『普通の』男子高校生なのだから、むしろこの状況は利用するべきではないのか?

 こういう物騒なものはなるべくアイツの目には見せたくなかったんだけど、本気で隠しようがなかったため、結局シーラには最初から白状しておく事にした。


「こんなものを貰ってしまった……」


 帰宅途中の道すがら、荒布に包んで胸元に隠したりしていた例の銃を見せる。


「…………(ギロリ)」


「お前、ここでそんなもん出すんじゃない!」みたいな事までアイコンタクトで読み取れる様になってしまった俺である。慣れって怖い。

 一応、仕舞う。


「ええとだ……、もしかして俺ってマジに身の危険を感じるべき立場だったりするのか?」


「そうさせてしまった責任はアタシにもあるんだろうな。アタシも正直よくわかっていないけど。たかだか髪色一つで何が違うというんだ……?」

「……なんか、『そういうもん』なんだろうな。シーラが気はする必要はない。これは俺自身が決めたことだから」

「しかし、身の危険か。だから、サポートするといっただろう? そういうことだ!

 まぁ、その、なんだ。お前は『相棒バディ』だからな! あたしの片腕に無くなってもらっては困る……」

「片腕って、探偵王の方? それとも騎士の方?」

「両方だ! 『相棒バディ』というより『部下』といった方が良かったかな! 正直お前が口だけのタマナシ野郎じゃなくてアタシは安心したよ!」

「乙女がタマナシ言うなよ……」


 しかし、ちょっとよくわからないけど、これは新手のツンデレ? 今のが噂に聞くデレか?


 ……そういえばこの残念な小娘も娘は娘に違いないのである。一応、ガールはガールなのだ。

 異世界に転生あるいは転移してしまった人間はみなリア充になってしまうのは物語の必然と言われている。主人公補正というやつだ。


 ええと、もしかしてその物語的必然が、この俺にも適応されている……!?


「なぁ、お前って……いくつだっけ……?」


 出会った当初に聞きそびれていた質問をする。


「ん? なんだ急に? 18だが?」

「いっこ上だった!?」


 年上というか、同年代の少女だったという事実を俺は認めるべきなのか。年齢の変わらないない少女とひとつ屋根の下展開だったよな俺の今の状況!? いっこ上!? ポジション的には先輩的な!? なにそれ!?


 いや落ち着け、この棚ぼたリア充展開は何億もの物語において使い古されてきたお約束である。驚くほどではない。

 こんなところにもお約束の適応がなされていたのか……。だが、こっちは多分、まじないや女神などが原因ではないだろう。


 俺は隣を歩くシーラの顔を見つめる。


 整いまくってる方ではない。

 時々妙に達観した顔を浮かべるが、基本的に幼い顔つきをしている。

 表情はコロコロ変わるのでぶっちゃけ見ていて飽きない。


 背丈が小さいのはもしかすると、成長期に栄養失調をきたすと発育不全に陥るという、極めて笑えない理由なのかもしれない。

 自称騎士なのはどこかに頭をぶつけたか、中二病的なキャラ設定か、なにか悪いものでも食べたのかと思っていたが、案外、相応な理由を持っているのかもしれない。そう考えると、なかなかミステリアスガールなのは認めざるを得ない。


 ……え? もしかして俺が気づかなかっただけでこの子って『攻略対象』だったのか……? 選択肢次第ではここから甘ったるいラブコメ展開に分岐する……のか……?


 この手の異世界ファンタジーでは、基本的に主人公は恋愛脳とは程遠く、鈍感でなければならないが、何故か周りは女の子だらけでモテまくって仕方ないと相場が決まっているのだ。


 もしや、この世界は俺を導こうとしているのだろうか? 男子憧れのハーレム展開というやつに……。

 いや違う、ハーレム展開より熾烈である本命一直線展開に……!?


 待て。隣の女をよく観察しろ。

 まず考えるのだ。

 こんなちっこい見た目の子供に恋愛感情などそそられるわけ……。


 A.一応いっこ上です。発育がおそろしく悪いのだって、むしろ可愛さを増やす要素と言えなくもないです。


 ふむ。年齢的にはセーフか。だが別に、可愛いとか俺は思っていな……い、よな?


 しかしまぁ、釣り合いが取れない、さすがに俺なんかだと……。


 A.相棒バディです。一心同体です。身分ならほぼ同等。


 別に……、こいつだって俺に関心があるわけでもなぁ?


 A.この間の買い食い、完全にデートでしたよね? まさかあなたは好きでもない相手に彼女があんな顔を見せるとでも?


 ……。


 A.正直あなた悪い気もしてなかったですよね? で、どうなんです? 小さくて小動物のように愛くるしい彼女が、あなただけに見せる特別に緩みきった表情?

 今更二人の関係が少々甘ったるいものにジョブチェンジしたところで誰も困らないし、これ、あなたにとっては、所謂『役得』って奴じゃないんですかーwwww



 何この……今まで自分が感じたこともないレベルの意地悪で黒い深層意識!?



 ……さあ、この立場を悪用せずにどうする?


 隣りにいる娘は問題児だが、言うだろ? 馬鹿な子こそ可愛いと。

 向こうもお前を相棒パートナー扱いして慕っているではないか。

 彼女の好意は、それこそ普通の『男』として受け取って……いや、それを育まなくてどうする?


 言ったよな、彼女。


 お前はそんな『タマナシ』じゃないと……!


 さあアサクラ・カイ! ここが男の見せ所だ……!

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