第36話 探偵王の推理
相変わらずウチのリーダーは頭のネジが一ダースほど消し飛んでいるに違いないだろう。
「とにかく捕まえて! あとは適当にしごいて白状させてしまえばウチらの勝ちだ!」
「いや、無茶だろ。そもそもどこに匿ってるのか……?」
「それに関しちゃーちっとばかりアタシに作がある!」
「またろくでもない脳筋戦法じゃないだろうな?」
「おいアサクラ助手? 所長のアタシへの口の聞き方には気をつけ給えよ!」
……俺が助手だったことは記憶にあるが、所長って今度は何にジョブチェンジしたのだお前は。
「ブラフは半分だと言っただろうアサクラ助手?
以前言っていたじゃないか、犯人はお前と同国人だと」
「確かに言ったが……それだけだと見つけようがないだろ?」
「そうとも言えんぞ。最近、よそ者は見かけなかったかと黒髪探偵社の人海戦術で調査中さ」
「いや、『よそ者』ってだけだと範囲が広すぎるし」
……それに、被差別人種のクロカミにわざわざ情報を提供してくれるほどこの街の人間は甘くないみたいだし。
「お前と同じように……ええと、なんだ、異世界から……いや、『どこか』からフラッとこの街に現れたというなら、そりゃー金も無ければ食いっぱぐれてて住むにも困ってるに決まってるのだ!」
異世界出身の部分は全肯定されないのだな。
「あと、絶対変な服着てるはずだから丸わかりだ!」
「物凄い絞り込み方だなオイ……」
「金に困っていて、手元にはアサクラの言った『不思議な銃』ぐらいしかなかったのだと言うなら、騎士団あたりに取り入って暗殺者稼業を始める可能性は大いにありえる!」
「ありえる……のか? それ……?」
イマイチ肯定し難い論理だが、あの騎士の反応と、実際に『俺の世界の銃』が犯行に使われたのは事実だ。
……それにしても、ちょっとコンビニ行くつもりでスマホを持っていた俺の場合と違い、ハンドガンなんか所持した状態で異世界に移行してしまうなんて、どういう仕事や生活をしていれば起こり得るのか?
もしかするとヤバい奴なのかもしれない。
いや、大臣の殺害をしでかしてしまっているのだから、ヤバい奴に決まり切っている。
「住所不定無職、所持金いくらもない人間が寝床にするとすれば場所はスラム以外にあるまい。そしてスラムはウチらのホームグラウンド!」
「騎士団が……それこそ兵舎なんかに匿ってる可能性は?」
「……む、水を指しおって……その可能性は無きにしもあらずだが! 後ろ暗い目的でこき使おうって奴を飼い殺しにするには兵舎というのは余りにも手元に置きすぎだろう。それこそ発覚すればあの阿呆騎士の首が一瞬で飛ぶだろうな」
「なるほど、ひとまずスラム街の安宿にでも泊まらせておいて……後は逃がすなり消すなり……」
アレックスくんはシーラの推理に感心しているようだった。
「兵舎や騎士団管轄の施設に犯人が潜んでいないかはボクの方で調べておきましょう。なんとか……古い友人を頼れればいいのだけれど……」
「スラムの安宿の捜査はアタシ達に任せろ! よし! では早速出発だアサクラ助手!」
古い知り合いに会いに行くというアレックスくんとはここで一旦別れ、俺はシーラと共に街外れにあるスラム街へと向かう事にした。
どうやら、シーラが組織した黒髪探偵団の皆もそちらに待機しているらしい。
☆
道すがら、隣を歩くシーラの顔を眺めながら俺は考えていた。
――思えば犯人が発砲したその直後、真っ先に奴を追いかけていったのはシーラだった。
そういう所が、非常に危なっかしいのではあるが、同時に――。
――そんなところが、頼りになるところでもあるのだ。
図々しくも、ふてぶてしくも。
いや別に、惚れてねーけど、元世界で彼女持ちですしね俺(フラッシュバック参照)。
……全く、俺は何故、一瞬でもコイツを攻略対象視したのやら。
改めて異世界トラベラー・アサクラカイの存在を証明せねばなるまい。
……というか、しかし……、俺は果たして元世界へと戻れるのだろうか。
おおよそ昨今の異世界転生譚や異世界転移譚において目的とされるのは、主人公の異世界での自己実現であり、要するにそれはビルディングスロマンだったりするわけで。帰還を目的とする物語は、多分減り続けている。
ならば、この異世界で、クロカミの解放というビルディングスロマンと、自身の帰還とを俺は天秤にかけているのだろうか?
かけているのだろう、多分きっと。
いくらこっちで上手くいこうと俺は現世界の……リサの……存在を無かったことにする事はできないだろう。
……ついさっきまで忘れていた、俺にそれを言う資格はないかもしれないけれど。
俺がやってきた通り道はは一方通行にしか出来ていないのではないか、という不安は常に付きまとう。
それを決めるにはまだ時期尚早だろう。今のところ、俺はこの世界のほんの少しのことを知っているに過ぎないのだから。
彼女のことを忘れていたことに自己嫌悪を感じる反面……、
いやー、余計なこと思い出しちまったな。と、思わざるを得ないのだった。
☆
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